10 くらげ

 休みの次の日、お隣の一軒家の子供達、コウタ、ソウタ、ナミが新奈にいなを訪ねてきた。


 なんでも、昨日家族で海に行ったらしい。

 まだ本格的に海開きをしたわけではないが、海辺にはそれなりに人がいたそうだ。


 こんな暑さならなとアウリオンはうなずいた。


「はまべで、かいがらひろってきたから、おねえちゃんにおみやげ」


 ナミがそういって差し出したのは小さなガラス瓶に入ったピンクや白の貝殻だった。


「わぁ、きれい。ありがとう」


 新奈が喜ぶと子供達も嬉しそうににっこりと笑う。


「海で泳いできた?」

「ううん、みずぎはもっていってないから、あしだけはいったよー」

「でもつめたくてきもちよかったよな」


 子供達は口々に、もっと入りたかったという。

 まぁこの暑さだしな、とアウリオンはまたうなずいた。


「みんな、泳げるの?」

「ううん。うきわにつかまっておとーさんにひっぱってもらう」

「あしのつかないところまでつれてってくれるよ」

「でもあんまりふかいところにいくと、ちょっとこわい」

「あと、くらげもいるしー」

「さされたらいたーい」

「くらげは痛いね」

「おねーちゃんもくらげいや?」

「そうねー、できるなら刺されたくないね」

「だよねー」


 四人はあははと笑う。


 それにしてもよくしゃべる子達だ。

 とめどなく話す三人の子達に新奈はうまく話を合わせているなぁとアウリオンは感心しきりだ。


 元の世界、ストラスにいた友人や、彼らの弟、妹を思い出す。

 あんなことがなければ今年の夏もみんなで海水浴に行っていただろうか。


 浜辺を走ったり、貝を拾ったり、海のスポーツを楽しんだり。

 ちょっと深く潜った海の色はとってもきれいだった。色とりどりの魚を見て楽しんで……。

 友達や家族と外で食べるご飯は、たとえいつもと同じメニューでも、美味しかった。


 考えてもしかたないことだとは判っている。

 判っているが、寂しいし、……悔しい。


「あれ、リオンにーちゃんどうした?」

「あ、べつにリオンにーちゃんをのけものにしたわけじゃないぞ」

「おにいちゃんもいっしょにはなそうよ」


 子供達の気遣いに、アウリオンはうなずいて話の輪の中に入っていった。

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