6-1 疑惑の男

「碧娥じゃないか!!」


緋翠がルーダー の元へと走った直後、碧娥が偶然目にしたのはこの燈台に来る前に忽然と姿を消していた刃灰だった。どこから現れたのか螺旋階段を歩いていた彼は、碧娥に呼び止められると驚きの表情で声を上げる。


「お前、一体どこに行っていた?皆んな心配したんだぞ!」


刃灰は全身に刀疵を受けた状態でやっと歩いているという感じだった。彼は螺旋階段から助けを求めると、碧娥は大気を放ちながら跳び渡り、刃灰を背負いまた外壁部分の通路に戻ると彼を下ろす。

すると刃灰は何も知らなかったような顔で事情を聞いてきた。


「そ、それよりこの状況、一体どうなったんだ!?」


碧娥は刃灰が居なくなった後、燈台に入った異凶徒を倒す為に乗り込んだ事と、その戦いの最中にスタルオの飾りが壊れ、この場は騒然としている事を告げた。


「まったくこの天気の変わりようは誰かと同じだ」


碧娥は周囲の景色に顔を向けながらそうぼやくと、遠い眼でそれまでの事を思い返す。

一人で跳ぶようにルーダーを追って行った緋翠。彼女の事も気がかりだったが、さっきの光紫の出来事もあったせいで彼女の気持ちも解らないでも無かった。

だから碧娥は、緋翠を放っておく事にした‥‥。

それに今、目の前に居る刃灰。‥‥以前から都市部隊の中での刃灰この男の噂は聞いていたので、実際どうなのかと思い、この男をここにとどめ、真相を探ろうと思ったのだ。


「そ、そうだったか‥‥」


すると、膝をついた刃灰は肩を震わし、突っ伏すと悔しそうに嗚咽しだした。


「おい‥‥何があったんだ」


‥‥碧娥は何が悲しくて泣くのか理由を聞いても刃灰は答えず、対処に困り果てたが‥‥。


‥‥そうしながら刃灰は、自分の本心を碧娥に悟られるのはまずいと思っていた。

これが自分を毛嫌いしている緋翠や無言で何かを推察してくる光紫ならばとにかく話がややこしくなる可能性はあるが、見た所その彼らは此処に居ないと確認した。それに引き換えこの碧娥おとこなら単純だ。上手くやれば問題ないであろう。

だが‥‥。


まさか自分が敵に寝返った挙句、葵竜と彗祥を騙そうとし逆に彗祥に討たれたなどと、口が裂けても言えなかった。

今のままでは火是に合わせる顔も無く、皆から謀反人としてレッテルを貼られ居場所を失う事になる。

葵竜と彗祥‥そしてルーダー‥‥刃灰は彼らが許せなかった。


‥‥俺は散々敵に利用されただけだ。ルーダーそそのかされたから‥‥仲間を引き連れ、皆から離れたのだ。

それに、彗祥が仲間を討ったことには間違いない。寧ろ、豹変した女と葵竜の方が裏切り者ではないか?

逆に俺は、二人を討つことが出来る‥‥。

彼は本心、逆恨みに近い状態で反撃の機会を狙っていたのだった。


だが、息も絶え絶えの今の自分では、目の前の碧娥相手でさえ絶対勝ち目がないと自覚している。


考える男、刃灰は苦しそうに言葉を漏らした。


「このままでは俺の負けだ‥‥なんとしても行かねばならぬというのに‥‥」


碧娥は刃灰の何かを訴えるも余りに力無い姿に気落ちすると、彼の意思を諦めさせる為になだめるように告げる。

 

「無理だ。もうここには敵も味方もいない。俺が仲間を探しに行ってやる‥‥それに、今は誰かを殺しても、増えるのは化け物だけだ」


「化け物だと?どういう意味だ?」


初耳の言葉ワードに反応した刃灰は顔を上げてについて聞くと、碧娥は足元の血のような雨水に目を向けながら答える。


「あの飾りが壊れた途端、こんなものが降ってきた。すると死んだ奴らが生き返って俺たちを襲いだしたんだ」


‥‥化け物になるだと‥そんな筈は無い‥‥‥


這いつくばりながら碧娥の視線の先に進んだ刃灰はをじっと見ると、真っ赤に濡れた通路の水たまりに目を奪われる。

そんな話は今まで聞いたことが無いぞ。死体が化け物になり、それでこの場が全滅状態に陥っているなんて。

だが、そんなことはどうでもいい‥‥。

刃灰の脳裏に彗祥の顔が浮かぶ。

ルーダーに精神を破壊され‥‥葵竜を守る為に皆を返り討ちにし‥‥共に消えて行った彗祥と葵竜‥‥。

‥‥‥‥そんなこそだ。

それなら、俺は‥‥‥。


そこで彼の理性は消えた。

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