第25話 クズの修羅場?②

「せっかくだから、どこか遊びに行こうか」


「「はい!」」


 屋敷の事はハンナ達に任せ、右手にはユーリ、左手にはミーシャさんが抱き付いて外に出る。


 意外にミーシャさんが積極的でびっくりしている。


 広場に出て、そのまま人混みに流れていくと、色んな売り物が出されているバザーに到着した。


「今日バザーの日だったのか」


「珍しいですね! 行ってみましょう! ベリアルさん」


「では行ってみましょうか」


 ミーシャさんが興味を示し、ユーリもソワソワしながら俺の手を強く握って周囲をキョロキョロしている。


 令嬢なのだから、こういう場所に来た事がないのだろう。


「ユーリ。珍しいか?」


「へ? は、はい! こういう場所には全くこないので……」


「私、詳しいよ! 案内してあげる!」


「本当ですの? お願いします!」


 ずっと喧嘩していたはずが、いつの間に仲良くなって、2人が手を繋いでバザーを回り始める。


 俺は2人を追いかけながら、バザーの雰囲気を楽しむ。


「わあ! これ可愛いです!」


「これはお守りですね!」


「はい~いらっしゃいませ~可愛い女の子達~」


「店員のお姉さん! このお守りって何が書いているんですか?」


「どれどれ~それは――――――『安産祈願』だね~」


 あ、安産!?


 2人がチラッと俺を見る。


 いやいやいやいや!


 そもそも出産の予定もないだろう!?


「あら? うふふ~こんな可愛い女の子を2人も連れている彼氏さんなの?」


「っ…………彼氏ではありませんが、まあ近々そうなったらいいなと思ってます」


 2人の目がキラリと光る。


「それならこちらのお守りはいかがですか? 丁度3体残っているけど、どう?」


「あ! 全部ください!」


 ミーシャさんが迷わず手を上げる。


 すぐに財布を取り出そうとする彼女を止める。


「姉さん。商売上手だね。いくらだい?」


「1体銀貨1枚なんだけど、3体銀貨2枚でいいよ~」


「ありがとう」


 俺は銀貨2枚を速やかに払う。


 じゃないと、ミーシャさんに先を越されてしまいそうだ。


「ミーシャさん。今日は全て俺に出させてくれ」


「えっ……でも…………」


「ここは俺にも格好つけさせてくれ。こう見えてもそれなりに稼いでいるから」


 まあ、それも全てスキルのおかげなのだが。


「は、はい……」


「ユーリもいいだろう?」


「えっ? は、はい!」」


 まさか『お守り』をこれほどの安価で手に入る事が出来るなんて、今日は運が良い日なのかも知れない。


 この『お守り』は、実際に力が込められていて、半年効力を持つが、込められた想いが力に変わるのだ。


 つまり、どんな『お守り』でも手に入ったら、その効果の恩恵を貰えるという事だ。


 それにしても、あの『お守り』の効能ってなんだ……? 取り敢えず、勧められるまま買ってみたのだが……。


 嬉しそうに『お守り』を受け取るミーシャさんを見ていると、自然と笑みが零れてしまう。


「ミーシャちゃん。頑張ってね!」


「はい! ありがとうございます!」


 大事そうに抱えて持って来た『お守り』を一つ、ユーリに渡す。


 小さく耳打ちをするとユーリも嬉しそうだ。


 3人で店員に小さく会釈して、バザーをさらに歩き回る。


 好きなだけ買い食いでもなんでも良いと話すと、意外と我慢せずあれよこれよと買い食いもしながら、バザーで普段見られない商品を見ながら時間を一緒に過ごす。


 丁度お昼になる前に、クルナさんを思い出して一度家に戻る。


 屋敷で食事を取って貰ってもいいんだけど、せっかくミーシャさんが来てくれたのなら会わせた方がいいかなと思ったから。




「ミーシャちゃん!」


「クルナ姉!? わ~い!」


 出迎えてくれたクルナさんに抱きしめられるミーシャさん。


 うんうん。


 元々仲良かった2人だからな。


「あ! クルナ姉、これ」


「あら? 『お守り』!? そんな高いの受け取れないよ?」


 クルナさんに何かをコソコソ話すと、クルナさんが俺を見てパーッと笑って『お守り』を大切に受け取った。


「ベリアルくん~隣の馬車区があるでしょう?」


 馬車区というのは、馬車の乗り場が集中している地区を普段から馬車区と呼んでいる。


 基本的に王都から遠くの町に向かう時、そこから馬車に乗ったりする。


 頷いて返すと、


「そこに美味しい料理のお店があるんだけど行きたいな~」


「ふふっ。いいですよ。行きましょう」


 クルナさんの案内で4人で向かう。


 到着したお店は優しい珈琲の香りが漂る店で、裏路地にある店だ。


 知る人ぞ知る名店のような感じかな?


 出されたパスタとワインがとても美味しくて、少し値段は高めではあったが、令嬢のユーリも唸るほどに美味しいお店で、ミーシャさんもクルナさんも満足げな表情を見せてくれるから、俺も嬉しい。


「あ~! ベリアルくん! 公園に遊びに行こうよ~!」


 クルナさんに手を引っ張られ、子供達が沢山遊んでいる公園に遊びに行く。


 遊具で遊んでいる子供達に癒されながら、公園をみんなと一緒に散歩してそれぞれのみんなの話を聞きながら時間を過ごした。


 その日はクルナさんもユーリもミーシャさんも休みだったようで、ゆっくり出来て嬉しい。



「ベリアルさん」


「ミーシャさん? どうしました?」


「えっと……お願いが……」


「?」


「わ、私も名前のまま呼んで欲しいです!」


「え?」


「ユーリちゃんは名前で呼んでいるでしょう?」


「名前って…………なるほど」


 どうやらミーシャさんも、普通にミーシャと呼んで欲しいのか。


 何だか慣れないというか、ミーシャさんはある種自分の中で憧れのようなモノもある。


「ダメ……かな?」


 くっ。


 その上目遣いは効くな…………。


 ――――性欲値0%


 ふぅ……これで何とか耐えられる。


「わ、分かった………………ミーシャ」


 公園に降り注ぐ光が照らすミーシャはとても美しかった。




 だが、この時。俺は知らなかった。


 3人がとある計画を進めている事を。














 その日の夜。


 まさか、クルナさん、ミーシャ、ユーリの3人が部屋に押しかけて来た。



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