第27話 旦那様の貞操を守りたい!

「……から。ロッティ、聞いてる?」

「あ……ごめん。なに?」


 口の中の物をゴクンと飲み込んで、あまりの味のなさにウエッとなった。アダムとのことを考えて、ついボンヤリして飲み込むのを忘れてずっとモグモグしていたらしい。


 アダムとのこと、ズバリ恋愛の進め方について悩んでいたのだ。


 なにせ、身体の関係に簡単にもっていくテクは知っていても、相手にも自分を好きになってもらう為にどうしたらいいかなんかわからないし、第一普通の恋愛の進め方なんか知らない。


「好きだ」って告白して、「お付き合いしましょう」ってなるのが、やっぱり普通の流れな訳でしょ?それくらいの知識はある。でもさ、アダムはすでに私の夫で、お付き合いどころかそれをすっ飛ばして結婚しちゃってるじゃない?じゃあ、「お付き合いしましょ」はおかしいことにならない?お付き合いできなきゃ恋愛ってどう進めたらいい訳?


 第一、「好きだ」ってどんな流れで言うもんなのかもわからない。試しに昨日言おうと試みてみたんだけど……。

 ベッドに座って向かい合って、いざ言おうとアダムを見上げたら、いつも以上に無茶苦茶アダムがカッコよく見えちゃったんだよ。顔が爆発するんじゃないかってくらい熱くなって、緊張しすぎてアワアワしちゃってさ、あまりに赤くなった私を見たアダムが、「風邪ひいたんじゃないか?」って、オデコとオデコをコツンなんてするから、もう悶絶して倒れるしかないじゃん。そのまま熱があるからって、布団に包まれてポンポンされてたら……寝ちゃったんだよーッ!


 まぁ、色んな面で自分の残念さを痛感した出来事だったよ。


「今日の第二妃の誕生日パーティーだけど、ロッティは欠席にしといたからって言ったんだ」

「え?なんで?」

「昨日熱があっただろ。念のために休んでないとだよ。それに、行ったって面白くもなんともないうえに、なにを仕込まれるかもわからないから。僕も、顔だけ出したらすぐに抜けるつもりだ」

「ああ。第二妃って、第一妃を毒殺したとか噂の絶えない人だっけ」

「そう。その第二妃。わざわざ危ないとこに行くことないから。今日は勉強も休みにしたから、ゆっくり休んでいるんだ。いいね」


 アダムは最後に紅茶を飲み干すと、じゃあ仕事に行ってくると私の頭をポンポンと撫でると、主宮殿にある王太子執務室へ向かった。


 頭ポンポンとか、もう……好き。


 アダムのスキンシップ(ただ頭を撫でただけ)に顔を赤らめた私は、熱くなった顔をパタパタ扇いだ。

 勉強がなくなったのはラッキーだったけど、パーティーに行けなくなったのは正直困る。いまだにエミリヤやスザンナ以外の妃とは会っていないし、夫人達も同じくどんな顔をしているかすらさっぱりわからない。

 敵を知るには良いチャンスだと思っていたのだが……。なにより、アダムを一人で魑魅魍魎が跋扈する後宮のパーティーにいかせるのも不安だ。アダム狙いの夫人達もいるようだし、媚薬とか盛られてあのパーフェクトボディーを好き勝手されるとか考えたら、いてもたってもいられなくなるじゃないかァッ!


