第四話 日本国の残党、森の民

 松明の明かりに照らされ、その者たちの姿が見えてきた。

 黒い髪に黄色の肌、清潔な軍服のようなものを着ている。

 ダンとマイクを約二十人ほどで囲い、こちらの様子を伺っているようだ。


「おまえらもしかして、日本国の残党か」


 マイクが睨みつけながら言うと、一人の男が出てきた。


「日本国か、懐かしいな。残党と言われれば、そうなのかもしれないが、我らは針葉樹の森に住む、『森の民』だ」


 その男は、綺麗に整えられた黒い髪と、整った顔。黄色人種で、腰には鞘に収まる日本刀をぶら下げていた。


「森の民だと」


 マイクが言う。


「そうだ、お前たちこそ何者だ。返答によっては生きては返さぬぞ」


 男は鞘に納まる刀に手をかける。


《返答を間違えば、この場で処刑されるのだろうか。日本国の残党とゆうのならば、マーフ王国に恨みを持っているはずだ。だが、ゲリラ王国だと伝えれば、生き残れる可能性が...》


 マイクの考えがまとまり、声を出そうとした時。



「俺たちは、マーフ王国の民だ」


 ダンが立ち上がり、威勢よく発した。


 マイクは振り向き、フラフラで立っているダンを、顎が落ちそうな顔で見つめる。


「お、おまえ」


 マイクが放心状態でいると、ダンはそのまま後ろに倒れてゆく。


ゆっくりに見えた、その光景だが、ダンの後頭部が地面に付いたその瞬間。


「捕らえろ」


 男の一声で、一斉に松明の灯りが近付いてくる。


 マイクの目には、男が背を向け歩いてゆく姿が見えた。

 その姿を目に焼き付けようと、瞳をめいいっぱい開いた時には、頭から布を被せられ、腕を縛られた。

 二人は、またもや暗闇に案内されてしまったのだった。


「ほら、歩け」


 森の民の一人に背中を押され、腕を後ろで縛られているため、転びそうになるマイクとダン。


 無理矢理に歩かされているダンは、今にも倒れてしまいそうだった。


 ここまで来ると、二人の目も暗闇に存在していることに馴れてきていた。


 どのくらい歩いただろう。

 針葉樹を縫うように歩いていると、足の裏の感触が、泥を踏むような感触に変わった。

 ベチャベチャしていて歩きづらい。空気もジメジメし、水辺のような場所に連れてこられたことが分かった。


 周囲の雰囲気が変わり、子どもや女の声も、ちらほら聞こえる。

 森の民の集落で間違いないだろう。

 ダンとマイクは、そのまま建物の中に連れられ、座らされた。


「顔を見せろ」


 ドスの利いた声が部屋に響くと、二人を連れてきた森の民は、布を雑に剥がす。


 テントのような部屋は、意外にも広く、夕焼けが、天井の通気孔だと思われる穴から、漏れ出ている。

 麻柄の黒い甚平のような服を着た、短髪で黒髪の男の顔は、傷跡だらけ。骨が太いのだろう、全身がガッチリとしている。

 


「マーフ人とゲリラ人、といったところか。わざわざ殺されに来たのか」


 男は前屈みになり、二人の顔を覗き込む。


「ゲリラ人ってのは、本当に目が青いんだな。それにマーフ人、赤毛だ」


 男は二人に興味を持ったのか、ジロジロと観察を始めた。


「もともと日本国に、こんな奴らはいなかった。馬鹿な爺さん達のせいで、日本国の経済は破綻。島国とゆうこともあり、こぞって諸外国の野郎どもが、ばんばん土地を買収していきやがった。マーフ王国の国王のことは、よく知らんが、そいつのせいで日本国は、完全に消滅した。だがな、おまえら、知ってるか。日本国ってのはな、最強なんだよ。どんなに不利な状況であろうが、最終的には勝っちまうんだ。分かるか」


 男はマイクとダンの前でしゃがみ込み、巻煙草に火をつけた。


 煙を肺に溜め込むと、二人に向かって盛大に吹きかける。


「マーフ王国だって最強だ」


 呂律の回っていないダンが男を睨みつける。


「やめろって、おまえさっきからどうしたんだよ」


 マイクは、ダンを静止しようとしたが、腕を後ろで縛られているため、身動きが取れない。


「おまえらは、マーフ王国に負けたんだ。なんの対策もせずに、なんでもかんでも検討します、検討しますで逃げてきたツケが回ってきたんだよ」


 ダンは止まらない。

 精神があまりにも擦り減ってしまったため、感情のコントロールが効かなくなっているのだろう。


 マイクは、恐る恐る男の顔を見るが、その顔は至って冷静だった。


「おまえは、愛国心の塊か、そうやって洗脳されて育てられたのか。または、ただの馬鹿か。言葉の使い方には気を付けろよ。今ここで、お前らの首をハネることなんて造作もない事だ」


 男は人差し指を、ダンのおでこに当てる。


「ま、待ってくれ。俺たちは、マーフ王国から来たのは確かだが、マーフ王国の敵対勢力である、ゲリラ王国の民なんだ」


 マイクは男に向かって言う。


「ゲリラ王国だと。そんな国、聞いたことないな。とうとうゲリラ人どもが、国を作ったのか」


 男はマイクを見る。


「そうだ。秘密裏に動いている。マーフ王国の壊滅のために活動しているんだ」


「ほう。マーフ王国の壊滅か、それは面白そうだな。だが、どうやって信用したらいい。俺らはゲリラ王国の存在を、今、この時まで知らなかったのだぞ」


 男は威圧的だ。


「ゲリラ王国の民には、左胸に傷がある。確認してくれ」


 マイクは男に言うと、部下を使いマイクの左胸の傷を露出させる。


 夕焼けに染まった、マイクの左胸には、深く『✕』の傷が彫られていた。


「痛かったろう。それ程の覚悟があったとゆうことか。よし、おまえも見せてみろ」


 男は、ダンの左胸を確認しようと服に手をかけた。


「待ってくれ。こ、こいつは」


 マイクが男を静止しようとしたが、遅かった。



「おまえには、ないみたいだな。やはりマーフ王国の犬か」


 男は、ダンの首を掴んだ。


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