氷雨との本当のお別れ

目覚めたら、氷雨の姿はなかった。


トボトボと部屋をでた。


「シャワーはいってきて、ご飯できるから」


「はい。」


僕は、洗面所に言った。氷雨がお水を置いていてくれていて飲んだ。


シャワーを浴びて、でてきた。


ひかるの服、洗濯して今乾燥してるから」


「ありがとう」


なぜか、朝から麻婆豆腐をだされた。


「ここにきたらいつもこれ食べてる。」


「いただきます。」


口の中に広がったのは、紛れもなく僕の味だ。


涙が、ポタポタと落ちてく。


「本当のお別れなんだね。」


「うん」


「指輪は?」


「これ、あげる。」


そう言って差し出されたのは、ネックレスだった。


「サイズがわからないから、いつか渡そうと思ってた。」


そう言って氷雨は、自分のネックレスを見せた。


二つを繋げると星の形になる。中には、雨の形が刻まれている。


「無理なんだね。どう頑張っても」


「うん。」


「僕も、氷雨の幸せをちゃんと願えない」


「僕もだよ。」


一緒にいると欲深くなっていく。


愛してるけど、傍にいれない。


「愛してるけど、傍にいれない。」


氷雨と一緒に言った。


こんな言葉をハモる必要ある?


「でも、一生忘れないから」


「僕もだよ。」


僕は、麻婆豆腐を食べる。


「兄さんの目が覚めたら、連絡するから」


「うん。」


病院には来ないでって遠回しに言われた。


「本当は、僕が星を幸せにしたかった。」


氷雨の目から涙が、こぼれ落ちる。


「僕も、氷雨を幸せにしたかったよ。」


涙が、麻婆豆腐にポタポタ落ちる



「こんな愛もあるんだね。」


「うん。そうだね。」


苦しくて、悲しくて、辛くて、相手の幸せさえ願えない愛。


全てを飲み干してしまいたくなる愛。


焼き尽くす炎は、どちらかを灰にするまで終わりはしない。


どれだけ愛してると言われようと信じる事もできない。


氷雨が、結婚しているからではない。


最初から、そういう愛なのだ。


「ごめんね。一緒にいたら疑心暗鬼になって休まる日がない。」


「僕もだよ。星が月さんと話すだけで疑ってしまう。それだけじゃない、働いていても疑う。」


そう言って、氷雨はコーヒーをいれにいった。


「最初に出会った時の、感情きもちがどう頑張っても見つけられない」そう言ってコーヒーを渡された。


「わかってるよ。同じだから…。傷つけたくなるし、言いたくない言葉がでる。でもね、止められないの。氷雨を食べて体の一部にしたい衝動も止められないの。ここに化け物を飼ってるんだよ。」


涙が、おちてく。


「僕も同じ。体の一部にしてずっと暮らしたいと思う。そんな自分が怖くて仕方ない。だけど、止められないんだよ。」


氷雨の涙が、コーヒーカップにおちてく。


「一緒にいたいのにいれないなんて、嫌だよ。星。嫌だけど、これ以上、星を苦しめたくない。悲しい顔をさせたくない。化け物に心を食べられて欲しくない。だから、お別れしよう。」


胸を貫く痛み、締め付ける痛み、

涙があふれて止まらない。


「僕も氷雨に化け物になって欲しくない。止められない衝動に突き動かされて欲しくない、悲しい顔をして欲しくない。だから、僕もお別れするよ。本当は、一緒にいたい。ずっと、一緒にいたい。でも、僕は氷雨に穏やかな愛を与えてあげられない。ごめんね、氷雨。こんなに愛してしまって」


涙がとめどなく流れていく。


「僕も、ごめんね。星をこんなに愛してしまって…。優しい愛を与えてあげようと思ったのにできなくてごめんね。」


そう言って、氷雨も泣いていた。


こんな愛は、間違ってるって言われると思う。


愛とは、穏やかなものだって誰が決めたの?


だって、僕は氷雨を心から愛してるよ。


ただ、想像した愛ではなかっただけ…。


こんなに求めて、愛し合ってるのに一緒にいれないなんて…


「ごちそうさま」僕は、そう言って立ち上がった。


「はい、服」氷雨が服を持ってきてくれた。


ギュー着替える前に抱き締められた。キスまでされた。


僕は、服を着替えた。



「下まで送るよ。タクシーは呼んでるから」


「いい、玄関で」


これ以上いるとまた、化け物に飲み込まれてしまう。


「わかった。星」


そう言って、ギューって抱き締められた。


「ネックレスつけていい?」


「うん。」氷雨がつけてくれた。


「プラチナだから、はずさないで」


「わかった。」


「僕と星の愛だから」


「うん」


名残惜しいようにキスをした。


長い長いお別れのキス。


「さよなら、氷雨」


「さよなら、星」


パタン、玄関を閉めた瞬間、氷雨の泣き崩れる声がした。


僕も、泣いて泣いて歩きだした。 


愛してたよ、氷雨



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