第8話 いつも通りの夜♥️

 もしもし、先輩? 

 こんばんは。

 ごめんなさい、電話するの遅くなって。


 もうこんな時間……。

 受験生の先輩を、私に付き合わせて夜ふかしさせるわけにはいきませんね。今日はこのまま寝ましょうか。

 おやすみなさい、先輩。また明日。


 ……。


 じょーだんですよ、じょーだん。そんなに落ち込まないでください。

 遅くなったのはゴメンですけど、まだ寝るつもりはありませんから。

 

 先輩は、昼間あのあと、右手に『奴隷』って書かれた状態でどう過ごしたか、私に言いたくて仕方ないんですよね?

 ハイハイ、ちゃんと聞いてあげますから、まずは落ち着いてください。


 で、どうだったんですか? 誰かにあの落書き、バレちゃいました? 

 ……なーんて、本当にバレたら大変なことですもんね。大丈夫だったんでしょう?

 

 ……え? バレた? それも、風紀委員会顧問の鬼塚先生に……? 

 うえぇぇ、よりによって鬼塚ですか…? 生徒のアラ探しが趣味なんじゃないかって噂の、あの鬼塚先生でしょ? 

 ど、どうして見つかっちゃったんです……?


 ……え? 委員会で打ち合わせ中に、司会である先輩が黒板に板書していた? その時、無意識にチョークの粉を両手ではたいてたら、鬼塚がめざとく指摘してきた? アチャー……。


 そ、それで先輩、どうしたんですか……? 

も、もしかして、私とのこと、話しちゃいました……?

  

 ……え? なんとかごまかした? ど、どうやってです?

 前回の国語のテストで、『奴隷』って漢字が書けなくて悔しい思いをしたから、戒めのために書いてるんだ、って言った? 

 ハァ、よくとっさにそんなウソ、つけるもんですね。頭の回転が速いというか、なんというか……。

 それで、先生は納得したんですか? ハァ、よかったですねー……。


 ……でも、内心ドキドキだった? 自分は右利きなのに、右の手のひらにあんな画数の多い漢字をキレイに書いてるなんて、ちょっと考えればおかしいってわかる? た、たしかに……。

 でも、それに対しては先生、なにもツッコんでこなかったんでしょ? そこはニブくて助かりましたね。

 とりあえず、おおごとにならなくてよかったです……。

 

 ゴメンなさい、先輩。けっこう大変だったんですね。

 私、どうせ先輩がうまく隠して、誰にもバレないだろうって、甘く考えてました……。

 

 ……え? ゾクゾクした?  

 むしろ鬼塚にバレてからの方が楽しかった? 

 やっぱり君には、ご主人様の才能がある?

 もっとキツイ命令で、僕を魅せてくれ?

 ……ウーン。いつか先輩がウキウキで自滅するんじゃないかって、私、ちょっと心配です……。


 ……まあ、先輩の話を聞いてたら、私もちょっと、ゾクゾクしちゃったんでお互い様ですね。

 自分にこんな一面があったなんて……。

 

 ねぇ、先輩。

 私たち、実はけっこう相性いいんじゃないですかね?

(例の彼女さんより……)

 

 ねぇ。どう思います、先輩……?

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