26.お勉強

静香は溜息を付いた。

また、おかしな方向にスイッチが入った。


「・・・って言うか、もともと今日勉強するつもりだったわよね? 図書室で。今思い付いたような言い方してるけど」


「・・・」 


「まったく、もう・・・」


「う・・・、ごめんなさい」


もう図書室には戻れない。

二人は都の家で勉強することにした。





「静香ちゃん、いらっしゃい!」


「お邪魔します、おば様」


静香は玄関で迎えてくれた都の母に頭を下げた。


「静香ちゃん、都ちゃんと一緒にお勉強してくれるなんて、ありがとうね! 今日はお夕飯も食べていってね!」


「はい。ありがとうございます」


「すぐに、お茶とケーキを差し入れるわ。二人とも頑張って!」


「お気遣いありがとうございます」


「ふふ、静香ちゃんはいつもお行儀がいいわね。都ちゃんも見習ってほしいわ。都ちゃんったら、この間ね・・・」


「ママ! もう、静香ちゃんを解放して! 静香ちゃん、お部屋行きましょ」


「うん。では、おば様、失礼します」


静香は都の母に軽くお辞儀をすると、都の後に付いて二階に上がった。


部屋に入ると、都は途端にベッドに突っ伏した。

そして、ベッドに置いてあるクッションを抱えて、図書室での出来事を思い返し、一人悶絶し始めた。

静香はそれを無視して、部屋にあるローテーブルの前に腰を下ろすと、カバンから勉強道具を取り出した。


暫くして、都の母が紅茶とケーキを差し入れた後も、都はベッドの上で悶絶したままだ。


「都、いい加減、勉強道具ぐらい出したら?」


既に勉強を始めている静香が、顔を上げずに都に話しかけた。


「・・・はーい・・・」


都はのそっと起き上がると、ズルズルと這うようにベッドから下りて、静香の前に座った。

だらしなくローテーブルに顎を乗せると、勉強している静香を見た。


「静香ちゃん・・・、絶対、あの女、怪しいわよね・・・?」


「・・・」


「あんな風に和人君にベタベタしちゃって・・・」


「・・・」


「和人君も、和人君よ! 優しくしちゃって!」


「・・・」


「・・・もしかして、あの子、あの女のせいで・・・」


都は顔を上げると、テーブルに両手をついて静香を覗いた。


「ねえ、静香ちゃん。もしかして、あの女のせいで許嫁辞めたいって言ったのかしら?」


スパコーン!


いい音が部屋中に響いた。

静香の目の前では、頭を押さえて悶絶している都がいる。

静香はゆっくりお盆を床に戻した。


「・・・痛い・・・」


「角で叩かなかっただけ有難いと思って」


「・・・ひどい・・・」


都は涙目で静香の顔を見上げた。


「都、一緒に勉強するのよね? 今日は悩み相談を聞きに来たんじゃないの。私も今回のテストで内申上げないといけないの。真剣なの。前回のテストしくじったから」


「う~・・・」


「勉強しないなら帰るわよ」


「・・・します・・・」


都は頭を摩りながらカバンを引っ張り寄せると、教科書とノートを取り出した。

きちんと正座し直し、静香に向き合うと、


「テスト範囲は?」


真剣な表情で尋ねた。


「やっぱり、そこから?」


静香は肩を竦めて溜息を付くと、紅茶を一口飲んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る