第6話『ハザン商会』

 学園長の好意で譲ってくれた店兼家は表通りに構えて合って、客足も絶えなかった。家の機能としても十分すぎるぐらい果たして、住みよいくらいだった。孫娘可愛さだったが、アリアと二人には新居として暮らし始めるのに広さも家具も用意してあった。商店名はアリアがどうしてもというので、『ハザン商会』に決まった。扱うものは各種薬草薬、本当は魔法薬なのだが、テファリーザ王国の技術の研鑽を見抜ける物はそういなかった。後は麦わら帽子、革製の鞄や財布、綿を詰めたぬいぐるみなど置いていた。アリアが気に入って、部屋にも飾ってある。二人の新婚生活、同居生活は順調な滑り出しだった。学校が終わってから店を開く準備をして、夕方くらいに開店して夜が更ける前には閉めていた。空いている時間は数時間だが、商品がいいのかほとんど売れてしまう。可愛いぬいぐるみなど、女の子に受けて、品切れることが多かった。薬草薬の評判も上々で体の弱いセイラもよくなったと聞いて、遠方から買い付ける人もいた。値段も高くはなく、手ごろで買い求めやすい値段で販売していたのがまた受けた。


 夜には今日の売り上げの計算をして、明日の商品の準備に時間を取った。底上げされた能力は発揮されていて、仕事は丁寧に素早く片付けて、二人の時間を作った。アリアがお茶を入れて一緒に飲む頃には、今日あったことをお互いに報告し合っていた。今日のぬいぐるみの出来は良すぎて、売るのがもったいなかったとか、鞄の縫製を手伝いたいなど、アリアはお客様の接客を主に担当していた。自分も製作に関わりたいが、技術的に追いつくのが難しいことはわかっているのか、そこは僕に全面的に任せてくれた。代わりに掃除や洗濯、炊事など、花嫁の様に尽くしてくれる。実際花嫁だが、寝室で眠るときは二人で手を握り合って眠りについた。今はそれで十分らしかった。学校に行くと、カイルとセイラが待っていて、時々からかうような素振りを見せるが、実際には応援しているらしかった。剣闘部で念願の剣の訓練を始めたセイラは、あっという間に上達していき、カイルを抜いて、アリアに並ぶほどになった。よい集中で弓矢の腕も上がり始めている。博学で美人なセイラは学校でもアイドル的な存在に急成長していた。学園長の顔も可愛い孫には笑みが崩れていた。


 カイルも邸宅を訪問したあの日以来真剣に訓練するようになり、セイラに密かに恋心を抱いているような感じだった。剣の鋭さが増している感じがした。四人とも忙しくて、あまり時間はとれなかったが、店にも顔を出してくれていた。カイルがセイラにぬいぐるみを買って送るのでリボンとフリルをつけてあげた。令嬢のようなぬいぐるみを特別に作って背を押すのに手伝ってあげた。アリアが笑って、カイルの背を叩いていた。

「頑張れ、カイル」と励ますので、製作に力を入れて執事のヤギさんやメイドのクマさんなど作り出してみた。子供に人気があり過ぎて品切れの日が続いた。カイルは本気だが、セイラは今剣を振っているのが楽しそうに見える。贈り物はとても喜んでいたので気持ちは伝わっていると思う。密かに二人でカイルの恋を応援する日々だった。アリアは普段の生活に慣れ、くるくると接客を楽しんでいるようだった。お金も十分溜まって行き、子供が産まれても大丈夫なように貯蓄していた。村長さん達も時々遊びに来て新婚の様子を幸せそうに眺めていた。


「ハザン、お前が婿になって本当に良かった。アリアも幸せそうだ。これからも店を大きくして、子供を育てることを忘れるな。村は大丈夫、任せておけ。偶にはダヤンの墓参りに来なさい、騎士に無理にならなくても良いからな。それだけが私は心配だ」

