3-1 潜入


地球とは逆重力で支えられているグリームの星。

この星は《スタルオ》というエネルギーの灯りが薄暗い空を僅かに射し、街を仄暗く照らしている。

街は今、その《スタルオ》という星を支えるエネルギーをかけて、決死の戦いが始まろうとしていた。


摩天楼のように聳え立つ、幾つかの建物の上階。その窓やベランダの隅に無数の影。

緋翠はその中の一角に光紫や碧娥達と潜んでいる。ビルの谷間から足元を見下ろすと、幾つもの建物はまるで迷路のように見えた。


「ここから落ちたら戦う前に死ぬな」


緋翠の隣にいた碧娥がそれを間近に眺めながら思わず呟く。


だが彼らはビルの山頂と言っていいくらいの上界から更に真っ直ぐに伸びた燈台に視線を向けていた。


今は異凶徒軍に占領されたスタルオの塔台。

その燈台は、星の中心と呼ばれる場所にある《スタルオ》に届くだけあってかなり大きなものだ。

内装は吹き抜けの空間に、下から上へと見渡せば外側は彩られた外壁や窓、何層もの渡り廊下に渡り階段が上階まで続き、真ん中にはてっぺんにまで続く長い一本の柱が螺旋階段に巻き付かれたように、果てしなく続くのだ。


普通の人が進めるのはその吹き抜けの空間がある場所と、天井から見える花のように施されたスタルオの装飾のあるあたりまでだったが、彼らは最下階から上へ進むより周りのビルの上層部から乗り込もうと考えたのだ。


「俺たち三人と火是達に別れて後は半々な」


碧娥が潜みながら向こうの火是にそう伝達すると彼はそこに居る三人にこう答える。


「中へ入ったら、お前達は吹き抜けのの通路をやってくれ。俺たちはの階段から責める」


「解ったわ」


緋翠は眼でそう答えた。

火是が外に姿を出すと、そこに居る影は部隊となって姿を現す。

そして囲むように建つ建物を見渡すと、その全員に叫んだ。


「いいか、総支配者ルーダーを見たものは必ず討て」


そう言い放つと、空に榴弾砲ハウザーを撃つ音が鳴り響き、彼らは突入を開始した。


燈台の窓が幾つも破られ、緋翠と碧娥、光紫が足場を確認しながら中へと飛び降りる。勿論塔台の内部は吹き抜けている為外側の階段通路と真ん中の螺旋階段以外は何も無い空間である。

潜入した都市部隊とそこに居た異凶徒との戦いが始まり、敵も味方も次々と雪崩のように散っていった。



真ん中の螺旋階段のある柱に飛び移った火是と葵竜と彗祥。

上からや下からの怒号や破壊音が入り乱れる死闘の中で、火是は銃で螺旋階段の横の壁の一部を割ると彗祥を呼んだ。


「彗祥。この中は隠し通路となっている。お前はそこから入り人質を探すんだ」


「解ったわ」


そう答えた彗祥の顔が引き締まると、不安な顔の葵竜が声をかけてくる。


「彗祥‥‥本当に大丈夫なのか?」


これまで全線の経験は殆ど無く、女子供のいるアジトを中心に守っていた彗祥が、今回仲間の捜索を任されそれを承諾した。

そんな彗祥を葵竜は内心不安な想いで見つめるものの、彗祥はというと彼氏というより親心のように心配しているそんな葵竜に思わず表情が緩くなる。


「ちゃんと敵に見つからないようにするから大丈夫よ。

‥‥それに、もう緋翠ばっかりに辛い思いはさせたくないもの」


「解った。‥‥何かあったら、緋翠でも誰でもいいから助けを呼ぶんだ」


彗祥は微笑むと、阿鼻叫喚の中でどさくさに紛れるようにその中へと入り込んだ。


「彼らを見つけたら迎えに行く」


「葵竜も、気をつけてね」


信じ合う二人は一瞬眼を合わせた後、葵竜は光の小銃ライトハンドガンを手に背を向け、彗祥は長刀を片手にその場から消えていった。



彗祥はただ一人、外の戦闘を壁一枚隔てて仲間を探し回っていた。

外部から人目のつかない場所から外から漏れる光だけを頼りにどんどん上へ上へと進んでいく。


かなり上の方に行っただろうか‥‥。とある天井裏の下から僅かに部屋があるのが解る。中を覗くと、何かに気づいた彗祥はふと眼が止まった。


‥‥その薄暗い部屋の檻の中で、人であろう、何人ものうずくまる影がある。


『見つけたわ!』


━━やはり彼らは裏切ったのでは無く、囚われていたんだ‥‥。

そう確信した彗祥は、刀を手にその場所に降り立った。


「‥‥!?」


檻の中からは微かに呻き声が聞こえるだけで、何の反応もしない。

彗祥は手にした刀を抜き、目の前の鉄格子を気合を込め斬りつけた。

刀から突風が走り、鉄の檻は金属が切断する音と共に鉄格子が壊れる。

彗祥は駆け寄ると、中に居る者達に声をかけた。


「助けに来たわ、みんな無事‥‥?」


彼らは苦しむように目を動かすも逃げるそぶりもみせない‥‥

‥‥彗祥は何か不安なものを感じた‥‥‥その時、何かに気づいた。


「━━!!」


ぱっとして振り返ると、真暗い奥の壁際に人影が居る‥‥それは全身鎧姿の男だ。


‥‥‥この男が、総支配者ルーダーなの!?


まさかこんなところで会おうとは‥‥‥全身から言い知れぬ恐怖が沸き起こる。

が、彗祥は、立ち上がってルーダーを見据えると、刀を構えた。


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