2.幼馴染の許嫁

今朝も、いつものように和人は都を迎えに来た。


「おはよう!」


「・・・おはよう」


満面の笑みで和人を迎える都にとは裏腹に、和人は少し寂しそうに挨拶をした。


「???」


そんな和人を見て、都は首を傾げた。

そして和人の前に立つと、顔を覗き込んだ。


「どうしたの? 和人君。元気無さそうね」


和人はサッと顔を背けると、


「そんなことないよ。昨日ちょっと遅くまで勉強してたから眠いだけだよ」


そう言って、眼鏡を上げて目を擦った。


「そうかぁ、さすが優等生ね! 感心しちゃう!」


都はそんな和人を褒め称えた。

そして、悪戯っぽく笑うと、


「都も昨日遅くまで起きていたの。でも動画配信を見ていただけ」


ペロッと可愛く舌を出した。

そんな都を和人は困ったように見た。


「都ちゃん、そろそろテストが始まるからちゃんと勉強しないと」


「分かってるわよ。近くなったら、また都の勉強を見てね、和人君」


都はにっこり笑うと、くるっと振り向いて、和人の前を歩き出した。


「・・・」


和人は立ち尽くしたまま、困惑したような顔をして、都の後ろ姿を眺めた。

隣に並んでこない和人を不思議に思い、


「どうしたの? 和人君」


都は振り向いて和人を呼んだ。

和人はハッと我に返ったように都を見た。急いでボテボテと重い体を振りながら走ると、都の横に並んだ。


都は、隣に並んだ和人ににっこりと微笑むと、


「和人君、寝癖が付いてるわ」


そう言って、和人の髪をそっと撫でた。

和人は慌てて首を竦めて、都の手を避けるように自分の頭を触った。


「だ、大丈夫だよ。跳ねてったって」


「ふふ、そうね。跳ねてて可愛い!」


都は笑うと、また前を見て歩き出した。





二人が仲良く登校した高校は、普通科コースと特進科コースがある。

優等生な和人は特進科。

模範的なほど普通な都はもちろん普通科。


普通科と特進科は頭脳の位置だけではなく、下駄箱の位置も離れている。

昇降口に入るとすぐに和人は都と離れて、振り向きもしないでさっさと自分の下駄箱に行ってしまう。

都はその後ろ姿をいつも寂しく見送っていた。


「はあ、都は何で頭が良くないんだろう・・・」


成績が良ければ、自分も特進科クラスで和人と高校生活を謳歌できたのに。

都は溜息を付いて、上履きに履き替えた。


「神津さん!おはよう!」


早速、数名の男子が都に声を掛けてきた。


「おはよう」


とりあえず、にっこりと笑って挨拶を返すと、男子たちの目はあっという間にハートになる。

心の中で冷ややかにそれを見つめると、スタスタ歩き出した。

その後を、男子らがゾロゾロと付いてくる。


(・・・うっとうしいったら・・・)


そう思っているところに、親友の静香が声を掛けてきた。


「おはよう、都。今日も可愛いわね」


そう言って、都に腕を絡ませると、教室までエスコートしてくれる。

これが毎日のルーティンだ。


都はなかなか可愛い顔立ちをしている。

さらに、それを最大限に引き出す努力を怠っていないため、女子としての魅力は満点だ。


それは全て、和人のため。


頭ではどう足掻いても、特進科の和人には及ばない。

ならば、その他で補わなければ! それには女子力アップだ!

和人と並んでも引けを取らないように日々心がけて、ここまでに仕上がったのだ。


それなのに・・・。


いつものように、一緒に下校しようと和人を昇降口で待っていると、スマホにメッセージが届いた。

和人からだった。


『屋上にきてくれますか?』


(何だろう?)


都の心は高鳴った。


「もしかして、やっと愛の告白?!」


思わず独り言を口走ると、慌てて口を押えて周りを見た。

良かった。誰にも見られていない。

都は顔がにやけるのを押さえることができずに、スキップするように屋上に急いだ。


悲劇が待ち受けているとも知らずに・・・。

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