第7話 少年に無事を

 早速、その隠れ道に案内してもらった。大きな木の奥に行き、斜面を下る。その途中、小さな洞窟っぽい空間があり、そっちの方に行った。辺りは、暗いけど、足場は見える。ゆっくり進み、左の方の道に行き、ちょっとした空間があった。そして、潜って通れそうな所を通ったら、何処かの路地裏に繋がった。


「本当に、よくこんな道見つけたね。確かにバレないな。」

「何回も言ってるけど、本当に偶然なんだ。逃げるのに必死で。気づいたら、て感じで。」

「でも、これからはあの道使っちゃ駄目だよ。危ないし。貴族に見つからない保証なんてないし。」

「でも、そしたら、また虐められちゃう。」

「その事については、僕が信頼してる人に話してみるよ。安心して。」

少年のユウは、信じてなさそうだけど、この件に関してはイオに話してみようと思った。


 少し歩いたら、街の大通りに出た。辺りを見ると、しっかり城もある。本当に繋がっていたとは思わなかったけど。

 ユウが進んでいく道は、城から段々離れていく。今思えば、この街って結構広いなと感じた。今のところ、何事もない。しばらく歩いていると、3人かの子供が見え、こちらの方に向かって来る。その途端、ユウの足が石のように固まった。僕はその瞬間、この人たちが虐めている子だと察した。

 年は違えど、僕も前世で同じような境遇がある。なんとかして、解決したい。


「ユウ、どこ行ってたんだよ。結構探してたんだぜ。」

「さ、昨日の続きをしよっか?おいでよ。」


ユウは、何も喋らなかった。頷きもしない。そういう態度をしたら、一人の男の子が、イライラした様子で近づいて来た。僕も、怖いけど、あの時より年下だ。『大丈夫』と自分に言い聞かせ、近づいてくる男の子の前に出た。


「ちょっと待った。ユウ君、怖がっているじゃないか?何かしたんじゃないの?」

「お前、誰?ユウの知り合いか?お前関係ねえし。ユウと俺たちは、『友達』だからさ。」

虐めている事を間接的に否定している。面倒くさいな。


「じゃあさ、僕にも昨日の続きとやらをやってよ。」

「いいぜ。泣いても後悔すんなよ」

ユウに『大丈夫』と小声で言って、その子達に付いて行く。空き地っぽい所に着いて、もう一人いた男の子に押さえつけられる。


「はぁ?ちょっと何をするつもりだ?」

「言っただろ。昨日の続きって。お前は知らないか。教えてやるよ。悪役を倒す遊びだよ。ルールは簡単、悪役を決めて倒す。ただ、それだけさ。」

リーダーっぽい子がそう言うと、押さえつけが強くなり、殴られ続けられる時間が始まった。


 頭を叩かれたり、背中を殴られたり、顔を蹴られたりなど一方的にやられる。それを見て何もできず、涙を流しているユウ。どうやら、ユウには被害が行ってない。良かった。


「こいつ、笑っていやがる。」

そう言うと、どんどんエスカレートしていった。久々な暴力。けど、『あいつ』のより全然軽い攻撃だ。耐えられる。そう、耐えていると、こっちに来る足音が聞こえてきた。上を向いたら、イオがいた。


「カルマ様。安心してください。今来ました。」

イオが来た瞬間、男の子達の暴力が止まった。イオから出る殺気で流石にヤバいと感じたっぽい。


「次、カルマ様に手を出してみてください。あなた達が安全でいられる保証はありませんよ。」

冷静かつゆっくりと発せられた言葉は、男の子達の恐怖を与えるのに十分だった。その言葉にビビって、すぐにその場から離れていく。ユウも目の当たりにして、完全に固まってしまった。


「カルマ様、言いたい事は山程ありますが、大丈夫では、なさそうですね。」

「それ程痛くないから、大丈夫。あの、イオ。ごめんなさい。勝手に外に出てしまって。」

「説教は後です。それで、そこの少年は誰ですか?」

「えっと、ユウ、と言います。あの、僕のせいで、巻き込んですみませんでした。もう悪い事しないので、ど、どうか死刑だけは…」

イオは呆れた様子で、その場を落ち着かせる。その後、僕が事情を軽く説明し、ユウを無事に家に帰らせることができた。


 その場を立ち去り、城に戻る。しかし、この状態では門から入ると、大問題になる。だから、あの隠れ道の存在をイオに言った。流石に、イオもその道については知らなかったようだ。とりあえず、僕はその道から帰り、イオは門から帰るということにした。

