19 氷

『君が異世界人であることを隠したままここで暮らすには限度があるよ』


 りつという男に言われた言葉を、アウリオンはずっと気にかけていた。


 彼と会ったことは新奈にいなには伝えていない。

 なんとなく、話したくなかった。

 ここにいていいと言ってくれている彼女に、もしかするとエルミナーラに行くかもしれないという可能性を含むことは伝えたくない。


 行かないなら言う必要はない。

 行くならば、そう決めてから伝えればいい。

 そう考えていた。


 だが肝心の、これからの身の振り方は、決められない。

 幸いなことに動画の「魔法陣を描いてみた」シリーズは好評で順調に閲覧数を稼いでいる。

 だが爆発的ヒットとならない限り新奈を助けるような金は稼げない。ましてや独り立ちなど遠い話だ。


「リオン? どうしたの? 昨夜からなんか考えてるみたいな顔が多いけど」


 新奈に声をかけられて、アウリオンは思考を止めて彼女を見る。


「あ、うん、次の動画どんな内容にしようかなぁって」


 ごまかすと、新奈は愉快そうに笑った。


「それも大切だけど、おやつにしようよ。今日は暑いからかき氷作っちゃおう」


 にこにこ顔の新奈が、何やら器械と皿を出してきた。

 器械の上部から氷を入れてふたをして、ハンドルをぐるぐると回す。

 がりがりと軽快な音をたてて、細かくなった氷が落ちてきた。

 あっという間に皿に山盛りになった。


「あぁ、これならストラスにも似たのがあったな。作り方は違うけど」

「どうやってたの?」

「もうちょっとこう、砕く感じ」

「かち割り氷みたいな感じかな」


 言って、新奈がパソコンで画像を見せてくれる。


「そうそう。で、ミルクと砂糖をまぜたシロップをかけるんだ。食べるのもいいけど、溶けた氷水を飲むのも美味しい」

「いいねぇ、それも」


 新奈がかき氷に前にシロップのボトルを置く。


「イチゴ味とメロン味、どっちがいい?」


 出されたそれらの色にアウリオンは驚いた。


「カラフルだな」

「本当はもっと種類が売ってるんだよ。でも今うちにあるのはこの二つ」


 まさにところ変わればってやつだなぁとアウリオンはボトルを手に取って眺めた。


「じゃあ、俺はこっち」

「なら、わたしはこっち」


 アウリオンはメロン味を、新奈はイチゴ味を、ふわふわの氷にかけた。


「いただきます」


 一口食べて、あまい、うまい、と言葉が漏れる。

 新奈がアウリオンを見て笑っている。


 あぁ、こんな穏やかな日が、続けばいいのにな。

 できるなら、ここで暮らしたいとアウリオンは願った。

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