第10話 悪夢②




 玄関にスーツ姿の道山優太が立っている。


 革靴を履き、靴箱に備え付けられている鏡で身だしなみをチェックする。


 チェックし終えると、後ろに振り向き、小さく微笑む。


 優太の視線の先には黒のビジネスバッグを両手で抱えた美城沙羅がいた。


 優太と目線が合うと、沙羅は持っていたバッグを渡す。


「ありがとう、行ってくるよ」


 それには返事せず、沙羅は無言で唇を突き出した。


 優太もその行動の意味を理解している為、ゆっくりと沙羅の顔へ自分の顔を近づける。


 唇と唇が僅かに触れ、そのまま形を変え、お互いの形を確かめ合うようにキスをする。


 時間にしてごく僅かな間、しかし、沙羅はそれだけでも至極の幸せを感じた。


 名残惜しそうにお互いの唇が離れ、優太は玄関のドアノブに触れる。


 扉を開く瞬間、優太が頭だけ沙羅へと振り返った。


「愛してるよ。沙羅」


 私も、と小さく返す沙羅は優太の出勤を見送った。


 沙羅は優太が去った後の扉を切なそうに見つめる。


 優太と沙羅が結婚して約三年。


 二人は大学を卒業し立派な社会人となっていた。


 優太は皆が知るような有名企業に勤めている。


 特に高給取りではないが、同年代と比べれば年収は多く、福利厚生もしっかりしている。


 9時に出社し、5時に退社出来て、6時頃には家に着く。


 だから、沙羅は何も心配する必要はない。


 優太は残業で帰りが遅くなる事も、何処かに立ち寄ってから帰宅する事もない。


 真っ直ぐ家に帰る事は優太はとって当たり前の事だ。


 それでも、沙羅は優太が仕事で留守の間の時間も寂しさを感じ、彼の事を想っている。


 しかし、ずっと玄関先で立ち尽くしている訳にもいかず、沙羅は部屋の中に戻り、洗濯機を動かした。


 ゴウン、ゴウン、と洗濯機の回る音を聞きながら、掃除機ロボットも動かす。


 一通りの家事を終えた沙羅はソファに横になって、少し寛いだ。


 服を少しはだけさせ、大きくなったお腹を擦る。


 沙羅は今幸福の絶頂にいる。


 子供の頃から大好きだった優太と結婚し夫婦になれた。


 そして、お腹の中にはそんな大切な人との間に出来た大事な命が宿っている。


 沙羅はお腹の中の赤ちゃんと対面できる日を今か今かと待ちわびている。


 昼前の少し暖められたそよ風を受けながら、沙羅は眠気に誘われた。


 そのまま瞼と閉じて、眠りにつこうとした時、急激な痛みに襲われた。


 意識が瞬時に覚醒し、お腹を抑える沙羅。


 痛みの元はお腹からきている。


 悪い予感が沙羅の脳裏をかすめた。


 イヤ・・・イヤっ!と沙羅は首を横に振って、必死にそれを否定しようとした。


 優太との大事な赤ちゃんが・・・


 早産。


 沙羅の脳裏にはそんな言葉が浮かんだ。


 まだ予定より大分早い。今生まれれば、命の危険がある。


 痛みで今すぐ病院へ行く事も出来ないし、携帯電話も手に届く所に無かった。


 沙羅はただ痛みに耐えて、必死に祈るしか出来なかった。


 しかし、その痛みの原因は別のところにあった。


 断続的な痛みの中で、急にこの世のものとは思えない痛みが沙羅のお腹を襲った。


 出産ってこんなに痛いものなの、と定まらない思考の中でそんな事を思っていると、信じられない光景が沙羅の瞳に映る。


 大きく膨らんだお腹からナニかが突き出ている。


 そして、そのナニかが動くたびに激痛が走る。


 激痛と目の前の異様な光景に戦慄する沙羅はその瞳に涙をためている。


 そのナニかは二本に増え、沙羅のお腹の傷をドンドン広げていく。


 今の状況に泣き叫ぶ事しか出来ない沙羅にさらなる絶望が降り注ぐ。


 そのナニかの全容がはっきりと分かったからだ。


 沙羅は到底信じられなかったが、それは何処からどう見ても、人間の赤ん坊にしか見えない。


 血と羊水に塗れたその赤ん坊は首を沙羅の方へと向ける。


 生まれたばかりと表現して良いのか、その赤ん坊の瞳は閉じられている。


 しかし、沙羅はその赤ん坊と目が合った気がした。


 沙羅を見つめるその表情は徐々に険しくなる。


 小さく開かれた口からは泣き声に代わり、しゃがれた声を発する。


「・・・だ、れ・・・だ・・・」


 沙羅はその赤ん坊に睨まれ、ただただ嗚咽を漏らしながら泣き、歯をガチガチ震えさせる事しか出来なかった。


 そして、開かれるはずのないその瞼が大きく見開き、ドス黒い瞳が真っ直ぐ沙羅を捉えた。


「俺はいったい、誰の子だ!!!!!!」


 赤ん坊の叫びが木霊し、沙羅を絶望のドン底へと叩き落とした。


「いやああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」


 その瞬間、沙羅は目を覚まし、両腕で自分の体を抱きしめた。


「い、や、ぁぁぁ、ぁぁぁぁ・・・」


 言葉にならない声を発し、放心状態の沙羅の耳に声が響く。


『オロロロロロ〜ン、良い夢は見れたかしら?美城沙羅』


 しかし、沙羅はその声に気付く余裕はなかった。



 εεεεε

 あとがき

 ここまで読んで頂きありがとうございます。

 さて、この作品の一つのテーマとして『ざまぁ』があります。

 気づいている人もいるかもしれませんが、愛の女神様はNTR小説を読んでいる読者様の目線です。

 愛の女神様は胸糞展開で気分を害した人の心の声を代弁している設定な訳です。

 他作者様の小説を色々読むなかで、間男や浮気女、それ相応のクズなどに対するコメントでのヘイトの凄さを感じました。

 私の他の作品の中でもクズやビッチに対する辛辣なコメントがありました。

 私個人としては作品自体が面白ければそこまで気にならないのですが、そういったキャラに気分を害されるのもまた事実。

 そこで今回の作品を思いつきました。

 そして、ここからはお願いですが、勝と沙羅が見る悪夢のアイディアをコメントで募集したいと思います。

 抽象的でも具体的でも構いません。勝と沙羅に痛い目を見て欲しいという方はコメントお願いします。

 実際に皆さんがどれだけのざまぁを見れば満足するのか興味が湧きました。

 しかし、あくまで悪夢パートだけなので、現実での話の流れには影響するかもしれないし、あまり影響しないかもしれません。

 それと、全てのアイディアを採用できるとは限りません。私の技量の問題もあります。その点予めご了承下さい。

 それでも構わないという方は協力お願いします。

 実験的なものなので上手くいくかは分かりませんが、出来るだけ頑張ります。

 そういう訳で更新ペースは少し落ちるかもしれません。

 最後にいつも☆評価と応援コメントありがとうございます。執筆の励みになります。

 



 


 

 

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