33.同じ教室で
翌日の放課後も、都と静香は図書室に出向いた。
都はカウンターを確認するが、まだ和人は来ていない。
昨日と同じ席を陣取り、いざ勉強道具を広げた。
気合を入れるために、家から持ってきた「闘魂」鉢巻をキュキュと頭に巻いた。
しかし、瞬時にシュルシュルっと解かれ、クルクル巻かれるとカバンにしまわれた。
「こういうのいらないから」
静香に諭され、都は口を尖らせた。
「う~。気持ちの問題だって大事だもん」
「都は気持ちで終わっちゃうから、逆にしない方がいいの」
「・・・」
そこに昨日同様、高田が現れた。
「今日も、一緒にいいかな?」
「あ、高田君。昨日はありがとう」
高田に気が付き、静香は昨日とは打って変わって愛想良く挨拶した。
「一緒ってことは、今日も教えてもらえるってことでいいかしら?」
静香はにっこりと高田に向かって尋ねた。
高田はちょっとした凄みすら感じる静香の微笑みに若干たじろぎながらも、
「もちろん、出来る限り答えるよ」
笑顔でそう答えた。そして都の方を見た。
「都ちゃんも、分からないことがあったら聞いてよ。せっかく、一緒に勉強するんだからさ」
「うん、ありがとう。でも、都、今日は暗記物の勉強するから一人で大丈夫」
「え・・・っと、そう・・・?」
にっこりと、でも、はっきりと断られ、高田は返事に困った。
「じゃあ、早速質問いい? 高田君?」
静香はドンっとノートを数冊、高田の前に置いた。
それらには付箋がたくさん付いている。
「多分、今日も高田君来ると思ってたのよね。だから聞きたいこと纏めてきたの。来週からテスト週間で図書室も使えなくなっちゃうし。そうなったら、教えてもらう機会ないでしょう?」
「・・・気合入ってるんだね、佐々木さん・・・」
「ええ、まあね」
静香はそう言うと、早速、高田の前にノートを広げ出した。
高田はチラッと救いを求めるように都を見た。
だが、都も自分の教科書とノートを広げ、二人の方を見ようともしない。
カリカリと勉強し始めた都に、静香が、
「都、もし、私たちの声がうるさかったら、遠慮しないで勝手に一人用の席に移っていいからね」
そう声を掛けた。
静香の言葉に、はあ?っと、高田は怪訝な顔をするが、都はそんなことに気付きもせず、フルフルと首を振った。
「ううん、大丈夫。ここじゃなきゃ、和人君が見えないし!」
「ああ、そうよね。そうだったわね」
「え? 和人君って・・・?」
高田は顔を顰めて呟いた。何か言いたげだったが、その先はすべて静香にシャットダウンされた。
昨日と同様、がっしりと静香にホールドされ、そのままマンツーマン授業が始まった。
その横で、都は一人で勉強しながら、時折、カウンターを伺った。
いつの間にか和人はカウンターに座っていたが、下を見たきり、ちっとも顔を上げない。
昨日と違って、本の貸出対応も、もう一人の図書委員にほぼ任せきりで、ずっと勉強している。
(全然、こっち見てくれない・・・)
都は目を伏せた。
こんなに近くにいるのに・・・。
同じ教室内にいるのに、声を掛けてもらえなければ、目も合わせてもらえない・・・。
鼻の奥がツーンと痛くなり、目の前の自分のノートに書いている文字が揺らいで見えた。
都は慌てて目を擦った。
違う! 考え方を変えるのだ!
(今、同じ教室で、一緒に勉強しているのよ。ちょっと席が離れているだけよ)
そんな考えに無理があるのは分かっている。でもそう思わないと泣いてしまいそうだ。
それに、和人が仕事もせずに、勉強しているのは明らかだ。
そう、お互いそれぞれの勉強をしているのだ。一緒に。同じ教室で。
集中しよう! 和人も何か恐ろしく集中しているようだし・・・。
都はプルプルと頭を振ると、再び教科書に向き合った。
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