氷雨が連れてきた場所

苦しくて、痛くて、解放されたかった。


手を押さえつけられて、酔っている僕は抵抗する事が出来なかった。


どれだけ、キスをされていただろうか?


苦しい気持ちと痛い気持ちだけが心を支配していた。


「今日は、傍にいるから」


意味不明な言葉を言われている。


僕は、首を横にふった。


「立って、行こう」


そう言って連れて行かれそうになる。


るい、月」


僕の声に、「ひかる、星」って月も呼んでるのに連れて行かれそうになってる。


冷めたはずの酔いが、戻ってきたせいで足元はフラフラしてて。


うまく力が出せなくて、月の方向とは別の方向に引っ張られて行く。


「やめて、行かないから」


もう、苦しくて痛いのは嫌なんだよ。


僕は、月と楽しく笑ってる方がいいんだよ。


「行かないから、やめて」フラってなった僕を支えて氷雨君は止まってはくれない。


どんどん月が小さくなっていく。


「やめて、離してよ」


もう、解放して苦しいから…


そう思ってるのに、氷雨君はどんどん僕を引っ張っていく。


涙が、頬をどんどん濡らしてく。


このままついていったら、解放してくれるのかな?


自由になれるのかな?


月と新しい場所に行くと決めた。


僕の、この痛くて悲しくて苦しい半年間を支え続けてくれたのは月だった。


だから、僕は月と生きていきたいのだ。


だって、氷雨君と居たらずっと心が休まる日なんてない。


愛があふれて止まらなくて、痛くて苦しくて、息ができなくて、毎日泣いて泣いて、どんどん歩けなくなっていく。


愛してるけど、一緒にいれない。


その言葉以外当てはめれる言葉がない。


辛いよ。


月のとこに行って、さっきみたいなキスをしたいよ。


どんどん、どんどん引っ張られてタクシーに乗せられた。


涙が、たくさんあふれてくる。


「ここで、お願いします」


そう言って、マンションでおろされた。


「これって…」


「兄さんのマンション、行こう」そう言って引っ張られた。


氷雨君は、鍵を開けた。


「お酒飲もうよ」  


「帰るから」


「嫌だよ。」  


そう言われて、拒めない。


「ここ半年間は、兄さんの家の空気の入れ換えをするついでに泊まって行くんだ。」


そう言ってキッチンからワインを持ってきた。


「兄さんが、好きだったワイン」


あっ、星町のワインだ。


愛星あいぼしって名前のワイン。星さんの事を想って飲んでたんでしょ?」


そうだ、時雨が再会した時に教えてくれたワインだ。


「このワイン飲んでると星をずっと感じれた。」


涙が込み上げてきた。


氷雨君はワインを注いだグラスを渡してきた。


カチンってグラスを合わせて、飲みだした。


「時雨の話をする為に連れてきたの?」


まだちゃんとこの部屋には、時雨の匂いが残ってる。


「違うよ、二人っきりになりたかったから連れてきたの」


「なんで?話しはしたよね?」


僕の話を聞いてくれない。


「兄さんは、いつまであのままなのかな?」


「わからない。」


「さっき、橘先生に聞いたけど目が覚めてもおかしくないって。」


そう言って、僕に近づいてくる。


「最近兄さんが、時々何かを話てるって看護婦さんから聞いたんだ。」


「そうなんだ。」


「ひから始まる何かを話そうとしてるって」


「ひ?」


「うん。小さいから、あんまりうまく聞こえないって言われたんだけど…。僕、聞いたんだよ。ハッキリと」


そう言うとさらに近づいてきた。


「ひかるってかすかだけど言ってた。僕の知らない何かが二人にはあったんだよね?」


そう言われて、10年間が頭の中をよぎっていく。


「別にそんな事どうでもいいけど…。」


そう言うとワイングラスを置かれた。


「なに?」


「兄さんにちゃんと許してもらいたくて、僕の星への気持ち。だから、連れてきたのわかる?」


そう言って、床に倒された。


「ここは、時雨の家だよ」


「わかってるよ。」


いろんな感情きもちが溢れてきて、苦しい。


キスをされてしまった。


どうなっちゃうの僕…。


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