35.勝負!
「・・・許嫁辞めたいって言ったくせに、何で都にこんなことするの?」
都はまだ肩で息をしながら和人に尋ねた。
和人は目を丸めたまま、答えない。
「ねえ! どうして?!」
許嫁を辞めたいと思っている人が、どうしてここまでしてくれる?
自分の勉強だってあるのに、まったく関係のない人の世話をここまでする?
ちゃんと、他に理由があるでしょう!
「それは・・・、もう、許嫁じゃないし、一緒に勉強することはないから・・・。でも、いきなり一人でテストは大変だろうと思って・・・」
どうしてそんな苦しい言い訳をするの?
本当に嫌なら、いきなりだって手離せるはず!
都はじっと和人を見つめた。
和人の目の下には暗がりでも分かるほどに、はっきりと隈ができている。
都のノートを作るために、ほとんど寝てないのは明らかだ。
そこまでしてくれるのに、なぜ、あなたは素直にならないの?
私に伸ばした手を途中で下ろすのはなぜ?
どうしてそのまま私の手を取らないの?
都は大きく深呼吸した。
そして人差し指で和人を指した。
「和人君! 都と勝負しよう!」
★
「しょ、勝負・・・?」
和人は目を白黒させて都を見た。
「そう! 勝負!」
都はビシッと指差したままだ。
そして和人に向かって叫んだ。
「今回のテストで、都一人で頑張って200番以内に入ったら、都の願いを一つ叶えて!」
「・・・200番?」
「そう!」
「・・・普通科コース350人中の?」
「そう!」
「・・・都ちゃん、前回、160番以内だったよね・・・? 目標下がってない?」
鼻息荒く宣言している都の前で、和人はポリポリと頬を掻いた。
「だって、あれは和人君と勉強したからよ! 今回は都一人で戦うのよ?! 本当なら250番って言いたいところだけど、これがあるからハードル上げたの!」
そう言って和人からもらった紙袋を掲げた。
「確かにいきなり一人は大変だもんね! だから、これはちゃんと使わせてもらう!」
「・・・じゃあ、せめて、半分以内の175番以内とか・・・」
「絶対に不可能なことじゃ、勝負にもならないでしょっ!?」
「・・・」
「それからもう一つ・・・」
都はもう一度、ビシッを指差した
「和人君が、もし3番までに入れなかったら、罰として都の言うことを一つ聞くこと!」
「え・・・? 罰・・・?」
「そう!」
都は紙袋を抱きかかえ、フンっと顎を上げた。
「だって、和人君、いつも3番以内じゃない。だから、4番以下になったら罰が当然でしょう?」
「・・・」
「1番取ったっておかしくないんだから、そんな人に3番以内に入ったからってご褒美なんて変だし」
「・・・ちょっと、なんかおかしい気が・・・」
「何が?」
「いろいろと・・・」
「そんなことないわ!」
都はキッと和人を見据えた。
「とにかく、勝負よ! 都が200番以内に入ったら願いを一つ叶えること。そして、和人君が4位以下になったら都の言うことを一つ聞くこと」
「二つあるんだ・・・」
「そう!」
若干呆れ顔の和人に、都は大きく頷いた。
「もちろん、勝負だから都が負けたら、和人君の言うことを聞くわ」
「え・・・?」
「200番以下だった場合は、都が和人君の願いを聞く!」
「・・・僕の願い・・・」
和人は呟いた。
(僕の願い・・・)
目の前の都を見た。
都はしっかりと和人を見据えて立っている。その目は決して揺るがない。
めちゃくちゃな要件を提示しているのに、堂々した態度のせいで返って清々しい。
真剣な都の顔に、和人の心臓がトクントクンと音を立て始めた。
「もし、都が200番に入れなかったら、和人君の言う通り、許嫁やめる」
「・・・え・・・?」
和人は急に手先が冷たくなる感覚を覚えた。
それと同時に、音を立て始めた心臓が静かになっていく。
「じゃあね! おやすみ!」
都はくるっと向きを変えると、走って行ってしまった。
慌てて門扉まで駆け寄ったが、都の姿は角を曲がって見えなくなっていた。
(僕の願い・・・)
和人は門扉を握り締めて、暫く立ち尽くしていた。
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