第8話 処刑の時間

 イオの話によると、平民にも処刑されるのが見れるという。いわゆる、公開処刑。この街ではそれがあった。そして、貴族たちは公開処刑を基本的に見る事が規則としてある。意味が分からないが、とりあえず、僕はその処刑をこれから見なければならなかった。しかし、特別ルールがあって、6歳以下の子供は参加できないとの事。トラウマとかの関係だろう。

 予定を聞いたら、この後すぐに行う予定らしい。そして、昼食を取ると。個人的に、処刑の後に食事だなんて、食欲が湧くわけがない。食べた後の処刑も参加したくないけど。

 処刑の説明をされていたら、他のメイドが部屋に来て、「処刑を行う準備が整いました。」と報告がきた。そして、その場所に向かって歩き始めた。歩いていくうちに、外の方から声がどんどん聞こえてきた。平民だ。公開処刑の事を知って、集まってきているのだ。そうに違いない。そして、外に出た。

 周囲を見ると、貴族達は高い位置から処刑を見るっぽい。高みの見物といったところか。イオに案内され、席につく。隣には姉さんも座っていた。そこから、見下ろすと、街と繋ぐ道が見え、平民達がどんどん入ってくるのが、分かる。この様子だと、平民席と貴族の席は別れているのが分かる。その根拠として、席と席に壁があり、こちら側に行けないようになっていた。

 

「姉さん、ちょっと思った事があるんだけど、何で公開処刑をするの?」

「悪人達を殺したという証拠を残すためよ。手紙や私達が言っても信憑性がないしね。こうして、悪人達が死ぬのを見れば、安心するんじゃない?」

確かに、死んだという事実を見せるには、これが手っ取り早いが、それでもここまでするものなのか。姉さんと会話をしていた時、ついに処刑が始まる。


「これより、処刑を行う!処刑執行人のヴァンパだ!処刑人よ、こちらに来い!!」

処刑執行人がそう言うと、あのストーカー男が手錠された状態で歩いてくる。しかし、あの時と様子が違う。まるで別人だった。あの時は威勢があったが、今は怯えていた。何かがおかしい。直感的にそう思った。


「あ〜あ。あんなに怯えて、自業自得だね。カルマ。」

「まぁ、そうなんだけど。」

「どうしたのよ。その言い方。何かあるみたいじゃない。」

「感なんだけど、あの人別人みたいに怯えているから、何かあったんじゃないかと。」

「死刑される人は、皆おかしくなるの。あの人も例外ではないよ。」

自分が死ぬのが確定していて、死ぬ瞬間も分かっている。死に方も分かっている。それでも、生きたいと思っているのなら、絶対に死にたくないだろう。そういう罪人が大半だろうと思った。


「ちっ、違うんだ!!俺はただ操られていただけなんだ!信じてくれよ!」

ストーカー男が叫ぶ。その発言に違和感を覚えた。僕もその場にいたのだ。はっきりと意思があったし操られていたとは思えない。それだと、魔法が使えるイオが気づくはず。根拠が足りなかった。


「ねぇイオ、あの人操られていたりした?」

「いえ、そんな事はないと思います。」

「なるほど…。他に操られる可能性ってあったりする?」

「私が知る限りでは…ないですね。あっ、失礼しました。一つ可能性がありました。」 

この発言で姉さんが驚いた。初めて知ったような感じだった。


「そんなのあるの!?私、魔法の勉強しているけど、操る魔法だなんて聞いたことないわ。」

「操る魔法はありますが、それだと魔法使いにすぐにバレます。私もそれなりに魔法が使えるので、分かります。そして、その方法は薬だと思います。」

「人って、薬で簡単に操られるの?」

姉さんが質問する。魔法で操るのは、僕でも何となく分かる。しかし、薬で操るのは初めて聞いた。


「薬だと、魔法でバレる事はありませんし、何らかの副作用で、性格も一時的におかしくさせる事も可能だと思います。しかし、私も作り方までは分かりません。」 

それでも、僕たちを襲った事実は変わらないし、ここまで準備が整っていれば、処刑は止められない。

 もし、操られていたことが本当なら、僕はそいつを赦さないだろう。関係のない人を僕たちに襲わせたのだから。


 予定はどんどん進んでいく。処刑人は真ん中に立たされ、その場で待機させれていた。

「処刑方法を発表する!その方法は…。」


少し間が空き、周囲は静かになり、緊張が高まる。

「斬首刑だ!!」

発表した途端、一気に騒がしくなる。そして、処刑台が運ばれてきた。僕も聞いたことはあるけど、生で見るのは初めてだ。上に大きな刃があり、下には首と手首を固定する場所もある。

(あれは、ギロチンだ。)


