第28話 魔法と、生贄と、もろきゅう

 今朝は晴れた。

 朝からセミが鳴いている。

 戻り梅雨も今日で終りかな。


 シイタケは栽培キットから小さいのが出たと報告があった。

 干しシイタケも作りたいな。


 オークに作らせよう。

 あそこのダンジョンは日が照っているからな。


 オークの所に植えた二十日大根も順調に育っている。

 あと10日もすれば収穫できるだろう。


 さて、今日も午前中の涼しいうち心霊治療だ。


【朗報】心霊治療開催10【気軽に来てね】

845

場所は○○神社の横手の森。時間は午前11時から、午前12時まで。

一回一万円。

痛み止めは千円。

※声を掛けられても驚かないように。


846

スレ主に質問?

科学なのかオカルトなのか


847 スレ主

魔法です


848

魔法か

これで超科学かオカルトかの論争に終止符が打たれたな


849

魔法という事は法則や規則に基づいているわけだから

科学だとも言える

霊の仕業じゃないんだから


850

それは屁理屈だろう


 魔法は俺も覚えたい。

 誰か教えてくれないかな。


 掲示板の書き込みを終え、俺はエルフの領域に繋いだ。

 クルームが迎えてくれた。


「なんだ、ジロジロ見て」

「エルフって魔法が得意だよな」

「火の魔法以外はな」


「教えてくれないか」

「それなら構わない。【水魔法、生水】だ。ほら、唱えて見ろ」

「【水魔法、生水】。あれっ駄目だ」


「どこが悪いのかこちら側に来ないと分からないな」

「よし、採れたてのミニトマトがあるから。おすそ分けスタンピード」


 俺はエルフの土地に足を踏み入れた。


「もう一回やってみろ」

「【水魔法、生水】。駄目だな」

「魔力が出てない気がするな。手を出してみろ」


 出された俺の手をクルームが握る。


「どうなんか分かった?」

「魔臓も魔路もない人間がいたとは驚きだ」


「それはどういった物なんだ?」

「魔臓は魔力を蓄える所で、魔路はその通り道だ。モンスターには魔臓はないが、魔石がその代わりを果たしている」

「ショックだ。じゃあ俺には無理なのか」

「そうだな。その二つは必須だ。どちらか片方が欠けても使えない」


 俺は持って来たミニトマトを齧った。

 甘酸っぱい味がした。

 クルームもミニトマトを食って何とも言えない顔をしている。

 地球人だったら、さっきの二つはみんな持ってないんだろうな。

 でもだ。

 魔法を使ったんじゃないかという奇跡の伝説は数多くある。

 魔力はあるんだから、体の中には一杯詰まっているはずだ。

 体全体が魔臓で魔路だとも言える。

 漏れて出ないって事は穴がないって事だよな。


「体に魔力が漏れる穴を開けるとどうなる」

「それは病気だな。魔力欠損症だ」

「人工的に開け閉めは出来ないのか?」

「危険だな。傷をわざと付けて、血を出したり出さないようにするような物だぞ。大量出血は命に係わる」


 出来ないのなら仕方ない。

 俺も命と天秤に掛けてまで使いたいわけじゃない。


 待てよ。

 何も俺自身に穴を開ける必要はない。

 例えば、このミニトマト、これに穴を開ければいいんじゃないか。


「野菜ならどうだ? それなら野菜が死んでもどうってことはない」

「恩人の頼みとは言え、植物を生贄に魔力を得るだなんて、そんな恐ろしい事は出来ない。それは生贄の儀式と代わりない」


 うん、俺の感覚と違うな。

 でも、言われてみれば、そうだな。


 俺と倫理観が違うからといって、無理強いは出来ない。

 野菜に魔力的に穴を開けるドリル。


 道具を作ってくれと言ったら、ドワーフも良い顔しないだろうな。

 人間に使えば、生贄の儀式が出来てしまう。


 いるじゃないか。

 倫理観が違う奴らが。

 アンデッドは生贄なんざ気にしないだろう。

 でも、地球で魔法が使えてどうする。

 心霊治療で金をたんまり儲けているから、不自由はないんだよな。

 魔法でないと出来ない事って少ないな。


 異世界ではどうだろう。

 異世界で生贄を奉げて魔法を使っているなんてばれたら、完全に邪教扱いだな。

 それは不味い。


 俺の魔法に対する熱が冷めた気がする。

 帰って、心霊治療して、昼飯にしよう。


 心霊治療はトラブルなく終わった。

 今日の昼飯は冷凍食品のコロッケと鳥のから揚げ。

 そして手作りの一品は、もろきゅうだ。

 味噌もいいが、今日は梅干しにした。


 キュウリを縦に割って、梅干しの果肉を挟む。

 口の中が揚げ物で脂っこくなったから、もろきゅうを齧る。

 キュウリにさっぱりした味と、梅干しの酸味と塩気が、いい相棒になっていて、美味い。


 飲み物はもちろんビール。

 くぅ、冷えたビールが美味い。

 セミのジージー鳴いている音が、本格的な夏の到来を告げている。

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