■■■■〚少年との出会い〛■■■■


 例のニュースが報道されてから半日、試しにテレビをつけてみるけどどこの局も砂嵐だらけで何にも放送していなかった。


 それともう一つ大きな異変、体が朝に比べて異常に軽い気がする。


 五年前〚ロッシュ限界〛の定義に〚天体の接近によって重力に影響が生じること〛が追加されたからこれも〚月〛の接近によるものなんだろうと思う。


 体が軽くなるって言うのは知ってたから歩くのも楽になるんじゃないかと思ってたけど、歩くにはいつも通りの力を使わなくちゃいけないし、反動として少し飛び上がるから不便でしかない。


 不便さを嘆く中、せめてラジオくらいはやっていないかと思ってスイッチを入れようとした瞬間!!


 裏山の方…それもかなり言えに近い場所で大きな爆発音がした。

 


 …このタイミングで爆発音…〚地球名誉連邦軍〛の戦闘機が墜落したか、ネイピアの〚小型宇宙船〛が墜落したか…それとも…。


 窓から外をのぞくとここから50メートルぐらいの場所に丸い円盤状の鉄塊…間違いない〚小型宇宙船〛がそこにはあった。

 

 確か「瀕死状態の〚ネイピア〛を殺害、もしくはとらえることで、その〚ネイピア〛の身長・体重・身分によって〚地球名誉連邦〛から補償金が出る。」とこの前のテレビ特集でやっていた。


 こんな世界でお金が役に立つのかはともかく地球に来た〚ネイピア〛は抹殺しなければならない。


 これが今の世界の常識。


 僕は倉庫に長い間置き去りにされてた木こり用の斧を持って〚小型宇宙船〛に乗り込むことを決意した。


 近づいてみると〚小型宇宙船〛って割にはイメージよりも大きくて僕が住んでる家くらいはありそう。


 〚小型宇宙船〛の底の部分に開いた穴から中に入ってみるけど中には誰もいない。


「…無人機とかそういう類のもの?」


 …〚無人型の小型宇宙船〛があるなんてニュースでも聞いたことが無いけど機内を探してもどこにも〚ネイピア〛らしき死体は見つからない。


 …まぁそもそも〚ネイピア〛を直接見たことはないし、人間にある程度似てるってことしか知らないんだけど。


 さらなる状況確認のため外へ出て〚小型宇宙船〛の裏側に回ると今まで見えなかった位置に…血だらけの少年が倒れてた!!


 まず目を引くのは白い髪。そしてフード付きのホワイトコードというこの地域じゃ珍しい服装をしてた。


 年は僕と同じぐらいで顔は…血で汚れていてよく分からない。


 けっこう中性的な顔立ちにも見えるし、服装も相まって本当に〚少年〛なのかも怪しいけど、正直そんなことはどうでもいい。


 …それよりこの怪我だ。


 頭や体中から出血していて右肩と左わき腹にはガラスの破片のようなものが刺さっていた。


  状況から考えてこの少年は〚無人小型宇宙船〛の墜落に巻き込まれた…もしくは衝撃で飛ばされた〚都会から引っ越してきた一般人〛って考えた方がよさそう。


 パッと見、もう手遅れに見えたけど、口に手を当てると呼吸が弱いながらも呼吸が確認できた。 


 僕のイメージだとすでに死んでるレベルの出血だけど、現に今この少年は生きてる。


 …もちろんその場にほおっておけるわけがない。


 それに一人だけでこの状況下外にいたってのも気になる。


 もしかしたら僕と一緒で家族がいないんじゃ…。


「…絶対に助けるから。」


 …僕は一声かけた後、その少年を慎重に台車に乗せ、家に運んで普段僕が使ってない方のベッドに寝かせた。


 体を拭いて包帯を巻いたり、ガラス片をゆっくり抜いて傷口を父さんの部屋にあった医療用糸でふさいだり、消毒をしたり。


 …気づけばあたりが暗くなっていたからあまり明るくない古いランタンをつける。

 

 夕食のカップラーメンをつくる為のお湯を沸かしていると寝室から人の声が聞こえた。


 寝室に向かうと少年が起きていて僕に「Where are we? Who are you!?」となぜか英語で問いかけてきた。


 …外国人だったの!?…よく見るとその眼は青色だ。


「お…落ち着いて、僕は夢咲 響…え~とぅ。 I am ヒビキ ユメサキ。」


 なんとなくで自己紹介したけど…これはまずい 


 簡単な英語位だったら理解できるけど、長続きしたら……自信はない。


「ごめん、キミ日本語は話せる?」


 僕の言葉をきいた少年はハッとしたような顔をして「そうか…ここは日本…。」と独り言を言った。


「もしかして、〚小型宇宙船〛の墜落に巻き込まれたせいで記憶がごっちゃになってるんじゃない?」


「…〚小型宇宙船〛の墜落…あ!そうだボクは…!!」


 少年はなにかを思いついたようにいうと、自分の体にまかれている包帯やら縫い糸やらを見て「…助けくださったんですか?…こんなボクを。…初対面なのに」と聞いてきた。


「人を助けるのに理由なんていらない。それより、キミ家族は?…いないの?……なんで身を隠すように政府から言われてるのにあんな場所にいたの?」


 僕は少年にずっと気になっていたことを質問する。


「…それは…………。」

 

 少年は口もごったあと僕と目を合わせて静かに言った。


「ボクが地上部隊に対して反戦活動を行っていたら……仲間に撃ち落とされて…確か意識を失う直前。船外に投げ出されたような……」


 少年はサラッと聞き捨てならないことを言う。

 

 ……撃ち落された!?


「じゃあ、あの〚小型宇宙船〛はキミの!? てことはキミは…」


「ボクは〚キュベレー・ルーナ〛…〚優生種ネイピア〛の戦いを嫌う異端児です。」


 僕が最後まで言いきる前にその少年…〚ルーナ〛は寂しそうにそしてどこか悲しそうに自分の正体を語った。

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〚観測世界No. 2.7182〛に迫る危機は〚ロッシュ限界〛でした。 ゼロ・チッカ・ニア @zerotikkania

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