23 ひまわり

 ひまわり、という花のことを新奈にいなから聞いた。

 なんでも、ずっと太陽を向いている花だそうだ。


 日本の言語表現に“漢字”というものがある。物の名前や状態を一文字、あるいは数文字で表すのにとても便利なものだと彼女は言っていた。

 ひまわりはまさに「日に向く花」という意味合いの漢字が充てられているらしい。


 アウリオンにとっては異世界の文字だな、ぐらいの認識だったが、そう説明されるとなんだか漢字というものが面白く思えてくる。


 さて、ひまわりだが、アパートの近くの家にも植えられている。

 本当に太陽の方に向くのだろうかとアウリオンはひそかに興味を持って、花が咲くのを楽しみにしていた。


「ひまわり、咲いてたよ」


 新奈から聞いて、アウリオンは早速次の日の朝、ひまわりを見に行った。

 花は東に、太陽に向かっている。

 それじゃあ夕方は、と見に行くと、きちんと体ごと西に向いていた。


 本当だ。

 アウリオンはなんだかほほえましい気持ちになった。


 ふと、いつもにこにこしている新奈には、ひまわりが似合いそうだと思った。

 庭に植えられているひまわりは大きいが、切り花で売っているだろうか。

 今度収入があったら、彼女にプレゼントしたいな。


 そんなふうに考えながらゆっくりと夕暮れの道を歩く。


 いつの間にか思考が新奈のことばかりになっていることに、はっと気づく。

 自分こそ、気が付けば新奈のことを見ているひまわりみたいだなと微笑した。


 彼女のそばにいたい。

 けれど、今のまま、世話になったままでは駄目だ。


 蒼の夜が世間に公表されたことで異世界人と知れたら居づらくなる、とりつは言っていた。

 だが反対に、異世界人を受け入れようとする動きもないだろうか、とほのかに期待をする。


 そんなことを考えていると。


 空が急に暗くなった。

 辺り一帯に夜の帳がおりたように、群青色の世界になる。


 これは、蒼の夜だ。

 ということは、どこかに魔物が出たのか。


 魔力が強まった方を探すまでもなく、悲鳴が聞こえた。


 マナ・ポケットから剣を取り出して、アウリオンは悲鳴が聞こえた方へ走った。

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