第11話 アナタは自分の事しか考えていないわ





「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ・・・」


 いや、いや・・・優太、優太・・・


「すぅー、はぁー、すぅー、はぁ・・・」


 呼吸の乱れが落ち着き、少し冷静さを取り戻した私は自分のお腹へと手を伸ばす。


 そこにはいつも通りのお腹だけ。膨らんでもいないし破けてもいない。


 じゃ、さっきのはいったい・・・


『わたくしの声が聞こえないぐらい気が動転しているみたいね?』


「えっ?」


 聞き覚えのある声、私の部屋には誰もいない。


「・・・女神様・・・」


 女神様が語りかけてきたって事はさっきのが例の悪夢・・・?


「・・・うぅ、うぅ・・・」


 悪夢の内容があまりにも酷すぎる。


 私は嗚咽を漏らしながら泣いた。


『そんなに泣くぐらい悲しいなら初めから浮気なんてするべきじゃないわね。大袈裟に表現されていたけど、あれはあり得る未来よ。アナタが浮気を続けていればね』


「・・・・・・・・」


 私は何も言い返せなかった。


 赤ちゃんが勝手にお腹を破って出てくる事はないけど、優太以外の子を宿しても不思議ではない。


 女神様の言葉が心に刺さる。


 少し考えれば分かりそうな事。でも、深く考えず、短絡的に物事を判断していた私には分からなかった。


 結婚、出産なんて高校生の私には現実味の無い事だけど、漠然と優太とずっと一緒にいたいとは思っていた。


 だから、必死に優太に許してもらおうとしている。まだ、全然だけど・・・


『美城沙羅。アナタは今週まったく善行を行なっていません。それは自分自身も分かっているでしょ?』


「・・・はい」


 優太への想いが先行し過ぎて、他の事を疎かにしていた事を思い出す。


『相当な善行をしなければ次も今回と同じような思いをしますよ?』


「・・・ど、どうにかして下さい!こんな思い、もう二度としたくないですッ!」


『わたくしにはアナタを助ける気はありません。自分のした行いを悔いて反省し、それ相応の態度と行動を示しなさい。アナタはまだ自分の事しか考えていないわ』


「そんな・・・なら、せめて優太と話せるようにして下さい。当事者である優太に謝り許してもらえればいいじゃないですか!」


『そうね、道山優太がアナタの浮気を許す事が出来ればそれ一つの禊になるわね。でもね、道山優太だけに許しを請うと考えている時点でアナタは自分の事しか考えていないわ』


「えっ?それってどういう・・・」


『わたくしから言える事はアナタに架した罰のルールは一切緩めない事だけよ。善行の査定に関しても、性的興奮に痛みと言う名の罰を与える事に関してもね。とりあえず、乾いた体に水分を補給して、汗まみれの体を洗い流しなさい。そして、この土日で体力と気力を回復させなさい』


「・・・はい」


 女神様の無慈悲な措置と変な優しさに私は少し混乱したが、とりあえず、冷蔵庫の冷えたお茶を飲み、お風呂場へ向かった。


 何となくボーっとしたかったので、浴槽に湯を張り、時間の許す限りたっぷり半身浴をする。


 お風呂に入りながら、次の月曜日からの事を考える。


 優太を愛おしく思えば思うほど、状況は一向に良くならない。


 でも仕方ないじゃない。優太の事が好きなんだから・・・


 優太の事は一旦置いといて、他の良い事をした方がいいのかなぁ・・・?


 でもそれじゃ、優太が私の元からドンドン離れていく気がする。


 はぁ~、どうすればいいの?


 頭を抱えながら考えているとお風呂場のドアをノックする音がした。


「沙羅ッ!いつまでお風呂に浸かっているつもり?早く出てきなさいッ!」


 その声は私の姉である美城美羅みしろみらだった。


「うん、もうすぐ出る・・・」


 私はか細い声で気の無い返事を返した。


「いいから早く出てきなさいッ!沙羅に大事な話があるのよ」


「・・・何よ大事な話って・・・?」


「こんな所で言える訳ないでしょ!とりあえず、すぐ出てきて、私の部屋に来なさい」


 何だろう大事な話って・・・


『オロロロロ~ン。何だか修羅場の予感!』


 女神様の嫌味たらしい声が私の頭の中に響いた。


 お風呂場に長い間浸かっている事も事実だし、ここは大人しくお姉ちゃんの言う事を聞く事にした。


 脱衣所でさっさと着替え、髪の毛も最低限乾かす。


 半身浴でかなり汗を掻いたので、再び冷蔵庫から冷えたペットボトルを取り出し、お姉ちゃんの部屋に向かう。


「お姉ちゃん!入るよ」


 一応断りを入れてからお姉ちゃんの部屋に入る。


 お姉ちゃんは険しい顔でイスに腰かけていた。


 私はベッドに腰かけ、ペットボトルのお茶を一口飲んだ。


「沙羅・・・大事な話って言うのは優太に関してよ・・・」


 優太の名を聞いて、私の心臓は跳ね上がった。


 私と優太は小学校一年生からの幼なじみで、三つ年上のお姉ちゃんともよく三人で一緒に遊んだ。


 だから、私と優太が付き合っている事も知っている。


 もしかして、優太が私の事で何かお姉ちゃんに相談したのかなぁ・・・


 だとすると・・・


 私は不安で胸が張り切れそうになる。


「落ち着いて聞いてね、沙羅・・・私、見ちゃったのよ。優太が沙羅以外の女の子と一緒に歩いているところを・・・」


「えっ?」


「優太、あなたを裏切って浮気しているかもしれない・・・」


 思ってもいなかった言葉がお姉ちゃんの口から出て、私はお茶を少しこぼした。

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