第14話 訴えと、現場と、冷や汁

Side:刑事

「医師法違反で訴えがあった」

「どんなヤマです?」


 俺の言葉に後輩である相棒が反応した。


「心霊治療だ」

「起訴できないのでは」


「掲示板で癌も治ると書き込んでいる」

「それは黒ですね。逮捕状は?」


「それはもっと内偵を進めてからだ。まずは掲示板に書き込まれた場所からだ」


 俺はプロバイダーの情報に従って、現場に車を走らせた。

 駐車場に車を停めて、ドアを開け出ると、もわっとした空気が押し寄せてくる。

 そこは家電量販店だった。


「ここって電器屋さんじゃないですか」

「プロバイダーの情報ではここだ」


 自動ドアが開き、涼しい空気が押し寄せてくる。

 店長に話を聞く事にした。


「警察ですが、防犯カメラの映像をちょっと見せてくれませんか?」

「いいですよ。窃盗の捜査ですか?」

「そんなところです」


 映像を見る。

 書き込まれた時間、パソコンの前に人は映ってない。


「先輩、映ってませんね」

「ああ。くそっ、ウイルスでも仕込んで遠隔操作でもしたか」

「頭が良さそうなホシですね」


「こうなったら。設置されているパソコンを全て買い取るぞ」

「ええ、自腹ですか?」

「仕方ないだろ。令状が無いんだから」


 店長と話し始める。


「設置してあるパソコンを定価で買い取ります」

「定価ですか? 値引きしますよ」


「すいません。よし、パソコンを鑑識に持ち込むぞ」

「はい」


 結果は何も出て来ない。

 くそっ、捜査の手が伸びたのを感じて、ウイルスを削除しやがったか。


「先輩、諦めましょう。これはもっと大人数でやらないと」

「いいか。俺達でなんとかするんだ」

「治療の現場を押さえた方が良くないですか?」

「俺も今そう言おうと思ってたところだ」


 神社へ行くと、現場の森は幾分ひんやりした空気が漂っていた。

 周囲を調べるが人はいない。


「おい、どうなっているんだ。誰もいないぞ」

「人が出て来ましたよ」


 後輩が指を指す。


「さっきまで居なかったはずだ。おかしいな。すいません、警察です。お話を良いですか」

「ええ」


「心霊治療を受けられたんですよね?」

「そうです」


「どんな奴でしたか?」

「見てません。なにがなんだか分からないうちに終わってました」


「どこで、治療しました?」

「この奥です」


「ご協力感謝します。おい、行くぞ」

「はい」


 おかしい。

 人がいない。


「先輩、また人が出て来ましたよ」


 話を聞いたが、さっきと同じだ。

 くそっ、どうなってやがる。


「先輩、これって本物の霊能力者なんじゃ」

「馬鹿言うな、そんな事があってたまるか。隅から隅までこの森を調べるぞ」


 おかしい、森はこんなに広かったか。

 背筋が冷えた。


 そして、森が普通の広さに戻った。

 腕時計を見ると、治療の時間が終わったところだった。

 くそっ、どうなっている。


「先輩、専門家に話を聞いたらどうです?」

「どんな専門家だ」

「陰陽師です」


「馬鹿、デカがオカルトに頼っちゃお終いだ」


 くそう、蒸すな。

 神社の駐車場で俺は呟いた。


Side:創太


 やっぱり夏は冷や汁だな。

 キュウリと紫蘇とミョウガとゴマと豆腐。

 味付けはだし汁と味噌。

 シンプルだが美味い。


 レンゲでひと匙すくう。

 そして口に入れる。

 冷えた汁がなんとも心地いい。

 ご飯は味噌味の汁と絡み合って何とも言えない美味さだ。

 キュウリとゴマとミョウガと紫蘇が渾然一体となって、薬味の役を果たしている。


 豆腐にレンゲを入れてすくい、ツルツルと飲み込んだ。

 喉越しも最高だ。


 良く冷えた猫まんまが極上になったと思えば良い。

 お茶漬けや素麺も良いが、冷や汁をかき込むのは本当に美味い。

 食欲のない時もこれなら食える。


 今日はこれにマグロの刺身を投入。

 豪華な猫まんまが更に豪華になった。

 刺身を咀嚼する。

 味噌の汁と刺身も意外に合うな。


 一日に50万以上稼げばこれぐらいの贅沢は良いよね。


 よし、お替わりだ。

 次は、鯛の刺身を入れてみよう。


 水田を通って冷やされた風が、縁側に涼を運ぶ。

 風鈴がちりんちりんと音を奏でる。

 夏が来たなと感じた。

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