第31話

 はぁ、今日はなんて最高な日なんだろう。


 私は、お弁当箱を洗いながら、そんなことを思う。


 兄さんの格好いいサッカー姿を見ることができたし、それに私は優勝をしたことによって兄さんになんでもできる権利を貰うことができた。


 それに、頑張れって応援してもらえたし、何より褒めてもらえた。


「本当に、最高」


 そうぼそっと、呟く。


 今頃兄さんは、今日の疲れで寝ている頃だろう。


 兄さんが使ったお箸を舌を這わすようにして舐める。


 これが、兄さんの物だったら、どれだけ良いだろう。はぁ......。


 じゃあ、兄さんにしゃぶらせてください、とそうお願いすればいいだろう。その権利を今、持っているのだから。そう思う人もいるだろうけれど、私はそんなはしたない真似は兄さんの前では出来ません。


 それにお願いしてしゃぶるより、兄さんが理性を失って私に獣のように喉の奥に突っ込んでもらいたいのでそんなことはしません。


 少し虚しくなってしまったが、それもあと少しで終わるだろう。


 私の描いた未来図。


 兄さんは、私を本当の妹のように思っている。


 だけれど、私は兄さんの事を兄以前に大好きな、愛している男として見ている。ここに矛盾が生まれ、私は今まで何度もつらい思いをしてきた。


 兄さんが私の事を女として見てくれる、そういう希望的観測を抱いて一時期アタックしていたこともありましたが結果は絶望的であり、もう兄さんが成人したら強制的に既成事実を作って田舎の誰もいない所でひっそりと暮らそうそう思っていました。


 ですが、最近光明の兆しが出てきました。


 あの桜木楓という女です。


 私はいつものように兄さんに近づく毛虫や蚊だと思っていましたし、実際そうだったのですが、私よりは劣っていますが兄さんを思う蚊なりの気持ちはそれなりに大きいようです。


 正直、兄さんに近づいてそれ以上の事するのは未だに憎悪が募り思わず殺してしまおうかと思いますが、兄さんを懐柔するよりは、あの女を懐柔する方が簡単です。


 兄さんの手足を切って拘束するのは、私だって嫌ですから。


 兄さんには元気でいて欲しいですからね。


 私がこの未来図を描いたのはあの女のあの目を見てから。


 これから始まるであろうことに胸を躍らせる。正直、あの女が邪魔だということはしょうがないと思い受け入れよう。私は寛容ですから。


 私は、んです。


 ですが、他に女を作ることは抵抗がありますから、その女の事を徹底的にいじめ、地獄を見せてあげましょう。


 今まで近づいてきた女のように。


 それしきの事で離れるのなら、それは恋とは言いません。愛とも言いません。偽物の何かだと断言しましょう。


 だって、私の愛はこんなにも美しいんですから。





 


 


 

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