4−1 グリームの正体は

「戦うのを止めろぉ、緋翠ぃ〜!!」


ヒョウの必死のわめき声が耳に入ると、それまで戦っていた三人はふと立ち止まり、視線をヒョウに集中する。


いつの間にか雪のような世界が再び彼らの周りを白く覆いだす。

碧娥はその自分たちの間に割って入った、さっきから緋翠と一緒に居るヘルメット男に怪訝な顔をすると、ぶっきらぼうに緋翠に聞いた。


「緋翠。誰だ、そいつは」


「私が誰といようが勝手よ!」


まだ戦闘モードが抜け切れていない緋翠は手に取った鞭竿ウィップ・ロッドをパン!と地に跳ねつけてそう叫ぶと、慌てたヒョウが振り投げようとするのを慌てて止めに入る。


「待て!君ら知り合いなんだろ、取り敢えず戦うのを中断してくれないか!?」


「少なくとも緋翠こいつは俺たちには容赦がない。昔からこうだ」


憮然とした顔でそう言われたヒョウは、この三人はライバル視しつつも、対等の立場なのだと気づいた。

此処とは違う世界の事だけど、自分には立ち入ることが出来ない‥‥下手して口出しすれば、お前には関係ないだろうとか言われるような。


そう感じた彼は、はぁ‥はぁあーー‥‥と息を大きく吸うと、声を振り絞って自分の訴えを彼らに主張した。


「結局何だか知らないが、緋翠達は何しに来たんだよーー!ここは俺の住む星、地球なんだ!イミが解んねーよ!!」


「‥‥確かにそうよ」


ブチ切れたヒョウに今まで血の気が多かった緋翠の感情が鎮静化していくと、光紫は静かに、一言だけ言った。


「俺たちも来たくて来た訳じゃ無い。だが、元はというと、男の復讐から始まったんだろう」


葵竜きろうか。‥‥彗祥すいしょう行った」


碧娥が続けてそう言うと、ヒョウは、緋翠がを連れて来たのはだと言っていたのを思い出す。


━━あの日、光の中にいた男が『葵竜』で彼の側で眠っていた女性が緋翠の姉の『彗祥』なんだと解ったのだが‥‥。


「じゃあ、葵竜きろうはどこよ」


「知らん。あの二人は生きているのか死んでいるのかも解らんからな」


緋翠の疑問を投げかけるような問いに碧娥は冗談のようにそう答えると、切れ長の眼で視線を向ける光紫。


「欲望の為に生きる者を、救うことはもう無い。葵竜やつはただ殺す為に‥‥彗祥と俺たちを、ここに連れてきたんだろう」


そう言った光紫の眼は静かだが憎しみを滾らせているようであった‥‥。


「でも、このままじゃグリームあれはこのまま増え続けるわよ」


「だから、何で‥‥!?」


全く理解不能な顔をするヒョウ。それを尻目に彼らは、「何か」を見ると急に目の色が変わり、それを凝視する。


「‥‥その、原因が《彗祥》であり」


言いながら光紫は場所に剣先を突き出した。


「その、根本である《彗祥》なら、あそこに━━」


ヒョウは彼らが見ている方向を向いた。

彼が機械の剣マシンソードで指した先にあったものとは、まぎれもなく仄暗い者グリームの姿だった。


「‥‥‥!?」


絶句したヒョウに光紫はなおも続ける。


「葵竜はグリームを産み落とす彼女を生かす為に、彗祥をこの世界へ連れてきた。言わば、この星を化け物に侵食させる為に」


━━すると、『緋翠の姉さん』というのは、この化け物グリームで、俺たちを殺しに来たっていうのか!?


混乱したヒョウは思った。‥‥そんな話、妹の緋翠にとっては、もっと衝撃なんじゃないか‥‥?と。

しかし‥‥‥、


「緋翠、それでもお前はあれを殺すのか」


碧娥の問いに緋翠は「ええ」と答えると、


「姉さんは化け物じゃあないわ。は私が一人残らず殺す!」


そう言い放つと駆け出した。



緋翠が走り抜ける白い幻想の中。そこはまるで闇に、雪。というより不気味な魂が降り注いでいるようであった。


その黒い世界に、また違う別の、霞むような光を見た。

その輝きから雪のような光は落ちていき━━

再び現れた仄暗い者グリームは巨大な死の塊となって姿を現した。


「━━!?」


緋翠はその輝きを目指して跳びあがると宙に浮く状態へと変わり、緋翠は瞬時に仄暗い者グリーム鞭竿ウィップ・ロッドを飛ばし、絡めた仄暗い者グリームに引き寄り浮き上がる。

‥‥そこへ目掛けて滑降し、牙の如く鞭竿ウィップ・ロッドをしなやかにを振り下ろす!


グァアアアァ!

斬り割られた仄暗い者グリームの破片は分散する。しかし、仄暗い者グリームは再びゆらめく残像のように集結し━━、

再び一つの「核」の中に再生すると、緋翠の体を掴みかかった。


「終わりよ!!」


緋翠の鞭竿ウィップ・ロッド仄暗い者グリームを縦に一閃した!

赤く尾を引くように走る仄暗い者グリーム

そしてその「核」を見つけるや、破壊しようと飛び込むと‥‥


「━━!!」


緋翠はその蠢く核の光に包まれ、逆に何かに囚われてしまった。一つの、幻夢の世界に入っていくように‥‥


‥‥体が焼けるように熱い‥‥


‥緋翠は、自由を奪われ‥地獄のような苦しみを感じ‥‥、

朦朧とした中で、幻影が見えた。


‥それは、蜘蛛の糸に絡まれるように眠る女の姿だった。


「━━姉さん‥‥」

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