第25話 ロリッ娘と ”決戦の大魔王③”

 網膜を灼く、閃光!

 装甲の大魔王の口から、蒼白い熱線光が放たれた!


「――ぐおっ!!?」


 瞬間的に身体にのし掛かった猛烈な過重に、白目を剥く。

 もちろんディーヴァが俺を抱えて、熱線を回避したのだ。


「マスターナイト、わたしたちはこればかりだな」


 飛翔しながら、ディーヴァがどこか愉快そうに言う。


「……お、お役に立てなくて、ごめんなさい」


 目を回しながら、心の底から謝罪する。


 いや、でもさ!

 いくらマキシマム・サークが最強のだからって、これはもう剣だの槍だのでどうこうできる相手じゃないでしょ!


 猛烈な熱気が、俺を正気に戻す。


「な、なんて奴だ!」


 メカゴリラめ! 放射能火炎まで吐けるのか!


 今や広大な地下墳墓は、溶解した石と装甲のシチュー鍋と化していた。


「自分の眠りを守る従者たちだろう! 溶かしちゃってどうするの!?」


 全体から見たら微々たるものなのだろうが、それでもかなりの数の ”騎士の鎧ナイト・メイル” を融解せてしまっている。


(まったく最終決戦にふさわしい、スペクタクルな光景だよ!)


薙射ていしゃは出来るのかな!?」


 薙射とは文字どおり、薙ぎ払うように発砲・放射することだ。

 つまり熱線光を吐きながら、こっちを追尾できるかどうかなんだけど――。


「――第二射、くるぞ!」


「うわっ!!!」


 着地し、再び最大荷重で跳躍するディーヴァ。

 真っ白な裸体が暗闇に白い軌跡を描けば、蒼白い熱線光がそのあとをなぞる。


「熱ちちちちっっっっっ!!!」


「どうやら出来るようだな」


「気楽に言わないで! こっちはオーブンに入れられた七面鳥の気分だよ!」


 距離があっても熱線光の熱量は凄まじい。

 分厚い装甲や墳墓の床を一瞬で、ドロドロにしてしまうのだ。

 直撃は無論のこと、近くを通過されただけで人間なんて消し炭になってしまう。


「問題はない、マスターナイト。追尾してくるとはいっても動作の延長でしかない。すべて頭と身体の動きに連動している。あんな鈍重な奴に捕捉されるほど、わたしはではない」


「で、でもさ! ほんのちょっとの動きでも、距離が離れれば大きな動きになるんじゃないの!?」


「その通りだ、マスターナイト。だから――接近する!」


 そして再着地、再跳躍、再加速!


「ひええええーーーーーーーっっっ!!!?」


 目をグリングリンに回しながら、考える。


 防御は、超電磁バリア。

 攻撃は、放射能火炎。


 無敵の装甲大魔王相手に、さあ、どうする!?


 どうする!?

 どうする!!?

 どうする!!!?


 俺の残された武器はせいぜい ”お皿一枚” が創り出せる程度のナノマシンのみ。

 それでどうやって、ディーヴァを援護する!!!?


 考えがまとまるよりも早く、ディーヴァが魔王の足下付近、顔と胴体の可動範囲の死角に、俺を放り出した。


「少しの間そこにいてほしい! 踏み潰されないように注意してくれ!」


 白い軌跡があっという間に俺を置き去りにしていく。


「ディーヴァ!」


 畜生! 本当に俺はなんて無力なんだ!


 だが足手まといにならないようにするのが、今の俺に出来る精一杯の援護だ。

 ディーヴァの作戦は分かっている。

 魔王の電子量を測定し、自分の電子量を合わせることで、電磁気力を利用した防御障壁シールドを無効化する。

 今ディーヴァの中ではその測定と調整が、猛烈な速さで演算されているはずだ。


 そこに……俺の手助けできる余地はない。


(頼む、ディーヴァ!)


 俺が胸の奥で祈りを捧げたとき、ディーヴァの機動が変わった。

 魔王の真っ正面に着地し、そのまま対峙する。

 強靱な装甲につつまれた大魔王と、全裸の美少女。

 それは決着を予感させる、見事なコントラストだった。


 ディーヴァのに、魔王が乗った。

 口内に集束した蒼白い光が、すべてを溶融させる熱線となって吐き出される。

 だが魔王の可動域・可動速度は、すでにディーヴァに見切られていた。

 熱線光はまたしても空を切り、軽々と回避したディーヴァが逆襲に転じる。


 魔王が顔を上げるよりも速く先ほど弾き返された眉間に、身体ごともう一度必殺の正拳を繰り出す。

 障壁は無効化されている。

 熱線の放射は間に合わない。


(今度こそ、った!)


 その瞬間、俺とディーヴァは ”魔” に魅入られていた。

 勝ったと思った一瞬こそが、敗北への穽陥おとしあな

 天国から地獄へ一気に蹴り落とされる、無情の罠。


 ディーヴァを見据える魔王の双眸が、蒼白い光を帯びた。

 空間を切り裂くリパーする、二条の光線レーザー

 小柄な少女は跳躍の途中で、軌道を変えられない。


「ディーヴァ!」


 俺は叫ぶ!


 刹那せつな、ディーヴァの直前にが出現していた。

 残り一パーセントのナノマシンで創造された、なんの変哲もない本当にただの皿。

 最大戦速で跳躍したディーヴァに触れれば、粉々になって四散するだけの品。


 だが、今のディーヴァには――。


 ディーヴァが空中でたいを入れ替え、皿を蹴る。

 皿よりもほんのわずかにディーヴァは猛烈な反発力で、強引に軌道を変え跳ね上がった。

 半瞬後、微塵に砕けた皿が舞う空間を、紫色の光線が穿つ。

 瞬時に蒸発する皿の破片。


 勢いを殺さぬままに、天井を、壁を、通路を蹴り、さらに運動エネルギーを溜めてゆくディーヴァ。

 そして一三回目に床を蹴った直後、魔王の眉間を白い閃光が貫いていた。


 動きを止める巨体。

 崩壊は徐々に始まり、急速にカタルシスへと向かう。

 大音響と共に崩れ去り、再び眠りに就く、甲鎧の魔王。


 すべてが終わったあとに残ったのは、灼熱の溶鉄地帯となった超文明の墳墓のみ。

 

 そして――。



 45.459%



 ビーーーーッッッッ!!!


 頭の中で耳障りな警報が鳴り響き、俺の意識は――。


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