5-1 新たな敵

燈台の中を突然変異のように降りつける赤い雨は強く大地を打ち付け、一時いっときの間赤い霧のように霞んでいた。

それまでの戦いで死んだ人や自分たちの体を洗い流すどころか一層赤く染めていき、その色はまるで何者かの修羅のような‥‥すでに燃えるような赤では無く、見ていてぞっとするような冷たい炎のように、そこに居る全ての者達の心を凍りつかせる。

誰かがスタルオへ続く通路を開き星の中心へと向かった事だけは知る事になったが、それからの事は誰も解らない‥‥。



その光景を見つつ緋翠は葵竜と彗祥のことが気がかりだった。

二人はまだ戻ってこない‥‥その後火是が彼らの元へと向かったが、ミイラ取りがミイラになったように次々と戻る事は無く、目の前を降る赤い雨だけが緋翠の心を不安にさせていた。


━━その雨が突然止んだ。

━━皆、天井を見上げると‥‥。そこからが彼らの終わりどころか始まりだったのだ。


‥‥一時静かになった燈内を見えない鼓動が聞こえ始めた。

‥‥謎の気配を感じた彼らは辺りを見渡す。だが自分たち以外は誰もいない。

息も詰まる顔で彼らは足元を見ると、戦で果てた者達の死体が‥‥地面を流れ出した赤い雨の上を、這うように動いているではないか。


‥‥まるで何かのやまいの菌が全身に周るように関節までも犯していき、破壊された精神を得て‥‥皮膚が剥がれるも死体どうし覆い被さると、何か得体の知れないものへと変化していく。

死んだかと思っていたは呻き声を発して血塊ブラッドコープスへとなると、誰かが沈黙を裂いて絶叫した。


原型の定まらない血の塊ブラッドコープスは起き上がった。


「何なのよ一体!!あれも敵の仲間なの!?」


「知るか!!」


緋翠は初めて見る物体に恐れ、退きながら碧娥に正体を尋ねるも彼も知る筈が無い。更に悲鳴はあちこちに響き渡る。


「ば、化け物だぁ!!」


その名の通り死骸は血の塊ブラッドコープスと化して動き回っている。

仄暗い者グリームの原型と云えるであろう血の塊ブラッドコープスは、まるで息絶えながらながらも何かを操舵体にし、生きようとする。

燈内を歩きだした血塊ブラッドコープスと対峙した部隊。その不気味な形相からは刺が突き刺さるような狂気を感じ、その場にいる全員が威圧される。彼らは一心不乱に銃を乱射するも微動だにせず、そのまま奴らに強靭な体は切り裂かれ、喰われると血塊ブラッドコープスは肥大し、さっきの戦いより更に増えていく。


「助けてくれぇ!!」


彼らはなす術もなく襲われ、次々と無残な姿へと変わる。


「動くな!!」


碧娥は目の前で血塊ブラッドコープスの群れに歯が立たず喰われようとする仲間にそう叫ぶと、風もなく長い髪が靡いた。

「氣」を込めて燈の中の大気から重力を作り、そこにいる全ての動きは強い力で地面に引っ張られていく。

血塊ブラッドコープスの動きが一瞬鈍くなると、彼は光紫に合図を送るように方向を変えた。

━━普通の銃や武器や攻撃では化け物を倒せない。同時技コンボを放てばどうか?

それを察知した光紫は止まったまま機械の剣マシンソードを構える。

碧娥は自分の氣でそこにいるものの動きを縛ったが、一つだけ大気の流れを光紫の方に作ると、爆風の拳ブラストファストを撃った。


その爆風で飛鳥の如く飛んだ光紫は大気を裂いて、血塊ブラッドコープスに狙いをつけると、加速した機械の剣マシンソード次々と紫の光を閃いた。



「これは‥‥一体何だ?」


斬られた血の塊ブラッドコープスは消滅したが、所々その体内から光の塊のようなものが幾つも宙を彷徨っている。

すっかり怯え切った仲間の一人が恐怖の余り叫ぶ。


「‥‥さっきの赤い雨のせいだ‥‥これを浴びた死人が‥‥化け物になりやがる。このままここにいたら俺たちまで喰われて‥‥全員化け物になってしまうぞ!」


「じゃあ、私たちもになるかもしれないって事なの?」


その場にいた緋翠達三人も互いに顔を見合わせると顔面蒼白になる。


「だが、スタルオは開いたんだ。ルーダーはこの星から何処かへ行けると言っていた。俺たちも、此処から逃げるしかない!」


「逃げるって、あの変な化け物も増え続けているのよ!が一匹でも外に出たら街はどうなるのよ!!」

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