第6話 咲季の軌跡

 私、天宮咲季は目が覚めたら中学3年生になっていました。いや~本当にどうなってるんだろうね~。いつも通り朝起きて、ご飯とお弁当作って出社したところまでは覚えているんだけどね~。


 どうやったら未来に戻れるのかな~? 私新婚なんだけど。旦那とイチャイチャさせてくれないのかな~。


「高野ちゃんどこ受験するか決めた?」


 思考の海に潜っていた私を友達の雪ちゃんが引き戻した。そうか、まだ私は”天宮”じゃなくて”高野”だった。今は誠と夫婦どころか面識も無いよね。それはちょっと辛いかな~。

 誠と出会ったのは大学だし、このまま未来に帰れなかったらあと3年は誠に会えないって事だよね。

 そこで私は閃いた。


 そうだよ!! 誠と同じ高校に行けば良いんだ。


「雪ちゃん、私西校に行く」


 確か誠は西校だったはず。家からも自転車で行ける距離だし、昔の受験でも滑り止めに受けたから問題ないよね~。


「おおーっ!! それじゃあ私と同じ高校だね」

「そしたらまた一緒だね~」


 昔通っていた高校もそれなりに楽しかったけど、やっぱりこっちの方がもっと楽しそうだ。




 十数年前に習ったことで最初はうろ覚えだったけど、案外簡単に合格ができました~。私偉い! やれば出来る子!


 これで誠と同じ学校に通える。それに今度は雪ちゃんも一緒だ。同じクラスにはなれないかもしれないけど、バレー部に入れば会えるよね。



 入学式も終わり、教室にやってきて目を疑った。なんとびっくり誠がいました。

席は離れているけれど、同じクラスになれた~!!


「高野ちゃん、私たち同じクラスだね~」

「うんっ! よろしくね~雪ちゃん」


 思わず声が弾む。

チラッと誠の方を流し見ると、近くの男子と和気藹々と会話していた。


楽しそう……。

 私も前みたいに、誠とあんな風に笑い合いたいな~。



 高校に入学してから1ヶ月と少しが経った。聞いていたとおり、誠はバレー部に入部した。当然私もマネージャーとして入部している。

 中学でもやっていたのは伊達では無いらしく、1年生の中では上手だな~と感じる。


 部活の合間や練習終わり、教室でもできる限りコンタクトを取っているからか、誠とはそれなりに仲良くなれている。

 高校時代の、私の知らない誠を見ているようでとても楽しい毎日を送っている。


 このまま仲良くなって、お付き合いまで発展させたいところなんだけどね~。誠ってばなかなかの鈍感で、私の気持ちなんてこれっぽっちも気が付いていない。


 初めて付き合ったときはあんなにアプローチしてくれたのに。



 お互いにアニメが好きだっていうのはもう知っているし、思い切って遊びに誘ってみようと思います。ちょうど最近公開した映画があるから2人で見に行って、それをきっかけに私のこと意識して欲しいな~。



 狙い通り、映画を見に行ってからより一層誠と話す機会が多くなった。下校も途中までは一緒に出来るようになりました。

 雪ちゃんからも『まだ付き合ってないの!?』って言われるぐらいには周りから仲睦まじく見えるみたい。

 それはもう、未来では夫婦ですから~。仲睦まじいのは当然ですよ~って内心でドヤってます。




 もうすぐ夏休み。依然として付き合えてはいない。その間にも、日に日に誠への気持ちは高まっています。

今までも誠のことは好きだったしまた付き合えるって舞い上がっていたけれど、それは私が知っている大学生からの誠だ。


 最近、高校生の誠と過ごして、今まで知っていた一面と知らない一面を見てさらに彼のことが好きになっている。今の私が恋しているのは、今も未来も全部ひっくるめた天宮誠という人物。


 狂おしいほど大好きで、ずっと一緒に居たい願う人。優しく気遣いが出来て、やりたいことに全力で取り組むかっこいい姿。今ではまだあどけなさも抜けきらず、少し奥手だけど負けず嫌いなところ等々……。


 挙げたらきりが無いけどまあともかく。私は前よりももっと誠のことが好き。誠と一緒に居たいし彼にも私のことを好きになってほしい。

 だから私決めました!


 ――――誠に告白します!



 夏休みに入って1週間。今日は部活もオフだからってことで誠と遊びにきている。ショッピングモールで買い物したりゲームしたりして1日過ごした。

やっぱり誠と一緒だと楽しいな~。


外はもう陽が暮れ始めている。帰り際近くにあった土手に腰掛け、のんびりと川の流れや河川敷で遊ぶ子供達を遠目に眺める。

温いぬるい風が吹き抜ける土手はとてものどかで、近くに人もおらず喧騒けんそうも少ない。


 告白するなら、今しかないよね。


 「ねえ」「なあ」


 意を決して口を開いた時、誠とかぶってしまう。思いを早く伝えたかったが、先に誠に要件を言ってもらうことにした。


「ええっと、その、な? 話があるんだよ」


 誠は妙にそわそわしながら話し始めた。


「俺さ、咲季と居ると落ち着くって言うか楽しいんだよな。学校でもそうだし今もそう。…………まぁ何が言いたいかっていうと」


 誠は一瞬言葉を区切り私の目を真っ直ぐに見て、


「俺、咲季のことが好きだよ。だから、付き合ってほしい」


 ……え? え!? ええーーーーっ!!!!


 まさか、誠の方から告白されるなんて思ってもみなかった。だってそんな素振りいままで無かったのに。

 驚きすぎて感情が追いつかない。けど、心の底から嬉しいのは確かだよね。


「あの……? お返事って……」


 誠から返事を求められた。そんなの決まっているよね~。


「うんっ!! 付き合お!! 私も誠の事大好きっ」


 感極まって誠に抱きつく。突然で驚いたのか、私を支えきれずに後ろに倒れ込んでしまう。強く抱きしめすぎて苦しくなったのか、それとも単に恥ずかしがっているのか、誠は顔を真っ赤に染めていた。


「付き合ってくれるのか?」

「当然でしょ~。そのために私がどれだけ頑張ったか」


 長かったようであっという間だった。中学3年に戻ってからこれまでやってきたことが報われた気分だよ。


「その、じゃあこれからもよろしくな?」

「うん、こちらこそよろしくね~」


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