第3話 不慣れなご主人様♦️

 ……え? 

 あれ……? 聞こえませんでした……? 

 

 ド、ドレイです! ドーレーイ!

 先輩は今日から私のドレイ! しもべ! パシリ! ワンちゃんです!

 フフフ、怖いですか……?


 ……え? あんまり怖くない? 

 私が気弱そうだから、脅されてる感じがしない? ドレイって言われても、なにかの冗談かと思った?

 ムー! 違います!


 わ、私、本気ですよ! 

 いいんですか、先輩? 私が先生に告げ口しても。風紀委員長が、深夜にファミレスで女の子と密会ですよ! スキャンダルですよ!


 あー、先輩の内申が下がっちゃうな~。今なら推薦でいい大学に行けるのに、それができなくなっちゃうなんて、かわいそうだな~。

 

 ……え? 困る? 

 『その攻撃はオレに効く』からやめてくれ? なんですかそれ。


 ふふん。なら、最初から素直に従ってくださいよ。私をバカにしたら、痛い目を見るのは先輩なんですからね?


 ――コホン。

 そんなわけで、今日から私は先輩のご主人様です。私の命令には絶対服従ですよ、いいですね?


 ……え? どんな命令をするつもりなのか、って……?

 そ、それは……。えーと……。


 ……え? お金……? 金銭の要求か、って……?


 バ、バカにしないでもらえます? 私がそんなこと、するような子に見えますか?

 私、そんなことしません! そんな風に人を傷つけるようなこと、そんな……そんな……!


 ……え? ごめん? 悪かった?

 まだ知り合ったばっかりで、私がどういう人間だか、よく知らない……?

 ……確かにそうですね。それに、出会ったばっかりの先輩を脅迫してるんですから、なに言われても仕方ないですよね……、うん。


 ……えと、すみません、先輩。ちょっと興奮しちゃいました。驚かせちゃってごめんなさい。

 ……こっちこそごめん? 私のこと、よく知らないのに、失礼なことを言った? 

 えーと……そ、そうですよ! ご主人様に向かって、これは侮辱罪ですよ。まったくもう。

 ……なんちゃって。ふふ。まあ、今回はおあいこということで、水に流してあげます。


 ……え? で、結局どんな命令をするのか、って?

 そ、そうでしたね。一瞬、忘れてました。

 

 えー? なんだろ? 命令……メイレイ……。

 私、これまで、他人に命令どころか頼みごともろくにしたことなかったんで、急に言われてもなんにも思い付かないんですけど……。


 あ、そうだ! とりあえず、肩でも揉んでもらいましょうか? 年上の男子に肩を揉ませるなんて、ご主人様っぽいと思いませんか?

 

 そうと決まれば、さあ先輩、こっちに来て私の肩を揉んでください。先輩は背が高いから、私は立ったままでも大丈夫ですね。

 あ、先に言っときますけど、優しく揉んでくださいね? 痛くしたらダメですからね。

 ……じゃあ、お願いします。


(モミモミ)


 ブッ――! 

 ウェヒヒヒ! アヒヒヒヒヒヒ!

 やめっ! ちょ、まっ! やめてください! ストップ、ストップ!


 ハー……、ハー……。

 わ、私、こんなに敏感だったんですね……。ちょっと肩を触られただけなのに……。し、知りませんでした……。

 

 うーん、肩を揉んでもらうのもダメだとすると……。

 ウーン、ウーン。 


 ……なんです? ひとの顔、じっと見て。

 ……え? 必死に考えてて、なんかかわいい?

 

 なっ――!?

 バ、バカにしてます?

 してない? いや、してるでしょ! なに笑ってるんですか!

 わ、私は先輩のご主人様ですよ? あなたの弱味を握ってて、あなたを脅迫してるんですよ? わかってます?


 やだ、ちょっと、見ないでください! こっち見ないで! もう、怒りますよ!

 

 あ! そうだ、先輩! ケータイの連絡先教えてください! ほら、早くケータイ出して! ほらほら!



 ……よし、と。

 はい、それが私の連絡先です。 

 じゃ、じゃあ、今夜連絡しますから! 私から着信があったら、スリーコール以内に出ること! いいですね!


 じゃあ先輩、また夜に! 

 し、失礼します!

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