 

 バレないように城の中にそ〜っと入り、走って部屋に戻った。汚れた服を脱いで新しい服に着替える。そして、自分のベッドに横になった。まだ、昼間なのに、疲れが溜まった。久々に殴られた。やっぱり、あの時より痛くはなかった。ふと、前世の事を思い出していると、突然頭の中でフラッシュバックした。

(あいつが、あいつが瓶を持って、こっちに来るっ!!やめろ…こっちに来るな!!!)

呼吸が乱れ、息が苦しくなる。あまりの気持ち悪さに口を抑える。

「やめてくれー!!何でもするから、だから、だからっ!」

ドンドンと壁を蹴る。布団を投げる。発狂する僕。霊に取り憑かれた様なくらい、今の状態は狂っている。その声で、部屋に向かって走って来る音がした。イオが勢いよくドアを開けた。


「カルマ様!!どうしたのですか!!すぐに、水を用意します!!」

イオが来たのに、声が聞こえない。気持ちは悪い中、僕は静かに意識を失った。




声が聞こえる。

「…る、さ。」、「かる、ま、さま。」、「カルマ様!」

はっ、と目が覚めた。気がつくとベッドに横になっていて、すぐ側には姉さんもいた。記憶が曖昧だった。あの時、狂い出した事くらいしか覚えていなかった。狂い出した原因も記憶になかった。しかし、頭痛だけは今もあった。


「カルマ、大丈夫?急におかしくなったって聞いてビックリしたんだから。すぐに行けば、意識失っているし。」

「姉さん、もう大丈夫だよ。この通り、元気になったから。」

ベッドから起き上がり、机にあった水を飲む。体を見る限り、怪我の治療が施されていた。気絶している間に、治療までしてくれて、感謝しか言葉が出なかった。

 その後、姉さんは一度部屋を出て、僕とイオだけが部屋に残った。内容は分かっている。さっき言っていた、説教と狂った原因だと思った。


「カルマ様。なぜ、城から出たのですか?私は出てはいけないと言いました。」  

「最初は庭で散歩していて、庭の奥に野原があって、その奥にユウっていう少年と会って、その子が虐められていたから、放おっとけなくて。」

「事情は分かりました。しかし、守るべきことは、しっかりと守るべきではないのでしょうか?」

「はい、本当にその通りです。ごめんなさい。」

「反省しているなら、今回は許しましょう。しかし外出は禁止です。庭に出るときは、私が付き添います。」

こうして、説教は終わった。僕が狂った事は、僕から話をした。フラッシュバックした記憶はないけど、何となくだけど予想がつく。

・突然、嫌な記憶を思い出した事

・その記憶は僕にとって、トラウマレベルな事

この二つを言った。イオは真剣に聞いてくれた。落ち着いた声で、言葉を返した。


「その記憶がどれほど辛いか、私は想像しかできません。しかし、つらい時、苦しい時、どんな状況だって私が側にいます。その事を忘れないでください。カルマ様。」

ありがとう。心の底からそう思った。叱るときは叱る。慰めてくれる時は慰めて落ち着かせる。勉強の教え方も丁寧で、そんなイオは僕にとって大切な存在へと変わっていった。


 話を変え、朝の騒がしさをイオに聞いた。すると、あれは平民達のデモということだったらしい。どんなデモかは、まだ知らないと言われた。いい街と思い始めてきたけど、昨日今日の出来事で、そうは思えなくなってきている。

ふと、思い出した。あの後、ストーカー男はどうなったのだろうか。時間も経っているし、そろそろ何かしら分かるだろう。


「イオ、そういえばさ、ストーカー男ってどうなったの?」

「知りたいのですか?」

その言い回し、何かあるようだ。僕は話を続けてと首を縦に振る。すると、イオは一言だけ言った。

「処刑になりました。しかし、まだ執行はされていません。」

窓から陽の光が差していて明るかったが、部屋が少しずつ暗くなっていった。



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