12 すいか

 新奈にいな宛てに荷物が届いた。


「また実家からね。今回は、すいかよ」


 新奈は嬉しそうに箱を開ける。

 冷気に包まれた箱から緑と黒の模様の球体が顔をのぞかせた。

 これはストラスにも似たようなものがあった。

 きっと想像通りの味だろうとアウリオンはひそかに期待する。


「わたしすいか好きだから嬉しいんだけど、丸ごと送ってくるのが難点よね。一人じゃ食べきれないし」


 言いながらも彼女は笑っている。難点と言いながら、まんざらいやでもないらしい。


「どうするんだ?」

「三兄妹におすそ分けするわ。あそこもすいか好きみたいだし」


 彼女は早速、五人で食べる分を切り分けて、残りは冷蔵庫に入れた。


「それじゃ子供達呼んでくるね」


 にこにこ顔の新奈は足取り軽く部屋を出ていった。




 子供達が来ると途端に部屋は狭く、賑やかになる。


「すいかー」

「おいしそう」

「おっきいね」


 切り分けられて赤い実をみずみずしく輝かせているすいかに、子供達の目も輝いている。


「たね、ないね」

「たねなしすいかよ」


 ナミは嬉しそうだが、コウタとソウタはちょっと残念そうだ。


「たねをぷぷぷーってだすの、おもしろいのに」

「あはは、ここでそれをやられると、お掃除が大変だわ」

「やるときは、ちゃんとおさらのうえにぷぷぷーするよ」


 新奈と子供達は仲がいい。きっともう何度もこうやってテーブルを囲んでいるのだろう。


「なー、リオンにーちゃんはどうしてかみがあおいの?」


 長兄のコウタが尋ねてきた。


「これか? 染めてるんだよ」

「じゃあ、どうしてめがあかいの?」


 双子の弟、ソウタだ。


「カラーコンタクトを入れてるんだ。かっこいいだろう?」


 子供達に聞かれたらと用意していた答えを、アウリオンはちょっと得意げな顔で言う。子供達は敏感だからちょっとだけ演技してねと新奈に言われていたのだ。


「うん、けど、もとのかおもみたい」


 まさかそういわれるとは想定外だ。

 アウリオンは思わず新奈を見る。

 新奈も戸惑っている。


 ここで口ごもったままでは「何か」を察せられてしまう。子供の直感というのは存外馬鹿にできないものだ。


「元の顔は見せられない」

「なんで?」

「実はな。俺、異世界人なんだよ」

「え、ちょ、リオン?」


 驚く新奈に笑いかけて、また子供達を見る。


「元いた世界の悪いヤツから逃げているんだ。だから、内緒だぞ? バレたら俺は殺されるから」


 真剣に、ひそやかに、子供達にささやいた。

 三人は、すいかを食べるのを中断してリオンをじっと見ている。


「それ、ほんとう?」

「うん。だから、内緒な」

「うっそだー。そんなのおはなしだけのことなんだぞ」

「お話か。ソウタはどんなお話が好きだ?」

「んーっとな、ロボットにのってわるいヤツらをやっつけるの」

「そうか、ロボットかっこいいもんな」


 うまく話題をそらせることに成功した。


 この子達を見ていると、平和に暮らしていたストラスのことを思い出す。

 もう戻れない場所の、戻れない時。

 せめてこの子達が住むこの星には、災いが来なければいいのにとリオンは思った。

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