第47話 過去と覚悟

「「ベリアル様ぁ」」


 ベッドの上で俺の両手に絡み、豊満なモノをわざと当ててくる二匹の眷属愛人


 結婚前に妻達にも話しているが、俺の力がこういうモノなのもあり、愛人に関しては全く問題ないと言われている。


 初めて増やした眷属の二匹は既に性欲の快楽に溺れて、本来の凛々しい戦士の顔は全く見えない。


 二人の性欲値の隣にいたクローバーマークが消えたのを確認する。このクローバーマークは、経験の有無を指す。


 二人を起こしてリビングに降りると、メイドのハンナが入れて珈琲を淹れて待っていてくれた。


「ん!? 貴方は!?」


「!? お久しぶりでございます」


 ハンナがスカーレットに挨拶をする。


「ん? 知り合いか?」


「ベリアル様。彼女はどうしてここに?」


「今は俺の下働き奴隷に雇われている」


「奴隷!?」


 驚くスカーレットを落ち着かせ、ソファーに座らせると、丁度妻達3人も降りて来る。


 一人ずつキスを交わすと、ハンナが用意してくれた珈琲が待つ席に座る。


「お、奥方様。挨拶が申し遅れました。スカーレットと申します」


「オリビアと申しますわ」


 それぞれ挨拶を交わすと、クルナさんがクスッと笑いながら「また凄い人達を連れてきたわね」と揶揄ってくる。


「それはそうと、スカーレット。ハンナ。君達の話が聞きたい」


 ハンナにも席に座って貰った。


「私は元々騎士団に所属しておりました」


「ん? 初耳だな」


「申し訳ございません。余計な情報はご主人様に迷惑になると思いまして……」


「まあいい。続けて」


「はい。こちらのスカーレット様とは騎士団に所属していた頃から良く接して頂いておりました」


「あの頃は私もハンナには多く助けられました」


「騎士団で長年活躍はしていたのですが…………私がとある男爵家の嫡男の愛人となったのが運の尽きでした」


 愛人……か。


「騎士だったことは、外見もそれほど貰い手がなかった私に彼が見せた優しさに騙され…………日を重ねる事に、私の身体には依存性のある薬を飲まされているのに気づかず…………気づけば、私は騎士としていられない程に陥ってました」


「…………」


「結局は騎士をやめ、彼の言いなりとなり、身体を売る事となりますが、このような身体ゆえ、ロクに相手もされず…………家事などは好きでしたので、気が付けば私は下働き奴隷として捨てられたのです」


 奴隷になるくらいなのだから、普通ではないと思っていたが、思っていたより暗い過去を持っていたのだな。


「ですが、おかげで今はベリアル様の屋敷でこんなに幸せに生きております。私は自分が選んだ道を失敗とは思っておりません」


「ハンナ……」


「スカーレット様。貴方の活躍は常日頃聞いておりました。こちらのベリアル様は私が今まで出会ったどんな方よりも優しいです。ベリアル様なら貴方の悩みも全て吹き飛ばしてくれると思います」


「私の悩みを…………」


 そう話したハンナは、恐れ多いと席を後にした。


 もう家族同然なのだが、メイドとして奴隷としてそこを弁えるのは彼女の良さでもある。




 そのあと、妻達の質問攻めに二人は嬉しそうに答えていたのがとても印象的だった。


 俺の妻達の懐の深さにも頭が上がらない。




 ◇




「カー姉ちゃん~!」


「わ~い! カー姉ちゃんだ~!」


 敷地に入るや否や大勢の子供達がスカーレットに向けて走ってくる。


 あっという間に子供達に囲まれると、彼女は懐に持っていたお菓子をみんなに配り始める。


 お菓子を貰った子供達は決して喧嘩などせず、道を空けて次の子供達が貰いやすく立ち回っていた。


 それだけでここに住んでいる子供達の絆の深さを感じる。


「ここに来るのは初めてですわ」


 隣のオリビアが小さく呟いた。


「まあ、好き好んで来る人は少ないだろうな」


「ええ」


 目の前には大きなボロい建物が見える。


 ここは、戦争孤児達が集められた孤児院だ。


 戦争というのは、魔王と人間との戦いだ。


 今でも王都に向かって攻めてくる魔王とその配下達。


 そんな魔王に多くの命が奪われ、遠くの町はいくつも滅ぼされたと聞く。


 その時に生き残らせるために子供達だけ王都に送られてきたのだ。


「あ~! ミーシャ姉だああああ!」


「本当だ! ミーシャ姉!」


 お菓子を貰っていた子供が俺の後ろに立っていたミーシャに気づいて声をあげるとすぐに集まってきた。


 実は最近炊き出しを続けているミーシャが最も重要視しているのがここだったりする。


 ただ、ミーシャには申し訳ないが、俺はあまりここが好きではない。


 何故なら俺も孤児なのだから。


 …………またクレイ達の事を思い出す。少し苛立ちを感じるが、すぐにミーシャの笑顔と子供達の笑顔に苛立ちも消えていった。


「みんな、今日のご飯はまだあとで持ってくるね~? 今日は私の旦那さんと一緒に来たの」


「旦那様!?」


「そうよ! みんながいつも食べているのは、こちらの旦那さんのおかげなのよ?」


 い、いや…………別に俺はそんな…………。


 すぐに俺の前に集まった子供達が、目をキラキラさせて俺に注目する。


 全員集まったのを確認すると、一番年長の子供が大きな声で「いつも美味しいご飯をありがとうございます!」と感謝すると、後ろの子供達も一斉に同じ言葉を続ける。


 …………彼らの為にお金を使おうと思ってやってる訳ではないのに。


 全てはミーシャが好きなようにしているだけで感謝されると何だか悲しい気持ちと嬉しさが入り混じる。


「ベリアルさん? 大丈夫! 私がやっているのは全てベリアルさんから学んだ事ですから」


 本当にうちの妻には頭が上がらないな。




 ここに来たもう一つの理由は、スカーレットがどうしても魔王を倒したい理由。


 それがここなのだ。


 スカーレットも元々辺境地の村の子供で、両親を目の前で亡くしている。


 何とかギリギリ助かったのだが、まだ幼い彼女は一人で生きれるわけもなく、助けてくれた冒険者達に連れられ王都の孤児院に入ったのだ。


 そこから十数年。


 必死に鍛錬を続けた彼女は元々あった才能も相まって、凄まじい速度で力を蓄えていく。


 彼女が曲がった事が嫌いで、貴族にすら剣を向けるのは、こういった背景があったのだ。


「ベリアル様。私はどうしてもここの子供達に未来を繋げたいんです。ベリアル様が勇者の事を嫌っているのも分かっています。ですが…………このままでは魔王を倒せる人がいません。このままでは子供達を守れないのです」


 悲しくも希望に満ちた瞳から彼女の覚悟が伝わってきた。




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