第4話 ミッドナイト・コール♥️

 ……もしもし、先輩? 

 こんばんは、笹目ユキです。

 (よかった、電話に出てくれて……)


 ――コホン。

 ちゃ、ちゃんとスリーコール以内に出てくれましたね。えらいですよ?


 ……え? ずっと待ってた?

 夜に電話するって言ってたのに、なかなかかけてこないから、忘れてるのかと思った?

 ご、ごめんなさい! 夕飯食べた後、犬の散歩に行ったり、宿題したり、お風呂に入ったりしてたら、こんな時間になっちゃいました。

 もう午前1時ですもんね……。ごめんなさい、無理して起きててくれましたか?

 

 ……え? 大丈夫? 寝るのはいつも、もっと遅い時間? 今まで受験勉強してたから、気にしなくていい?  

 先輩、推薦でもいい大学行けるじゃないですか。なにもこんな遅い時間まで、勉強しなくても……。

 ふうん、えらいですね……さすが風紀委員長。お疲れ様です……。


 ――コホン。

 そ、それはそれとして!

 先輩、今日はもうお勉強はおしまいです! このあとは、私に付き合ってもらいますからね!

 

 先輩はもう、寝る準備は済んでるんですか? ……え? 歯も磨いて、寝る格好をしてる?

 ちなみに今、どんな格好なんですか? Tシャツに短パン? へぇ、男の人って感じですね。

 ……私? 私はパジャマですよ。薄いピンク色で、小さな白い水玉模様が入ってるやつです。

 さっきお風呂から上がったところなので、まだちょっと髪が濡れてますが……。

 

 え? ずいぶん遅い時間にお風呂に入るんだな、って?

 ああ、実はですね……、お風呂で本を読んでいたんです。

 私、お風呂で読書するのが好きで、ついつい長風呂になっちゃうんですよね。集中しちゃうと、平気で何時間もお風呂から出てこないことがあって、よくお母さんに怒られるんです。


 ……え? どうやってお風呂で読書するのか、って? 本が濡れちゃうじゃないか、って? 

 ふふん、いいでしょう。教えてあげます。


 まず私は、ぬるめのお湯を張った湯船で半身浴しながら、お風呂の蓋を半分くらい閉めて、それを机代わりにして本を読みますね。 

 この時、乾いたタオルは必需品です。顔から汗が垂れてきますし、なによりページをめくる指先が濡れてちゃダメですからね。

 ペットボトルのお水を持ち込んで、こまめに水分補給をすることも大切です。

 時々湯船から上がって、冷たいシャワーを浴びたりして、のぼせないように常に細心の注意を払ってですね……、


 ……って! 私の話はいいんですよ、先輩!

 こうして夜に電話したのは、私が、先輩に、命令するためだったんですから!

 

……え? なんで昼間に直接じゃなくて、わざわざ夜に電話でなのか、って……?

 そ、それは……。

 

 面と向かってだと、まだ慣れなくて……。

 ……は、恥ずかしいからです!

 その点、電話なら先輩に顔を見られないで済むし、いいアイデアでしょ?


 ……え? そんなに恥ずかしいなら、無理して命令しなくても……?

 ダメですよ! せっかく弱味を握ったんですから、先輩に復讐してやるんです!



 ……そう、復讐ですよ。

 あの持ち物検査の日、先輩は、私を見逃してくれなかったでしょ……。


 ……え? ゲーム機を持ってきたのは君の方だし、自分は風紀委員の職務を果たしただけだ? 他の生徒の手前、公平を期すために、誰か一人を特別扱いすることはできなかった?


 ……。


 ……わかってます。

 

 わかってますよ! そんなこと、言われなくたってわかってますよ!

 そうですよ、逆恨みってやつですよ!

 私が悪くて、先輩が正しくて、それでも私が逆恨みしてるんです!


 いいですよね、相手に非があるって!

 どうしてそんなことしたのか、事情とか、気持ちとか、よく知らなくったって、正しさを理由に相手を責められますもんね?

 

 あの時は私に非がありました。でも今は、先輩の方に非があるんですからね?

 ファミレスで先輩が話していた相手が誰なのか、彼女さんなのか、私は知りませんよ? 

 でも、風紀委員長が深夜にフラフラ出歩いてたっていうのは、世間的には、やっぱり良くないことになるんじゃないですか?


 ……否定はしない? 

 そうですよね、否定なんてできないですよね? 

 なら、大人しく私に脅されてください。言うこと聞いてください。ドレイでいてください!


 ……。


 ……彼女さん、可愛かったですね? 

 私と同い年くらいですか? 髪は、短めの私と違って、背中までかかるロングでしたけど。

 

 ……可愛いよ、とか、言ってあげるんですか? 

 いいなぁ。私も言われてみたいですよ。

 彼氏なんていたことないですから、先輩みたいなカッコいい男子に、そんなこと言われてみたいですよ……。


 ……あ、そうだ。

 言ってみてくださいよ、先輩……。

 私のこと、可愛い、って。

 きちんと名前を呼んで、可愛いよ、って電話口で優しく囁いてください。

 これは命令ですよ?

 

 ……さあ、言ってください。


 言って。


 言え。



 …………。



 あーあ、本当に言っちゃうんだ……。

 

 ……最低ですね、先輩。



 ……おやすみなさい。

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