1-2 告白

それまで撃ちあっていた時に吹いていた風も収まり、まるで光で描いた森のような彗祥の世界に立つ緋翠と碧娥。

二人ともその世界に似合わぬ顔で睨んでいたが、緋翠は濡れた赤い髪に赤い唇、それに赤い鞭竿ウィップ・ロッドが体に纏わり付いて、それが時々差し込む光で輝いて見える。

━━この世界のせいなのか?と思わず碧娥まで錯覚しそうだったが、少し間を開けると彼は話しかけた。


「ここに来れたのは光紫のお陰か。あいつ、いつから優しくなったんだ」


碧娥にそんな事を言われた緋翠は思わずムキになるように言う。


「私や光紫の事を知った風に言って、碧娥に一体何が解るっていうの?」


「俺にだって解ることはあるぜ」


そういうと碧娥は、冗談まじりにニヤニヤとする。


「お前が本気か本気ではないかくらいだったら、俺は見ただけでも解る」


「‥‥なによそれ」


そんなデリカシーの無さに一瞬ひきつらせた緋翠。

碧娥はそんな緋翠の顔を眺めながら、「でも、昔のお前はもっと厳しかったぜ」

と思い出すように笑う。


だが緋翠は

「あんたと喋っている暇はないわよ」

とプイッと踵を返し、そこから立ち去ろうとした。


「どこへ行く」


追い風が吹いてくると、緋翠は走り出した。それを制止させようと後ろから風の弾が大砲のように幾つも音をたてて飛んでくる。


「邪魔しないでよ!」


叫びながら振り返り鞭竿ウィップ・ロッドを碧娥へ向ける。

碧娥は蛇のように跳んできた鞭の先を素手で掴むと、緋翠は緋い眼でキッ、と睨んだ。


「この世界のどこかに、姉さんの代わりに沙夜が居る。そこに葵竜も居るはずなのよ」


熱のように訴える緋翠を冷静に見ながら碧娥は言った。


「あのガキのせいか」


「半分そうよ。私はヒョウが嫌いじゃない。でも葵竜が私たちや仄暗い者グリームを連れてきたお陰でヒョウ達に迷惑をかけたわ」


更に緋翠はその後に何かを言おうとしたが、言葉を変えて続ける。


「‥‥その為に、葵竜を捜さなきゃいけないのよ」


この二人は言いたい事を言い合う間柄だったが、全てを言っていない事に気付いたのか、気付いていないのか碧娥はこう言った。


「だが昔のあいつとは思うな」


「だからよ!私はこんな状態で一緒にいるくらいなら、あんた達と闘うわ!」


衝突するような主張をするそんな緋翠に、碧娥は聞いた。


「じゃあお前は、葵竜を捜して殺したいのか」


「べ、別にそんなつもりじゃ‥‥」


その言葉に緋翠は一瞬戸惑ったが、話をすり替えるように尋ねる。


「‥‥じゃあ碧娥はどうなのよ。このままでいいっていうの?」


碧娥はそんな問いに暫く黙る。すると突然、緋翠の顔を見ると真顔になった。


「俺はどっちでもいい」


緋翠を見る彼の表情は変わらなかったが、その目はどこか違っている。


「どうせ俺の生きる場所はもうない。前にも言ったが、一度この世から消えた身だからどうでもいいんだ」


長い髪が風に揺れ、碧娥は鞭竿ウィップ・ロッドを掴んだまま逆の手を、緋翠の目の前に差し出した。


「それとも、ここで暮らすか」


‥‥その言葉に緋翠は動揺した。

‥‥この争いの無い世界で、共に果てるまで暮らせるのなら‥‥どんなに幸せだろうか‥‥。

緋翠の瞼が一瞬揺れ動くが、ハッとした。


「‥‥嫌よ」


私は今、ここで立ち止まれない。

そう思いながら数歩あとずさると、碧娥は苦笑いをしながら手を引っ込めた。


「‥‥だろうな。お前は昔からのことが」


その言葉を言い終わらないうちに、緋翠の感情は激昂した。


「その前に、あんたを殺すわよ!」


この二人は相入れない事は無いのだが、緋翠にとっては、碧娥から口に出されるが昔から言われたくない言葉ワードだったのだ。

緋翠は鞭竿ウィップ・ロッドを一気に引き戻すと碧娥に跳びかかる。緋い一閃が炎を繰り出し、碧娥も拳を放つと二人の間で爆発した。



━━破裂が響くかと思ったその一瞬、爆発音の代わりにスーバーノブァが起こったかのような強い何かが広がっていき、彼らはそれに包まれていく‥‥。


「‥‥!?」


宙で跳びかかろうとした緋翠はその何かに呆然としながら驚くと、そのまま真下に落ちていく。

碧娥は突発的に眼を覆ったが、やがて視界がはっきりとすると、辺りを見渡した。


‥‥緋翠!?


そこにいる緋翠は動かなかった。碧娥は側に来ると、倒れている緋翠の手を取る。

‥‥生きている。気を失っているだけだと解かり、黙って緋翠を見つめるとその足下に、何かがあるのに気づいた。


緋翠と一緒に転がっていたのは《スタルオ》の欠片。


「‥‥おい」


碧娥は緋翠を引き寄せると、横目で遠くを見据えた。


「お前か。その石を投げたのは」


━━その視線の先に立っていたのはヒョウだった。


「緋翠を放せ」



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