 村長さんは騎士より商売の方に力を入れて欲しい様だった。これだけ繁盛するなら2号店を出して人を雇ったらどうかとも話してきた。正直学校との両立は出来ているが、将来のために技術を伝えて販売する路線も考えた方がいいかなという気がする。学校を卒業したら、騎士になり元テファリーザ王国で働くことも視野に入れて、アリアの今後もどうするか、決めなければいけない。初めは元テファリーザ王国に『ハザン商会』の支店を出してみないか、藁で編んだ背負い籠や帽子、鞄など販売したらどうかと思う。アリアに話して、カイルとセイラに相談すると、いい判断だと言われる。あの土地は裕福ではなく病人も多い、ハザンの薬草薬が役に立つじゃないかと話す。騎士としても名誉なことだとも騎士団長になるのも早くなると思うと考えられると話していた。それには店の商品を引き継げる技術者を育てなければいけない。アリアと相談して、貧しい村の子供を職人として募集して育てる計画を立てる。


 今までの予算を取り崩して、腕利きの職人の女性達を雇い、店で教えてそれを近隣の村から来る子供に技術を伝える仕組みを作った。飯場でご飯を与えて、技術を教えて店を手伝わせて賃金を払うことになった。慈善事業兼販路拡大路線に舵を切った。底上げされた記憶と経験値で職人の女性に技術を叩き込み、子供相手に無理を言わず、最初から丁寧に指導していった。農村でも税を払えず子供を売る親もいたが、この方法で状況が変わって来た。根気よくつき合って子供がお金を稼いでくるので、『ハザン商会』の名は近隣の村まで浸透して無事家族と年を越せるようになって、感謝されて行った。アリアも村長さんも嬉しがって、カイルやセイラも驚いていた。特にセイラと学園長は事業にお金を一番に出資してきた。

「ハザン君、君の手腕は見事というほかない、慈善事業も含めて先を見ているね。孫娘だけでなく多くの子供は救われている。当校としても君の希望を叶えるのに賛成だ。商人としてもやっていけるのに、騎士団長を目指すとは、君の力になりたい。いつでも話を聞こう。セイラも子供達に勉強を教えたいそうだ。公用語の読み書き計算などだ、許可してくれるかね」

「それは願ってもないことです。子供も読み書き計算が出来れば、仕事の幅が広がります。ぜひよろしくお願いします。学園長」

「うむ、君達の成績では騎士ではもったいないくらいだな。私も近隣の町に知り合いがいる。同じような仕組みを作るのは出来ることだ。ハザン君には代表になってくれないか?」

「『ハザン商会』の店を広げるということですか?まだ騎士にもなっていないのに良いのですか?」

「構わないよ、私の家の名誉も上がる。特例として認めよう。君はこれから責任者だ。卒業した後も関係を続けて行こう。セイラも騎士だけの目線で物事を捕らえて欲しくない。剣の腕だけでは解決できない問題もたくさんある。今回のことで孫娘も成長できるはずだ」

 孫娘の可愛さに負けているのではないかと思うが、いい機会などでカイルも誘ってみることにした。


「ちょうど良かった。親友に置いていかれると思っていたよ。僕も子供達の勉強を見るよ。それと、父親と母親が『ハザン商会』に入れないかと話してきてね。僕も手伝うだけでいいから雇ってくれないか?弟と妹が君の商品が気にいってね。セイラとも近づきたいし頼むよ、ハザン」珍しく親友から頼みごとが来た。

「君のお陰で学校にも馴染めた。力なら幾らでも貸すよ、カイル」

「ありがとうハザン君はいいやつだ。でも忙しいからってアリアを大切にしてあげないといけないよ。彼女はいつでも君を支えているから」

「そうだね、最近忙しくても話しているけど贈り物でもしてみるよ。いい助言ありがとう」

「一緒に『ハザン商会』を盛り上げて行こう。騎士になっても僕らは親友だ」

「君は家を継ぐのだろう。赴任先はどこだ?」

「あはは、もちろん君と同じだよ。元テファリーザ王国だ。商売もできるし鍛錬のために一緒について行くよ、親友だろ僕達、あの土地の住民を助けに行こう」

「カイル、君もいいやつだ、無理しなくていい。大国の騎士の方がいいじゃないか」

「自分で選んだ道だ、後悔はしないよ。セイラもそのつもりだよ。あれだけ強いと守りがいがあるよ」親友の笑みは大きく男として覚悟している表情だった。

 親友の成長とアリアとセイラに支えられている自分にはもったいない気がした。


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