3-3 夢の中の星へ行く


「こ‥これは‥!?」


ヒョウは自分の足が地に付かずふわりと浮いている事を自覚した。


さっきの緋翠と光紫の衝突で起きた爆発は《彗祥の夢》に吸収され、三人の体ごと引っ張られると雲と光の中を漂ったのだ。


一瞬驚くも、緋翠達は戦う意外の表現を持ち合わせていなかったらしい。

‥‥今、光紫に鞭竿ウィップ・ロッドを放てば一思いにとどめを刺せる。

逆に光紫も本気で機械の剣マシンソードを突き立てば緋翠を殺す事が可能だ。

何方が討てれば相手を従わせる事が出来る筈。緋翠が今の状況を見ながらそんな事を考えていると、機械の剣マシンソードを手に血だらけで立ち尽くす光紫は緋翠とヒョウを見据え、言葉を発した。


「緋翠、お前も俺と同じだろう」


「そうよ」


緋翠は光紫が頃の事を言っているのだと解っていてそう答えると、こう続ける。


「でも私は違うわよ」


反抗するような眼の緋翠に光紫は、静かだが何かを吐き出すように言った。


「俺たちは守るべき者の為に戦っていた。しかし俺は、守るべきものに殺された。

‥‥何をしようが勝手だ。しかし、はお前らだけの世界じゃない‥‥」


彼はのまま、この場所に存在している。緋翠は目の前の光紫を見ながらそう感じた。


「確かにそうよ。だけど、それは光紫だって同じ。此処は私たちの世界じゃ無い」


「だったら緋翠、何故お前はこの男ヒョウの星の為に戦うのだ」


そう問われた緋翠が暫く黙ったその時、すぐそこで漂っているヒョウはふと何かが聞こえると、恐る恐る真下を向いた。


「緋‥‥翠‥‥」


前髪と結んだ髪が風に煽られながら俯く、ヒョウの震わせるような声に再び対峙しようとしていた二人は我に帰った。



いつもなら空を見上げれば鳥が飛んでいて、街は燈と賑やかな人混みで溢れかえっていた。

正直、親に会うのも学校に行くのも鬱陶しいと思う時もある‥‥だけど、その街は静まり返り‥‥


今、この街は風の音がしない。


その代わり、異星界から来たがどこかに潜み、その呻き声が耳に入ってくる‥‥ヒョウは息を呑んだ。




緋翠は色を失った表情のヒョウを見つめる。

そんな彼らに包まれるような淡い光が射すと、緋翠は天空にかざしていた《彗祥の夢》がさっきより近い場所にあることに気がついた。


さっきまでの異様な雰囲気と違い、彗祥に見守られているかのような光を感じた緋翠は、やがて戦う意志が薄れ始めた。


光紫もその光を仰ぐと、彼は自分の機械の剣マシンソードを目の前にかざし、動かなかった。


黒い髪が、紫の機械の剣マシンソードに光が照らされ彼の瞳が澄んだように輝いて見えた。

緋翠はそんな彼を見つめ、感情だけで闘おうとする光紫が、同じ仲間として静かだが優しい人間だと解っていた。


━━葵竜と‥姉さんは‥‥‥。


「光紫」


そう思った緋翠は光紫の方を向くと、彼に近づいた。


「私がヒョウの星の為に戦う理由なんてないわ」


緋翠は、目の前に翳した機械の剣マシンソード鞭竿ウィップ・ロッドで受け止め、交差させた武器と武器の間で眼を合わせる。


「だけど、ここがやがて仄暗い者グリームに侵食されたら‥‥それこそ私たちのした事が何の意味も無かった事になる。

私は、彼らを‥‥あなたのような目に合わせたく無い」


光紫は目の前の機械の剣マシンソード鞭竿ウィップ・ロッドとその先を見つめたまましばらく黙ったが、「緋翠」と言うと言葉を続ける。


「お前の気持ちは解っている」


ここへきて、初めて光紫の上場は深い闇を見つめるような憂に沈む表情を見せた。


「彗祥は自らああなったのではない。葵竜も‥‥」


「‥‥光紫」


彼は後ろを向くと、頭上の《彗祥の夢》を見上げた。


「あれに辿り着けるか」


向こうを向いたままの光紫は、横目で緋翠を見る。


「‥‥そうすれば葵竜に会える」


「行くわ」


《《彗祥の夢》》目掛けて鞭竿ウィップ・ロッドは再び緋色の線を引いていく。

空に描いた半円が幾つも広がり《《彗祥の夢》》へと向かっていくと、緋翠は吸い込まれるように月の輪と共に上がっていった。


「緋翠、俺も行く!」


ヒョウも叫ぶと緋翠につられるように向かっていく。

二人は夢の中の星へと、光の中の流れに入っていった‥‥。

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