ペアリング

@ramia294

 ペアリング

 社会に出ると…。

 人間関係。

 大切です。


 仕事が、出来れば、出来るほど。

 人間関係。

 大切です。


 妬み目…。


 同僚?

 上司?

 全ての人の目が、

 あなたのしくじり、探しています。

 ミスを期待しています。

 理不尽な世の中。

 この社会の真実。


 仕事が出来る方は、真面目なお人。

 人付き合いは、苦手な方。

 多いです。

 毎朝、人よりも早く出社。

 その日の準備を黙々と。

 一生懸命、仕事をします。


 飛ぶように、過ぎる時間。

 終業の頃は、心地良い疲労。

 帰って、早く休みたいあなた。

 これから、街に繰り出して、お酒を飲みながら、誰かの悪口。

 そんな事には、興味有りません。


 孤立するあなた。

 足を引っ張る同僚、上司。

 

 あなたの頑張り。

 毎日の頑張り。

 嫌われる要因は、あなたの真面目。

 理不尽な、理不尽な、世界。


 こんな物をあなたに。

 

 人間関係、円滑に。

 悪意に満ちた社内。

 冷たい視線の海。

 あなたが、自由に泳げるように。

 このブレスレットは、如何でしょう。


 ブレスレットには、とても、とても、小さな鉄球。

 小さな輪と大きな輪の間に。

 とても、とても、小さな鉄球。


 人間関係のベアリング。

 ブレスレットは、ベアリング。

 あなたの腕にはめれば、クルクル回ります。

 人間関係が、コロコロ。

 理不尽な海をコロコロ泳げます。

 仕事の能率は、上がり。

 ストレスは、下がり。

 あなたの人生、コロコロ。

 気持ち良く回ります。


 シャッター通り商店街の雑貨屋さん。

 店長さんのお勧め商品。


 僕は、買ってみました。

 僕は、使ってみました。

 人間関係のベアリングブレスレット。


 コロコロ、クルクル。


「おはよう」


 社員の人たち。

 朝から、笑顔のおすそ分け。 

 挨拶なんて、忘れてました。

 

 コロコロ、クルクル。


「お仕事の予定こんな感じで、如何でしょう?」


 上司が、僕に話しかけます。

 仕事の話を僕にするのは、何年ぶりでしょう?

 上司の声なんて忘れていました。

 

 お仕事、進みます。

 誰の邪魔も入らない。

 お仕事どんどん進みます。


 あっという間に、昼休み。

 お昼ごはんの時間です。

 会社の食堂。

 社員が、集まりお昼ごはん。

 僕は、ひとりで食べていました。

 

 コロコロ、クルクル。


 その日は、僕の隣の席。

 誰かが、静かに、近づきました。

 見上げる僕。

 重なる視線。

 驚く僕。

 笑顔の君。

 会社のアイドル、花野はなのさん。


「この席、空いてますか?」


「どうぞ」


 僕は、ひと言。

 僕は、ドキドキ。


 花野さんは、今年入社。

 事務所で、パソコンと格闘中。

 なかなか手強い相手のようです。


「今朝、寝坊しちゃって、お弁当つくれませんでした」


 彼女は、いつも自分の職場で、お弁当。

 お昼休みも、仕事と雑用。

 いろいろ忙しく、働いています。


「いつも、朝早く出社しているのですね」


 彼女の声は、澄みきり、早起きスズメよりも爽やかです。

 彼女は、上品で、賢くて、可愛いくて、仕事熱心。

 髪がサラサラで、目がキラキラ。

 社員の男性の全員の…。

 アイドル。

 僕の秘かな憧れ。


 しかし…。


 仕事に、夢中の彼女。

 頑張る彼女。

 おそらく僕と同じ思いを…。

 なかなか、先輩、同僚、人間関係。

 たいへんそうです。


 嫉妬の海を頼りなく漂う小舟。

 オールを握る彼女の細くて、白い腕。

 今日も波は、高く。

 口には、出さない彼女。

 の、ため息。

 

 僕は、お勧めしました。

 ブレスレットを彼女の腕に。


「君の人間関係の悩み。これで解決」


 コロコロ、クルクル。


 その日の彼女のお仕事。

 とても好調に進み。

 上司も同僚も皆さん、彼女のお仕事に、協力してくれます。

 定時間で、帰れます。


 僕が、会社の門を出ると、彼女は、待っていました。

 風が、サラサラの髪を揺らし。

 笑顔で、風に挨拶?

 それとも…。

 僕のための笑顔?

 

 僕たちは、駅へ。

 帰り道。

 寄り道。

 小さな、喫茶店。

 甘くて、香ばしい。

 黒くて、熱い。

 コーヒー。


「あのブレスレット。私も欲しいのですが」


 次のお休み。

 ふたりで、街を歩きます。

 肩と肩。

 近づくたび、僕は、ドキドキ。

 ブレスレットは、コロコロ。

 触れ合う服の布。

 僕の肩の服の布。

 僕の気持ち。

 肩の布に、移りましたか?


 彼女の肩に触れたがる。

 僕の肩の服の布。

 僕は、ドキドキ。

 服も、ドキドキ。


 シャッター通り商店街。

 雑貨屋さんは、残念そう。


「そのブレスレットは、それだけです」


 ブレスレットは、ひとつだけ。


「代わりに、こんなものは、如何でしょう?」


 ブレスレットとお揃いの銀色の指輪。

 ふたつ。


 ペアリングすれば、ブレスレットの力を受け止めます。

 ふたりの人間関係、上手くいきます。


 雑貨屋さんが、付け足しました。

 お二人の周囲の人間関係。

 上手く転がります。

 でも、最も上手く転がるのは…。


 もちろん、ブレスレットとペアリングされたリングを持つ、お二人の人間関係。

 最も上手く転がります。


 恋人?

 友人?

  

「どちらを選ぶかを決めてから、ペアリングすることをお勧めします」


 どちらかが、望まない恋。

 産み出しては、いけません。

 店長さん。

 僕だけに、耳打ち。

 僕だけに、そっと忠告。

 僕の、告白の応援。

 

 帰り道。

 寄り道。

 小さな喫茶店。

 甘くて、香ばしい。

 黒くて、熱い。

 コーヒー。


 僕は彼女に。

 リングを差し出しました。

 ブレスレット。

 クルクル、コロコロ。


「僕の求めるものは、君との恋」


 僕の頬は、赤く。

 彼女の頬も赤く。

 彼女の手は、僕の手に。

 

 テーブルの上。

 そっと握る、僕の手と彼女の手。

 彼女の指には、銀のリング。

 僕の指にも、銀のリング。

 コロコロ回るブレスレット。

 ベアリングのペアリングのペア…リング。


 ホットコーヒー。

 甘い香りをより甘く。


 コロコロ回るブレスレット。


 使用上の注意。

 まめに、愛情グリスを確認しましょう。

         おわり💓


 







 





 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ペアリング @ramia294

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