第37話 お説教のお時間です

「……無事で良かった」

「私は大丈夫。それより!」

「それより?」


 しみじみ言うアダムに膝を突き合わせて正座をした私は、前のめりになって床を叩いた。

 アダムがビクッと震える。


 別にお仕置きとかしないよ?なんでそんなにビクビクしてるかな?


 まさかアダムに前世SM女王疑惑を持たれているとも知らずに、私はアダムににじり寄った。


「王都はどうなってるの?どこが治安は悪くないよ」

「あ、いや……。ロッティが誘拐されたのは、僕達がちゃんと警護できてなかったからで、裏路地の奥とかに行かなければ、そんなに危ないことも……」

「裏路地が危険なら、それは治安悪いってことでしょうが!そこを見て見ぬふりして治安がいいとか言うアダムが信じらんないよ」

「見て見ぬふり……してるつもりは。騎士団に巡回させて、取り締まりはしっかりさせてるし。犯罪といっても、犯罪組織がはびこっでるとかはなくて、軽い犯罪がちらほら」

「犯罪者を捕まえるのは当たり前でしょが!ナチ達みたいな犯罪者予備軍がいたら、捕まえたって捕まえたって、ポコポコ増えるんだからいたちごっこだよ。それにね、窃盗や強盗、暴行の類は軽犯罪じゃないからね。誘拐もね!」


私の勢いに、アダムはわかってると大きく頷く。


「もちろんそうだね。軽い犯罪なんかじゃないね。犯罪者が増える原因の一つに、ちゃんと教育を受けれない環境があるんじゃないかって思ったんだ。字も書けない、計算もできないじゃ、まともな職につけないから。だから、教育をしっかりさせなきゃと思って、学校とかは充実させてきたんだけど……」

「ナチ達が学校に通えると思う?」

「思いま……せん」


 私はナチから聞いた彼の状況や、他の子供達の話をアダムに話した。戦争孤児はもちろん、病気や事故で親をなくした子供達や、誘拐などで連れ去られてきた子供達が、大人の保護を受けることなく、逆にガルマのようなクズに食い物にされている。彼らを保護する場所はないのかと聞くと、王都に孤児院はないと返事が返ってきた。


「ない?!馬鹿みたいに戦争して、領土広げてるよね?うちみたいに話し合いですめばいいけど、ニングスキーみたいに戦争になったら、みんな無事になんか帰ってこれる訳ないじゃん。やりっぱなしは駄目でしょ」

「ロッティの言う通りだよ」


 アダムは正座をして項垂れる。今まで公式にも非公式にも王都や近郊の領土には視察に訪れていた。年に一回、辺境視察もあった。国のことはわかっているつもりになっていたが……。


「彼らを保護できる施設を国中に作ろう。ロッティも手伝ってくれるだろうか?」

「口出すくらいだけどね。まずは、ナチ達をなんとかしないと。ガルマがいなくなっても、第二第三のガルマが現れるだけだから」


 別に国を良くしようとか、不幸な子供をみんな救うんだとか、そんな崇高な思想がある訳じゃないんだよ。前世だって、遠い外国で飢えた子供がいるって聞いても、可哀想だねって思うだけで特になにもしたことないし、同じ日本でだって色々あったと思うけど、自分になにかできるとすら思わなかった。誰かがどうにかてくれるんじゃん……って他力本願で、自分のことでいっぱいいっぱいだった。


 でもさ、この世界では王女なんて立場に生まれちゃって、しかも王太子妃なんて大層なものになっちゃったじゃん。うちらが他力本願してたら、やっぱりまずいんじゃないかな。


「そうだな。施設ができるまでは、身元のしっかりした預かり先を探すのはどうかな?」

「そうだね。全員は無理でも、うちでも数人預かれるよね。王太子くらい身元のしっかりした人はいないじゃない」

「それは……そうだね」

「ナチくらい大きければ侍従見習いにもなれるしさ。でも、そうしたら子供の面倒見てくれる侍女も雇わないとか。マリアにそれはきついもんね。アダム……大丈夫そう?侍女、女の子だけど」


 アダムの眉がひくりと動くが、すぐに笑顔を繕った。


「いや前も言ったけど、女性が少し苦手なだけで、受け入れられない訳じゃないから。ロッティとも別に普通にしてるよね」


 こういう無理しいなとことかも可愛いんだけどね。でも可愛いなんて大人の男性に言っても喜ばないから、内緒なんだけどね。


「そうだね。じゃあ、とりあえず侍女を一人増やしてみようか。子供達も自分の世話は自分でできる子供を数人うちで面倒みよう」


 とりあえず話は終わったと、足が痺れているのに気づかずに立ち上がった私は、立った途端に腰砕けのように倒れ込んでしまった。


「危ない!」


 アダムが抱きとめてくれ、アダムにしがみつくように身体が密着してしまう。


「ご……ごめん」


 アダムの硬い胸板を頬に感じ、思わず頬が熱くなった。


「大丈夫?」

「アハハハ、正座なんか久しぶりにしたから、足の感覚がなくなってるのに気が付かなかったよ」

「足、捻ってないか?」


 アダムが私の足首に触り、ビリビリとした痺れが直撃した私は、さらにアダムに抱きつくように悶絶する。


「ヤバイから!今触られたらおしっこ漏れそうになる」


 私だけかな?足が痺れた時にトイレ我慢してるような気分になるの。


「言い方……。なんとなく言いたいことはわかるけど。フフ……」

「あ、だから触らないでって」

「変に動かすとつるよ」


 足の指を曲げたり伸ばしたりしながら、ふくらはぎを揉んでくれて、思っていたのよりも早く痺れから復活する。


「……ふう。落ち着いた。アダムは大丈夫?もし痺れたらいつでも言って、私がしっかり揉み解してあげるからね」

「その時はね。そうだ、これ、ロッティが窓に縛ったんだろ?」


 アダムは私を床に下ろすと、ポケットからアダムの革紐と私の組紐を取り出した。


「あ……気がついてくれたんだ」

「もちろん。この場所はさっきの子供の仲間から聞き出したんだけど、ここについてすぐにロッティの場所がわかったよ」


 アダムは私のボサボサに乱れた髪の毛を手ぐしで整えると、器用に編み込みにして組紐で結んでくれた。


「じゃあ、アンクレット代わりのアダムの髪紐もよろしく」


 調子にのった私が足を差し出すと、アダムは一瞬無の表情になったものの、黙々と足首に革紐を巻き、綺麗なチョウチョ結びが横にくるように結んでくれた。

 結んでいるアダムを観察していたのだが、顔は無表情なのに耳だけドンドン赤くなっていった。さっきは気にせず痺れた私の足を揉んでたくせに、紐を巻く行為が恥ずかしいのか、行為に興奮しているのか判別はできなかったけれど、なにか感じるものがあったらしい。私の足で!!


 結ぶのが好きなのか?自分が結ばれるのを想像して興奮したのか?


 どっちだ、おい!

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