第16話 村と、ミニカボチャと、カボチャのソテー

 今日は朝からムシムシと蒸す。

 夕方でもないのに空がゴロゴロ言い始めた。

 こりゃ一雨来るな。

 後、幾日かで台風も来る。

 湿った風が吹き込んでいるのだろう。


 畑仕事をしてたら、ぽつぽつときて、やがてザーザーと土砂降りになった。

 縁側でしばらく見ていたら、陽の光が射し込み始めた。

 さっきの雨は何だったかといいうぐらい晴れた。

 雨上がりで気温も幾分か下がっている。


 ツルムラサキを収穫するか。

 収穫されたツルムラサキは茎とツルだけになって、哀愁が漂う。

 まるで毛を刈り取られた羊のような感じだ。

 これも食っていく為だ。


 今日はツルムラサキをお供えしてみるか。

 ツルムラサキをお供えすると、背景はひなびた村へと切り替わった。

 ツルムラサキは村か。

 海はまだ遠いようだ。


 村人が通りかかるのを、畑仕事しながら待つ。


「おったまげた。知らん畑が出来とる」


 おっ誰か来たな。

 敵対感情はないみたいだ。


「こんにちは」

「おう、こんにちは」

「攻撃して来ないんだな」

「馬鹿言うな。同じ農民だ。農民に悪い奴はいない。畑を見れば人柄が分かる。真っ直ぐ切った作。均等の間隔で植えられた野菜。ほとんど雑草のない畑。あんた、そうとう几帳面だろ。畑にこだわって愛情を注いでいると見た」

「分かるか?」

「そりゃ分かるさ。いい加減な奴でない事はすぐに分かる」


「おすそ分けしたいが。インゲンは暑さにやられて生らなくなったんだよな。そうだミニカボチャが2個生った。初物は縁起が良いって言うし持っていくよ」


 俺はカボチャ2個を持って、スタンピードを起こした。

 どうしてスタンピードが起きたかと言うと、カボチャの1つを割って種を取り出したからだ。

 種は53個あった。

 大体、50もあるとスタンピードを起こせるのは分かっている。


「悪いねぇ。貰っちまって」

「いいさ、近所付き合いってもんだよ」

「お返しをしたいが」


「実は物はもって帰れないんだ」

「そうかそれは残念だな」


「魔法なら掛けて貰えるんだけどな」

「魔法を使えるような人はいないな。田舎の村だもんなぁ。そうだ、ご馳走するよ。飲み食いは出来るんだろう」

「ああ、出来る。さっきあげたカボチャを料理したい。案内してくれ」


 厨房に案内され料理開始だ。

 プライパンに油を引く。

 薄く切ったカボチャをソテーする。


 柔らかくなったら塩で味付けして完成だ。

 素朴な料理だが、男の料理なんてこんな物だ。


 スタンピードを起こした種もフライパンで炒った。

 こちらはそれほど美味くないが、ひまわりの種みたいな、ピスタチオみたいな、ピーナッツみたいな感じだ。

 塩をパラパラと振れば、酒のつまみにはなる。


 エールを持って来て貰ったので、カボチャのソテーと、種を頂く。

 他にはウインナーも出された。


 カボチャのソテーをフォークで刺して口に運ぶ。

 油と塩とカボチャの甘さがミックスされて美味しい。

 油を吸ってカボチャがしんなりしているのも良い。

 ホクホクしたカボチャの料理も美味いが、吸った油でジャンクフード感が出て俺はこの料理が好きだ。

 カロリーが高いのが難点だが。


 ウインナーも頂く、プリっとした歯ごたえで噛むと肉汁が溢れてたまらん。

 エールで口の中の肉汁を流す。


 カボチャの種を指で摘まんで食う。

 好きな人にはあげたりするけど、種を割るのが面倒なので、俺は滅多に食べない。

 今日は特別だ。


「あんた、この村の村人にならんかね」

「毎日来れなくて良いのなら考える」

「嫁さんを貰って、子供を作ってくれると嬉しい」

「それはちょっとな。俺の畑は特殊なダンジョンなんだ。神様にお供えする野菜で行先が変わる。野菜が採れなくなると来られなくなる」

「出稼ぎの為に、嫁さんを置いて家を空ける奴もいるぞ」


 外堀が埋められていく感じだ。

 参ったな。


「前向きに、真剣に、検討するよ」

「焦る事はない段々と仲良くなりゃ良いんだ。でもあの畑を見せられたら、もてもてになるぞ」

「はははっ」


 笑って誤魔化した。

 何となく何でこんなに積極的なのか理由が分かる。

 血が濃くなり過ぎるんだよな。

 俺の住んでいる地域も田舎で、血が濃くなって、まあ色々と問題が起きた。

 昭和になってから改善されたが、あそこはと眉をひそめられる。

 猟奇殺人までは起きなかったが。

 まあね、色々とね。


 切実だと言うのも分かるが、なんともかんとも。

 歯切れが悪くなってしまった。

 なんとか解決策を見つけてやりたい。

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