第38話 巨大な報酬

 王城内、玉座の間。


「面を上げよう」


「はっ」


 ジクレール子爵様が表をあげる。


 俺はお嬢様の執事として、お嬢様と共に後方から見守る。


「此度の其方の活躍。素晴らしいの一言に尽きる」


「ははっ。もったいなきお言葉」


「我が国の最大の脅威である『エデン』の工作をよくぞ止めてくれた」


「陛下。わたくしからもう一つ、陛下に見て頂きたいモノがございます」


「ほお?」


 子爵様はとある紙を取り出す。


 王様の隣にいた文官が子爵様から紙を受け取り、内容を先に確認すると、その顔が真っ白に変わる。


 あの内容なら血の気が引くのも当たり前だな。


 急ぎ足で王様の紙を渡すを、王様がその場に立ち上がるほどに驚く。


「ジクレール子爵。これをどこで?」


「はっ。とある筋から、伯爵が携わってた商会からでございます」


「…………ルクス!」


「はっ」


「この紙の審議を頼む」


「かしこまりました」


 実はスキル『裁判』を持つ裁判官は、もう一つ特殊スキルを持っている。


 それが――――


「スキル『書類審議』」


 ルクスが両手で紙を持ち、スキルを発動させる。


 すると紙の上に眩い光が灯る。


「この書類は『真実』でございます」


 王様が崩れるように玉座にもたれる。


「ジクレール子爵」


「はっ」


「此度の活躍、王国史に残る活躍である。だが、事件が事件なだけに、すまないが褒美は少し待っていてくれ」


「かしこまりました」


 紙を睨み続ける王様に玉座の間に集まっていた貴族達も不安そうに見つめる。


「ゲラルド!」


「はっ!」


 衛兵長であるゲラルドが王様の前に出る。


「この紙に書かれている人物を全員捕まえろ」


「かしこまりました!」


 紙を受け取ったゲラルドは、その場にいた兵士数人に耳打ちをする。


 すると彼らはその場にいた数人の貴族をすぐに逮捕し始める。


「な、なんなんだ! なぜ俺を捕まえる!」


「陛下!? これは何かの間違いです!」


 必死に声をあげるが、王様から冷たい目で「裁判を受けるか?」と言われると、全員がその場で黙った。


 それ程までに裁判の効果は絶大なのだからな。


 あの書類が本物・・だと分かった時点で、そこに書かれていた人物は全員おしまいだ。


 その後、集まった中から数人、あとから地方貴族からも数人、商会や多くの関連者が捕まる事態となった。


 王国最大事件となり、ジクレール子爵の名はあっという間に王国内に広まった。




 ◇




「さあ、受け取ってくれ」


「分かりました」


 数日後の今日。


 ジクレール辺境伯・・・様から多くの証明書が目の前に並ぶ。


 その証明書にもジクレール辺境伯様の署名が入っている。


 そこに隣にいるユーリが魔法を使い、署名書き換えを始める。


 消えた署名部分に俺の名前を記入し、ジクレール辺境伯様からその上に署名を書いて貰うと証明書渡しが完了する。


「辺境伯様はこれから地方に行くのでしたね?」


「ああ。君が最初に提示した通り、辺境伯の地位を得る事が出来たのだからな」


 俺が子爵様にユーリの婚姻の条件として出したのが伯爵の座だった。


 にわかに信じられないと言っていた子爵様だったが、結果的に伯爵と超え・・辺境伯となった。


 その大きな理由として、地方の多くの貴族が裁かれて、その管理が難しくなった事。


 今回活躍で王国の正義の象徴となったジクレール子爵様を辺境伯に陞爵しょうしゃくしたとしても、誰一人文句を言う貴族は居ず、国民達からも大いに歓迎されたのだ。


 伯爵――――辺境伯の座の代わりに、俺が貰うのは、ユーリと今回得た全ての報酬を頂く事になっていた。


 子爵様が辺境伯様になって、さらに報酬として、アッスホール元伯爵が持っていた財産を全て受け継げるようになった。


 これは王国からしても随分も大きな報酬なのだが、報酬が全て俺に流れて来るからと、王女にお願い命令して報酬を辺境伯様に渡すように仕向けたのだ。


 ということで、元々あった一等地の土地14か所に加え、一等地20か所の土地と貴族区の一等地30か所というとんでもない量の土地が手に入った。


 さらにただの更地は全く存在せず、どの土地にも建物が建てられていれ、現在も全て貸し出している土地となる。


 あのクズ大家と同様、元伯爵もそこそこ高い値段で貸していたので、新しく大家となって初めての仕事として、少し値引きをしてあげる事になった。




 こうして、王国に英雄ジクレール辺境伯様の名が轟き、彼を陰で支えた娘ユーリも一躍有名となり、すぐに俺とユーリが結婚を発表。


 元々家族も居ず、辺境伯様も地方に向かう事もあり、ささやかな結婚式を行った。


「ベリアルさん…………これからも末永くよろしくお願いします」


「ああ。末永く幸せにしよう」


 この後、知るのだが、ユーリは意外にも魔導士の中ではかなりの腕のようで、魔法ギルドの次期サブマスター候補だそうだ。


 今回の件で、サブマスターを通り越して、ギルドマスターになるかも知れないと噂が流れ始めた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る