48.準備委員本格始動

都は教室の机の上にだらしなく顎を乗せ、眉間にしわを寄せてプリントを見ていた。

昨日、準備委員の集まりで配られたプリントだ。


何やら体育祭当日までのスケジュールがびっしり書かれている。

やる気のない都は、それを読む気にもならない。

あの時の安易な自分の行動を、昨日からずっと悔やみ続けている。


「そのブサイクな顔やめたら?」


酷い顔つきに見かねて静香が声を掛けた。


「だってぇ・・・」


都は口を尖らせた。


「クラスの種目別の出場者を決めるのも準備委員なんて・・・。しかも今日中にって・・・。こんなの委員長が決めてくれればいいのに・・・」


「うちの委員長に任せたら漫談が始まるだけだから、都と田中君が進めてくれた方が早く決まる気がするわ」


「そう・・・?」


都は顔も上げず、上目づかいで静香を見た。


「うん。最悪、都の采配で決めちゃっても、文句言う人いないんじゃない? 特に男子は」


「その方がもっと無理・・・。誰が何を得意なのかさっぱり分からないもん・・・」


「・・・そういうところ、妙に真面目よね・・・」


「?」


都は不思議そうに静香を見たが、すぐにプリントに目を戻した。

想像以上にやる事がてんこ盛りだ。


「これじゃ、図書室に行けないどころか、一緒にも帰れないかも・・・」


都は両手を投げ出し、プリントの上に顔を突っ伏した。





ホームルームの時間を借りて、田中が教壇の前に立ち、都が黒板の前に立つ。


全員参加以外の競技は思いの外少ない。

しかも、田中が自作のリストを見ながら、徒競走やリレーなどは陸上部を優先に、次に他の運動部の生徒をあてがう形で、サクサク進む。


都は黒板に競技名と参加者名をカリカリ書いていった。


残りの競技は、台風の目や、玉転がし、借り物競走、二人三脚など、若干お楽しみ要素のある競技なので、運動偏差値の低い生徒たちの間で、ワイワイ取り合いになった。


だが、不人気なのが借り物競走。


その他はグループで競うのに対し、これは一人参加のレースだ。

他の競技よりハードルが高い上に、どんなお題が出るか分からないという不安が不人気の理由だ。


準備委員の田中と都は、仕方なく自ら率先して不人気な競技に名を連ねた。

果たして、静香の言う通り、想像以上に速やかに種目別出場者は決まってしまった。


しかし喜んでもいられない。

出場者が決まったところで、都は仕事から解放されるわけではないのだ。

この後は準備委員の会議がある。

皆が下校する中、楽しそうな田中に引き連れられて、準備委員の集まりに出席した。


テストが明けた解放感からか、初めての集まりでは不貞腐れていた生徒たちだったが、今は皆一様にやる気が見える。

しかも、体育祭当日まであまり日数もない。

その焦りからも、必然的に生徒たちには「やるしかない」という気持ちが芽生えるようだ。


そんな中でも、都は相変わらず乗り気がしない。

ぽけーっと会議に参加していたため、


「神津さんは、俺と同じ担当でいいよね?」


やる気満々の田中の言うままに、気が付くと自分の役割分担が決まっていた。





「じゃあ、明日から皆さん作業をお願いします」


担当教諭の挨拶と共に会議が終了し、都はやっと解放され、ホッとため息が漏れた。


「お疲れ、神津さん。今日も途中まで一緒に帰ろうよ」


昨日、一緒に下校を許された田中は、もちろん今日も、そしてその先も、都と一緒に下校をすることを望んでいる。

席から立ち上がりながら、都の方に振り向いた。

だが、すでに都の姿は席に無い。


「え? あれ・・・?」


「じゃーねー、田中君! 頑張ろうねー! また明日―!」


都は多目的ルームの扉から田中に手を振り、どこかへ走って行ってしまった。


「え? 神津さん??」


田中は唖然と都を見送るしかなかった。

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