第22話 現地到着

 中継地点の町で軽い昼食を済ませた後、ノエルの走らせる魔導自動車はリーウェン辺境区に通じる関門を抜けた。


 目的地の町までの距離は、あと僅かだ。

 到着したら宿屋のチェックインを済ませる手筈になっている。


「もうすぐ到着いたしますわ。眠っているお方たちを起こして差し上げてくださいませ」


 ノエルの言う通り、シロウは自分の肩に頭を預けて寝ているジェシカを起こす。シャルンもまた自分の膝を勝手に占領して熟睡するソーニャを起こした。


「ご、ごめんね! 勝手に肩で寝ちゃって!」

「いや、構わない。ソーニャなんてシャルンの太ももを枕にしていた。それに比べれば、肩ぐらい何ともないだろう」


 あわあわするジェシカを冷静に諭す。

 横目でシャルンのほうを見れば、ソーニャが再び眠ろうとするのを止めていた。エーデル姉妹の呆れる声が聴こえる。


「そこの狼っ娘、しゃきっとしなさい。実習中でも眠りこけていたら、その場に置いていくわよ」

「わふ……ユリリカきびしー」

「厳しくしないと、あんたみたいな奴はやる気出さないでしょう。特別クラスの一員として少しは頑張りなさい」

「ふあぁーい」


 ソーニャは寝ぼけ眼をこすって、やる気のない返事をした。

 目的地の町に入り、魔導自動車は宿屋の前で停まる。

 エンジンを止めたノエルが降車を促す。一同は車体のスライドドアを開けて地面に降り立ち、トランクから荷物を取り出した。


「もう日が暮れるわね。さっさとチェックインを済ませて腰を落ち着かせましょう」


 夕焼けに包まれた空を見上げるユリリカに一同は頷き、ここまで送ってくれたノエルに頭を下げる。


「長旅お疲れ様でした。私は実習が終わるまで待機していますので、お嬢様方はどうか無理せず程々にお励みくださいませ」


 ノエルは淑女らしい笑顔を浮かべて一礼し、特別クラスのメンバーたちを送り出した。


 宿屋に入ってチェックインを済ませる。

 宿屋の娘と対応したユリリカが三つの部屋を借りた。そのうちの一つはシロウが、残りの二つはエーデル姉妹とシャルン、ジェシカとソーニャがそれぞれ別れて使うことになった。


 シロウは部屋に荷物を置く。念のために刀型の星辰器は枕元に配置し、部屋を出る。


 他の面々も部屋から出て、食事場所の広間に集まった。

 大きなテーブルの席に座って夕食にありつく。

 

「食べながらでいいから、今後の説明を聞いてちょうだい」


 リーダーのユリリカが明日の予定を話し始めた。


「明日は朝早くに起きてから、さっそく実習を開始するわ。任務を効率よくクリアするために二つの班に別れようと思うのだけれど」

「良いのではないでしょうか。魔獣や荒くれ者の討伐程度に全員で赴く必要はないですものね」


 ユリリカがチーム分けをする。

 バディはなるべく同じチームにした結果、シロウとユリリカとソーニャがA班、アリシアとシャルンとジェシカがB班として活動することになった。


「私たちのA班は討伐任務をこなすわ。B班は不死者についての聞き込みを行ってちょうだい」

「任されましたわ!」

「一応言っておくけど、不死者を見つけたからといって闇雲に突っ込んでいくのはやめなさいよね。最悪、班の全員が死ぬわよ?」

「そんな無謀なことはしませんわ。そうですわよね、シャルンさんとジェシカさん?」

「当然です。命は惜しいので」

「わ、私も死にたくないし、不死者を見つけたら一目散に逃げるよ!」

 

 明日の予定の説明が終わり、夕食を楽しむ。

 宿屋の娘が直々に作ったというハムサンドエッグとサラダを食べた一同は、入浴のために浴場へと向かった。


 男子風呂の浴槽に浸かったシロウは、恍惚の息を吐く。

 寮舎の風呂場よりも断然小さく狭いが、檜で造られた浴槽は風情があり、故郷にあった温泉を思い出す。


 小さな子供の頃は、よく妹と温泉に浸かったものだ。

 まだ男女の差も浮き出ておらず、お互いバスタオルも巻かずに混浴していた。他の村人たちも男女関係なく風呂を共にしていたために、シロウは混浴が普通の文化だと思いこんでいた。


 しかし、王都で暮らすうちに西洋では風呂場が男女で分かれているのが一般的であることを知った。初めて銭湯に訪れた時は浴場の暖簾が二つあって、どちらを通ればいいか迷ったものだ。


「師匠も東洋人だからか、混浴派だったしな……」


 あの剣聖の美女に拾われてからというものの、毎日のように風呂を共にさせられた。


 思春期真っ盛りだったシロウは年上の美女と裸の付き合いをすることに羞恥を覚えていたが、師匠は気にせず鼻歌を奏でながら頭や背中を洗ってくれた。彼女は世話焼き気質であり、少しだけ寂しがりやな一面もあった。


「遠征が終わったら、顔を見せてやらないとな」


 しばらく弟子と会えなかったので、そろそろ寂しがっている頃ではないだろうか。シロウは遠征実習が終わって王都に戻ったら、師匠が待つハウスに顔を見せることを決めた。

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