16 錆び

 インターネットを閲覧していたアウリオンは、SNSで気になる話を目にした。


『最近、失踪事件が増えているんだって』

『前日どころかその日の朝にいたのに、急にいなくなったとかって話もあるらしいよ』


 最初、アウリオンは、物騒な事件が増えているんだな、と思っていた。

 だが、日に日にその噂は具体的な話になっていく。


『昼なのに、一部分が急に夜みたいになって、その中に化け物が出るって』

『は? なにそれ』

『夜になったところにいる人は気を失うらしい』

『それじゃどうして目撃証言があるんだよ(笑)』

『外から見たんじゃね?』

『あと、気を失わない人もいるらしい』


 にわかに湧き上がった「ファンタジック」な話題にSNSでは肯定派と否定派に別れて議論されるようになった。


「リオンがこっちに来た時の話に似てるね」


 新奈にいなにも噂が届いているようで、話を持ち掛けられた。

 似ているというより、そのものだ。


「俺が来たことで、地球とエルミナーラとがつながってしまったんだろうか」


 自分のせいで、と思うと途端に不安になる。


「リオンがこっちに来たからじゃなくて、元々あった現象だったけど増えてきたから人の目にとまるようになったんじゃない?」


 そうかもしれないけど、とアウリオンは曖昧にうなずいた。


 なんにしろ、あの現象が多くなってきているのは間違いないようだ。


 もしかすると、この世界を守るために戦わなければならない日がくるのかもしれない。

 そんな予感がしてから、アウリオンは剣や鎧の手入れを毎日欠かさず行うことにした。

 さらに、できる範囲で体を鍛えることにした。


 ここでは詠唱魔法は使えない。力の強い魔法陣は描けるが道具に込めるには詠唱魔法が必要なのでできない。つまり、魔道具として持ち運ぶことはできないのだ。


 役立つのは自身の身体能力だけ、ということになる。

 武具も、自分自身も、錆びさせてはいけないのだ。


 平和な暮らしを望むからこそ、守れる人が、守らなければならない。

 もしもこの世界に魔物が頻繁にやってくるようになってしまったら、その時は、アウリオンは戦うつもりでいた。

 それが、自分を受け入れてくれた新奈への恩返しにもなる。


 ……もしも、エルミナーラに戻る道がつながったら……。

 それは、今は考えないことにした。

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