結婚相手が殺されたのは、これでもう七度目です。私が悪魔に魅入られているから:あるいは、アスモダイオスの身勝手な恋

木村直輝

序幕~七度目の初夜~

「七回目の結婚……なのだよな……?」

 薄暗い寝室のベッドの上で、アジダハーカ様がそう言った。

「はい。アジダハーカ様が、七人目の私の夫です」

「……だが、私が初めてなのだな?」

「はい」

「そうか、安心しなさい。こう見えて、私はとても技巧派でね。この私が優しく手解てほどきしてやるから、全てを私にゆだねるのだよ」

「はい」

 アジダハーカ様のたかぶる息遣いだけが、星明かりの下くっきりと聞こえる。

「三十を過ぎているとは思えんな。美しい……」

「ありがとうございます」

「ふふっふっ。さあ、後ろを向いて。……そう。じゃあ、両手を後ろで組んで。……そう。いい子だ、セーラ。……ぬわっ!」

 突然、アジダハーカ様が悲鳴を上げた。

「アジダハーカ様!?」

 振り返ると、そこには仰向けでベッドに倒され、首を絞められているアジダハーカ様の姿があった。

「ぁっ……、ぁっ……」

 アジダハーカ様のお顔は見えないけれど、きっと真っ青になって、死者のそれへ近づいているに違いない。声にならないうつろなあえぎが、苦悶くもん雄弁ゆうべんに語っている。

 そんなアジダハーカ様を見下し、首を絞めている線の細い背中。黒衣におおわれた真っ黒な背中。虚空にあいた穴の様な背中に、私の視線はすべもなく落ちていく。

「……」

 間もなくして、アジダハーカ様の息のは聞こえなくなった。暴れていた下半身も、もう動かない。寝室にあった音はこれで全て死んだ。

「……」

 目の前の背中が音もなく動く。ゆっくりと、その背の主が私に振り向く。

「っ……」

 ふたつの角を生やした、恐ろしい形相。それは色欲の悪魔。

「アスモダイオス……」

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