第3話

府警さんはずっとニコニコしていた。可愛いは可愛んだけど、そこが凄く怖い。

異世界という事は理解した。けど肝心のここがどういう場所か、皆目分からない。危険なのか、危険じゃないのか、そこも分からないままだ。

そして何よりこの府警さん。いや府警さんと表現しているが、それすら合っているのか分からない。

コスプレみたいに短いスカート。

ってか、そんなセックス・シンボルみたいな格好を何故、府警さんという真逆の存在と結び付けたんだろうか? ちょっと異世界に来て、気が動転してるに違いない。

もしくは、ひと昔、僕が産まれる前にミニスカなんちゃらというグループ? アイドル? みたいなのが、存在したのは知っている。

それから連想されたのかもしれない。

思春期真っ只中の少年たちにとっては目に毒。いやいや目にタバスコと剣山くらいのパンチがあったと聞く。今はコンプライアンスや女性差別などで性的コンテンツをTVで観る事は激減した。

YouTubeでも性的コンテンツはバンの対象になる。

この府警さんは、見るから性的コンテンツ盛り沢山だ。


青いビニール素材の帽子。

オシャレにストリート系の如く、帽子のツバが前ではなく、横に向いている。

上着は制服と予測するけど、半袖の白いシャツと黒いネクタイが何ともエロい。

着崩していないから更にセクシーさを引き立てる。帽子の被り方とのギャップがまた良い。ボタンはしっかりと留め、ネクタイはしっかり首元まで締めている。

右腕には腕章をしているが「禁止者撲滅」と書いているが禁止者がイマイチ分からない。

そして視線を外したくても外せない。スカートだ。しゃがむとパンツなんて確実に見える短さだ。靴は予想せずともピンヒールなのは言うまでも無い。


「うーん」

「何? 疑問符ナノ?」


思わず、声が漏れた。

身長は小さいっと言っても、僕が170センチだからそれよりは低いけど女の子的には大きいのかもしれない。だが、僕が声を漏らしたのはそこではない。

この子、顔は今風の猫顔で瞳が大きく、可愛いよりも綺麗よりの顔立ちをしている。雰囲気がのほほんとしているのでどうしても可愛いに寄りがちになってしまう。

髪もセミロングで大人っぽい筈なのに、中々どうして、胸がペチャパイだった。

うーん。

ショートケーキにイチゴが無い。代わりにパイナップルが乗っていた心境に近い。


「あーあーあーあーわかったナノ」


府警さんは騒ぎ出した。

頬を膨らませ、怒っている。


「貧乳と思ったナノ!?」

「え!?」


図星だ。

胸を見過ぎたか!?


「ナノ、その気になったら、読心出来るナノ」


辞めて欲しい。

嘘でも辞めて欲しい。

過半数の男など、エロい事しか考えていない。僕もその1人だ。

情け無さと切なさが入り混じって、倒れそうなので、謝ろう。


「ごめんなさい。胸があったら完璧だと思いました」

「ガーン」


府警さんは声を出して、そのまま地面に膝から崩れた。


「ショックナノ。もう嫌いナノ。最初はサービスで教える予定だったけど、教えないナノ。この世界でのたれ死ねナノ」


地面を涙で濡らしながら酷い事を言う。

いや、そんな事はどうでもいい。

多分、この府警さんは、異世界転生のスタートラインで色々と助言するキャラと推測する。つまりこの府警さんに嫌わてしまうと、良いスタートラインが切れない。結論、直ぐに死んでしまう未来が待っている事になる。

それは駄目だ。

そんな事は、許されない。

少しだけ、頭に血が登ったのか、自然と声が出た。


「おい! ふざけるな」

「禁止者ナノ!」

「え?」


目の前が真っ白になった。

そして気付いた時には、地面に倒れ、焦げ臭い臭いが鼻腔にこびり付いていた。


「あ、え、?」


ちゃんと話せない。

痺れている様だ。


「ダメナノ? ここでは乱暴な言葉を使うと雷が落ちるナノ」

「かびがり?」

「雷ナノ」


雷?

しかも乱暴な言葉を使うだけで?

じゃ、この府警さんの言葉は?


「ナノは平気ナノ。ナノだから」


読心術を使ったのか、僕がワンパターンなのか分からないけど、返答された。


「じゃ、ナノは行くナノ。本当は、守護者として同行する筈だったけど、怒ったから1人でどうぞナノ。これで天使とイチャイチャイベントは無しナノ。バイバイナノ」


捲し立てる様に、背中から2メートルはあろう翼を出し、空中に浮く。

しっかりとスカートを押さえ、アカンベーをしながら。


「ま、てぇ」

「待たないナノ。もう出てこないから、祈らないでナノ。あ、名乗るのを忘れてたナノ。ナノの名前はナノ・デスローンヘブン。ナノ」


ナノナノ、言っているから何処からが名前か分からない。

クソ、なんだコレ!

僕は、最後の力と言わんばかりに中指を立てた。


「? 分からないナノ」


意味が通じないみたいだ。

この世界では、通用しないジャスチャーらしい。

そうこうしているとナノは消えてしまった。


1人になって数分後、やっと身体の自由を取り戻した僕は地面にへたり込みながら、考えた。


異世界に来てしまった事はどうでもいい。

正確にはどうでも良くないけど、今は良い。考えても、仕方ない。

これはリアルだ。

揺るぎないリアル。現実なんだ。

副部長に殴られて、僕は死んでしまった。これは仮定だけど。でも僕はここで生きないと駄目だ。

ただ、それだけだ。

何も慌てる必要はない。

天使の様なミニスカ府警さんに散々言われた事もショックだけど、それもどうでもいい。

現状を理解しないとダメだ。

ここでは、暴言という行為を禁止され、雷が落とされる。

YouTubeで言う所のコンプライアンス違反はBanつまりアカウント停止されるという事だ。


こっちは命をBanされるみたいだけど。


ひとまず、ここに居ても仕方ない。

この森から脱出しよう。

またワニ男みたいなヤツにエンカウントしてしまうと、死亡してしまう。森は深く、太陽? まぁ太陽があるか分からないけど、太陽が見えないから時間感覚が無い。異世界だろうが、現実世界だろうが、夜は絶対にあるだろうから、夜になる前にこの森を抜けよう。


やるしかない。

もしかしたら、この異世界から脱出する術があるかもしれない。

あの府警さんのナノが言う所、異世界転生者はいっぱい居る筈だ。街に辿り着ければ、情報を集めて、この世界から脱出する。


僕の夢は小説家だ。

小説みたいな世界を求めている訳ではない。夢みたいな物語を描くのが、僕の夢だ。









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ライトノベルな世界が間違っているのはコンプライアンスの所為である。 火雪 @hi-yu-ki

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