 男は抵抗していたが、手首が固定され、首も固定された。

「嫌だぁー!!俺は悪くない!!悪いのは全部あいつのせいだ!!」


執行人が側に来て、レバーを持った。いつでも開始できる状態。

「では、最後に言い残した事は、あるか?」

「もう…。何を言っても無意味なんだな。」

男が深呼吸して、「早く殺せよ!!こんな街、死んで呪ってやる!!!」

執行人は話を聞かず、予定通り進める。掛け声と共にレバーを下ろした。


「処刑執行!!」

刃は、ズドーンと勢いよく下がり、獲物を捉えて捕食するように、男の首を切った。首は切り落とされ、辺りに噴水のように血が飛び散った。

 目の前に死体がある。さっきまで生きていた。見る覚悟はしていたが、初めて見るそのグロさは衝撃的だった。その衝撃のせいか、気持ち悪さが襲い、口を抑える。変化に気づいたイオは、すぐに僕を連れて、この場から立ち去った。

 もと来た道に戻り、自分の部屋に行った。一度水を飲み、深呼吸をして落ち着かせる。とりあえず、気持ち悪さは無くなった。しかし、まだあの時の場面をはっきり覚えている。もう見たくない。はっきりと、そう思った。


 しばらくすると、姉さんが部屋に来た。それと、僕より幼い少年がそこにいた。その少年は僕の弟だという。名は『セルア』と言った。1つ下の弟で、僕の事を心配して姉さんと一緒について来たとの事だ。


「兄さん、体調がよくないのですか?すごく心配です。」

「大丈夫だよ。もう良くなったから、心配いらないよ。」

そう言って、姉さんとセルアを安心させた。二人共、ホッとした様子。それから、僕の部屋で少し雑談をしたら、丁度昼食の時間になり、食堂に向かった。そこには、既に皆席についていて、食事を待っていた。僕も席について、食事を待った。しばらくすると、食事が運ばれてきて、テーブルに食事が置かれた。そして、食べ始めた。



 何とか食べ終わり、それぞれ自分達の部屋に戻った。父は死体の後片付け、姉さんは魔法の勉強、弟のセルアは昼寝をするらしい。僕は、男の言っていた『あいつ』を調べたいと思った。証言によると、『操られていた』と。仮にそれが本当ならば、同じ事が起こるだろう。狙いは貴族の僕達。

 調べたい理由はもう一つある。それは、日本語が書いてあった『あの紙』。考えすぎかもしれないが、何か手掛かりが掴めるかもしれないからだ。しかし、側にはイオがいる。外には絶対出れない。

 椅子に座って考えていると、イオが何か僕に見せてきた。それは、あの紙切れだった。咄嗟に疑問に思う。(なぜ、それを持っている?)そして、いつ取った?部屋にはずっといた。一人で取る時間は無いはず。


「カルマ様、1つ聞きたい事があります。これは何ですか?」

「それは……。」


言葉が詰まる。正直に話すべきか。この後の事を考えたら、正直に話したほうが良いのだろう。すごく言いづらい。けど、言わなければ、もっと怪しまれる。見慣れない文字があり、イオからすれば暗号的な事だと思っているだろう。そうすると、男の言っていた『あいつ』。疑われる可能性が高いのは、間違いなく僕だ。 


「そんなに言えないことなのですか?」

普通に質問しているが、僕には探っているような感じに思えた。疑っている。完全に。やはり、選択肢としては一つしかない。正直に話そう。


「それは、メッセージです。多分、僕宛だと思います。」

「この文字は見たことがありませんが、何て書いてあるのですか?」

「日本語で、『お前は誰だ?』と書いてあります。」

「日本語?聞いたことのない言語ですね。」

それもそうだろう。この世界に日本なんてあるわけない。疑問に思って当然だろう。

 僕は順を追って、説明した。

・前世に記憶があり、転生した事

・その時いた国が、日本という事

・転生して、部屋に戻り、ノートを開いたらその紙があった事

この三つについて、話した。最初は少し驚きがあったものの、段々真剣に聞いてくれていた。今の説明で、ある程度理解した様子だった。それを踏まえ、一つ質問がきた。


「何か企んでいますか?内容によっては、カルマ様を止めなければなりません。」

正直に話しても、自由に動けるわけではない。それが大事になるのなら、阻止する。当然の判断だ。しかし、僕のやりたい事は変わらない。


「男の言っていた、『あいつ』を探したい。」

「なぜですか?言っておきますと、外には出れませんよ、カルマ様。」

「王宮内だけで構わない。イオ、お願い!」

今思えば、外で情報を探すのはかなり難しいだろう。だったら、まずは、自分の家である、『王宮』から探した方がいいだろう。

 

イオがため息をついた。そして、僕のわがままに答えた。

「分かりました。ですが、私も一緒に行動します。それが条件です。」

「ありがとう。イオ。」

部屋を出て、王宮内を探索し始めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る