「シャーロット様、お風邪をひかれたのですか?」

「いや、全く!全然元気」

「ですよね」


 心配したマリアが私の顔色を見に近寄ってきたが、私の顔を見て安心したようで、お茶をいれなおすと壁際に下がっていった。


「ロザリーってもう来てる?」

「はい、いらしてますよ。シャーロット様のお食事が終わるのをお待ちです」

「呼んで……いや、私が行く。マリア、食器は私がついでに運んどくから、あなたはもう下がっていいわよ。用事があったら呼ぶから。また腰痛いんでしょ?貼り薬はまだある?」

「まだたんとございます。では、お言葉に甘えさせていただきます。でも、ここの後片付けくらいはさせてくださいませ」


 歩く時に腰を撫で擦っていたのを目ざとく見ていたのだ。御老体はいたわらなくちゃね。


 私は食べ終わった食器をマリアと一緒にワゴンに片付け、ガラガラとワゴンを押して厨房へ向かった。途中、従者の一人に会ったからワゴンを引き取ってもらい、ロザリーの待つ控えの間へ方向転換する。


「ロザリー!お願いがあるんだけど」


 扉をノックすることなく開けると、ロザリーは蔓に薔薇の刺繍入りのハンカチをニマニマしながら眺めていた。


「シャ……シャーロット様!」


 慌てふためいてハンカチをしまう様子を見て、私が逆に驚いてしまう。なにも自慰している現場に遭遇しちゃった訳でもあるまいし、そこまで慌てなくてもよくないか?


「ごめんごめん。なんか私、まずいものでも見ちゃった?」

「と、とんでもございません!なにも問題はございませんとも」

「そう?ならいいけど……。ね、ロザリーは後宮に勤めて長いよね。護衛騎士の前は、侍女見習いもしてたんだよね」

「さようにございます」


 ロザリーは席を立って私を迎え入れたが、私に押されるようにしてまた席についた。


「あのさ、なら、後宮侍女とかにツテはあったりするよね」

「まぁ、知り合いは多いですね」


 私がニンマリ笑うと、ロザリーは顔を嫌そうに顔を顰めた。


「なにかたくらんでます?」

「ちょっと、今日のパーティーに侍女として潜入したいなぁ……なんて考えてたりして」

「ハァッ?!」


 ロザリーは、素のツッコミを入れる。


「失礼いたしました。潜入っていったい」

「なんかさ、アダムが今日のパーティーに一人で行くとか言い出してさ……」


 私は昨日のことから今朝のことまで全部ロザリーにぶちまける。この間の結婚衣装の打ち合わせの時に、ロザリーには私の気持ちはバレたことだし、この際協力してもらっちゃおうと思う訳。私なんかより、よっぽど普通の恋愛しているだろうし、年齢も(前世抜きで)お姉さんだもんね。護衛騎士兼恋愛アドバイザーをお願いしたい!


「……という訳で、アダムの貞操を守りたいの!」

「だからって、なんでシャーロット様が侍女のふりをしてパーティーに潜入なさらないといけないんですか?!」

「だって、私ならまだエミリヤ様とスザンナ様以外には顔バレしてないし、潜入し放題じゃない?多分、侍女見習いでいける気がする」

「……」


 自分で言うのもなんだけど、見た目可憐なお姫様じゃないからね。


「ね、協力してよ。お願い!」


 両手を合わせてお願いすると、ロザリーは大きくため息を吐いた。


「ちょっと、お待ちいただいてもよろしいですか?王太子宮から出ずにお待ち下さい。すぐに戻ってまいりますから」

「了解!」


 ロザリーはさらに大きなため息をついて部屋から出て行った。ロザリーが戻ってきたのはそれから三時間後。


「お待たせいたしました」


 ロザリーは手に侍女の制服を持ち、後ろには少し背の高い眼鏡をかけた地味な侍女が立っていた。


「後宮の侍女、カリナです。今回、シャーロット様を補佐させていただきます。カリナの言うことを聞いていただけるのならば、今回は協力させていただきます。カリナは護衛のスキルも高いですから、彼女から離れないと約束いただけますか?」


 茶色の髪色に焦げ茶の瞳、いかにも地味な侍女だが、なにかが引っかかる。なんか見覚えがあるような、ないような。私より、一つか二つ年上に見えるんだけど……。


「約束……する」


 今はなによりも潜入優先ということで、ロザリーの言うことに頷いた。

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