恋と愛と正解

一之瀬 透

恋と愛と正解

日本での文化が世界では通用しないように、

皆が学ぶ物理法則がこの地球でしか通用せず、

一つ違う星に行けば全くその法則が成り立たないように、人の心も自分の考えじゃ通用なんかするわけがない。

勿論、恋や愛やらもそうだ。

微分と積分の同時進行のように、心もすれ違い、気付けば全く別の場所にある。

人と分かり合うなんて宇宙の謎の解明のようなものだ。

人生百年世代と言われながらも最も恋に燃え、

人生を謳歌する青春。

まだ高校生のガキがこんなことを言うのもなんだが、大人になることに期待などない。

今、その今こそが人生最高の瞬間なのだと、心から思う。

私は十八歳にして、恐らく人生最後で最高の恋を今している。

そんなの嘘だ。これからもっといい人と出会うなんて言う人が殆どだろうが、それは無い。

断言が出来る。

しかし、この恋は所詮高校生の恋。

受験を前にした舐めたガキの恋なのだ。

枯れゆく花や果実のように、実らない恋なのだ。

私は一度この恋で敗北している。

要するに、振られている。

一度散った恋。

しかし、私の恋の芽は再び太陽の元に出る。

また、負け戦を仕掛けている自分が馬鹿馬鹿しくなってきている。

彼女からの私を好いているような雰囲気は感じられない。

私だけが愛のベクトルを向け。

彼女は私に私のベクトルのマイナスベクトルなんか向けてはくれない。

受験を控えているのもあり私は焦っている。

もし、私が蜘蛛に噛まれたスーパーヒーローなら、蜘蛛の糸なんか出る訳がない。

それほど私の心は萎えてしまっている。

そんな心を落ち着かせるために最近、私はサイクリングに行っている。

焦り、萎える私の心を穏やかにしてくれる。

知りもしない道を進み迷子になる。

それを感覚だけで知っている道まででる。

それがいい。

「戦場のメリークリスマス」

これを聞き流しながらするサイクリングは私に希望、絶望、最高の結末、最低の結末、全てをイメージさせ、消し去ってゆく。

そんな、不思議な感覚にしてくれる。

また、虚無感からくる涼しげな空気外の空気と全く同じもの。

バッドエンドからハッピーエンドへ。

絶望から希望へ。

全ては結果的には良い方へ行く。

それは嘘だ。

そう信じなくては人は生きていけない。

私もその一人だ。

ここまで、変な病み方をしている私でも、諦めてなどさらさらない。

告白の文言も殆ど決めている。

それは、少し前告白を決意したにも関わらず上手く話せなかったことが原因だ。

次は必ず。

私がサイクリングを始めて一ヶ月。

私と彼女がたまたま教室で二人きりになった。

自分に自信がない私。

しかし、そんなことを言っている暇なんかない。

今だけは、自分が世界一であると言い聞かせる。

「俺は、とんでもなく面白いわけでも、人前で公開告白なんかする度胸があるわけでも、すごい察知能力でカッコよくてさりげない気遣いができるわけでも無い。でも、誰よりもあなたを幸せにする自信と、誰よりもあなたが好きな自信だけはあります。喜びの涙を流させても、悲しみの涙は流させません。」

いつもタンパクな私からすると中々情熱的で照れくさく何気なくダサい。

そう言い放った私に対してなんとも言えない間を開け彼女が口を開いた。

「私でよければ是非。」

私の胸が熱くなった。心が鉄板で焼かれたわけでもないのにとても熱い。

喜びがここまで込み上げ喜びの涙。

一度負けた負け犬は遠吠えではなく勝利の咆哮を上げ、幸せを噛み締めた。

その日の夜。

私はいつもより少し遅い時間にサイクリングに出かけた。

「I Love You So」

その日聞いたのは失恋ソング。

理由は特にない。脳みそが矛盾に困った顔を見せる。

拒絶しているのかもしれない。

自然に嘲笑の笑いが出た。

青々と茂った雑草。なぜか育ててしまって愛着の湧いた雑草に笑顔で除草剤を撒くように、

私は自転車をどこまでも漕いだ。

私が家に帰ることも、学校に行くこともなかった。

そして、次の日も自転車を漕いだ。

私はどこまでも自転車を漕いだ。

どこまでも、どこまでも、

隣の街まで。

否、隣の地方まで。

否、隣の国まで。

否、物理法則の通用しない、あの星まで。

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