第5話深窓の令嬢

 村長さんの家に帰った後、二人で事情を話すと、どういう訳か祝福された。村長さんも娘の気持ちは分かっていることだったらしい。町で店兼家を持つことも賛成された。娘がこんなに早く嫁に行ってしまうとは村長さんに泣かれてしまった。夫人はアリアを抱きしめておめでとうと話していた。好きあった同士一緒になるのはとてもいいことよと納得してくれた。町での新居は中古物件で探すらしい。お世話になりっぱなしで、しかも一人娘を嫁にもらうことになる男としては、村長さんの悲しみはわからないでもない。代々の当主の記憶と経験値は様々なことをいろんな角度から見ている。


「とりあえず、女主人に断りを入れて、薬草学の薬と革細工のお店の方を開こうと思います。物件は一通り覚えていますが潰れた道具屋がありました。住居もついているので改修すればすぐ使えると思います。それと、娘さんを必ず幸せにします、ぜひこれからもよろしくお願いします」

「まだ早すぎると思っていたがハザンも、ダヤンを失って悲しいのだろう。娘の明るさが救いになれば私は文句がない。明日物件を見に行こう、当面の運転資金はあるのか?学業とで疎かになってはいけないぞ。結婚式はどうする?村でやるのか、町の教会で上げるのか?」


「あなた、急ぎすぎですよ、二人はまだ子供でそれは早過ぎます。店が軌道に乗って、ハザンが学校を卒業して騎士の身分でもなればいいじゃないですか、優秀過ぎるくらいですし、いい夫になってくれますよ」

「そうだな、お前、ハザンなら大丈夫だろう。アリアで本当に良いのか、私達の子だ、ハザンも私達の子供になる。その意味がわかるか、結婚には賛成だ。だが、万が一娘を不幸にしたら許さないぞ。叩き出してやるからな」と嬉しそうに話す村長。

「もうお父さん、初孫楽しみにしていていいわよ」

 いつの間にか話が進んでいく。置いていかれている気分だ。


「今日は休みなさい、話は明日だ、アリアの花嫁衣裳を用意しなくては、今から楽しみだ」

「もう、気が早いのね、明日はお祝いしましょう。婚約の印に、ハザンも手伝ってね」

 夫人がお茶を入れて来て皆人心地する。

 それから二人は部屋に戻り勉強をしていると、アリアが部屋に遊びに来た。

「ハザンはどうして元テファリーザ王国で働きたいの?もっと良い就職先があると思うけど、大国の騎士団長とか、人並み外れて強いし、子度の頃から頭もよかったわ」

「そうだね、あそこの民は両国に引き裂かれて圧制に苦しんでいると聞いている。そんな民の救いの象徴になりたいのさ、損な役回りだけどね。アリアには迷惑かけるかも知れないけど、自分で選んだ道だから、最後まで役割を演じてみたいのさ」

「ハザンの奥さんになるから気にしてないけど、いい家庭にしましょうね、子供何人がいい?」顔を赤くした幸せそうな調子で聞いてくる。

「男の子と女の子の二人かな。アリアと結婚することは全然後悔していないよ、君を最後まで守って見せる」


「ありがとう、私もハザンのお嫁さんしっかりこなすからまた鍛えてね」顔を肩に乗せながらゆっくりとした時間を過ごす。寝室で別れて、アリアは一緒に寝たがったが、新居で一緒に眠ればいいだろう。カイルが聞いたらびっくりするだろうなと思いながら、当主の記憶を頭から引き出して、まず戦力を持たなければいけない、あの土地を奪還するからには、両国に分断された民に希望を見せなければいけない、強力な軍隊も必要だ。呪われ子として象徴に向いていないのはわかるが、それも民の現状を救いつつ計画しなければいけない、狂いだした国を元に戻すのは相当難だろう。しかし、やらなければいけない、あの土地はの土地なのだから。


 朝になり学校に通うと、いつも通り、授業を受けて親友のカイルに報告する。

「え、君達、結婚するのかい、確かにいい雰囲気だったけど、いきなりだね。店もやめて自分の店を開くのか住居込みで、先を行かれたなあ、ハザン、アリアおめでとう。ぜひ応援するよ。親友として何でも相談に乗るよ。卒業後は騎士団長を目指すのか、元テファリーザ王国だって、あの土地は困窮しているから、産業があればいい商売になるかもしれない。何かきっかけがあればいい方向に向かうさ、放課後物件の契約かな。僕も行っていいかな。ハザン正直君が羨ましいよ」

 カイルは興奮したように喋り出して止まらない。周りの生徒も来て話を聞いてくる。学校の担任が話を聞いて、許可を出してくれるほど信頼されていたので問題なかったが学園長に話を通すことになった。


 老年の紳士が学園長で町の名士でもある。

「君が噂のハザン君か、薬草学の薬助かっているよ、彼女がアリア君か、ふむ、似合いの二人だね、成績も全教科オールSとは学業も実技も問題なし。二人は同じ村の出身だったね。育ての親は死亡している。いいだろう。学校側としても結婚を認めよう。商売を始める気だね、君の作るものは芸術品のようだ。これからも頑張りなさい、ただ、一度依頼を受けてもらえないか?私の孫も優秀でね、しかし子供の頃から体が丈夫ではない、医者も見込みがないと言っている。学校に通えるほど、君の知識で回復することをお願いしたい」

 学園長は杖を握りしめ悔しそうだ。

「一度お伺いしましょうか、診たては出来ると思います。許可してくれた礼に滋養のある薬を調合してみようと思います」

「そうか!!ハザン君うちの孫は本好きでね、気が合うと思うよ。一度邸宅に足を運んでくれ、身体も治れば鍛えて欲しいくらいだ期待しているよ、君達の住む物件は私が手配しよう。学校が終わったら来てくれないか?」

 

「いいですよ、お伺いします。アリアもそれでいいかな?」

「いいけど、浮気しないでね、ハザン」何故かアリアは不機嫌そうに話す。

 後でカイルに聞いてみると、学園長の孫は深窓の令嬢である美人で有名だったからだ。

 準備をして、学園長と邸宅に馬車で送られる。カイルも当然の様についてきた。

 病人の私室に入ると本棚に本が埋め尽くされている。かなりの読書家だろう。大国の本も多くあって興味をそそられた。奥の天蓋付きの寝室に絹の寝間着で上半身を起こしている。

「あなたがハザン君?噂は聞いているわ、とても優秀みたいね、ごめんなさい、身体が弱くてあまり喋れないの、私の体を治せるかしら?子供の頃から本が好きで空想が好きで騎士に憧れているの、私にもなれるかしら」青白い顔の儚い美貌を持つ令嬢は尋ねてくる。


「咳をしていますね、肺が生まれつき悪いのですか?」

「体を動かすとすぐ熱が出るの、身体が根本的に弱いの」

 鞄から青い液体が入った小瓶を取り出す。

「一日三回朝、昼、夜これを飲んでください、身体を丈夫にして滋養の力に満ち溢れる薬です。大丈夫、身体を動かせるくらい良くなりますよ」

 代々の当主で医学知識を勉強研究している記憶と経験値の研鑽がある。数十代の当主の国を思う力と民を救うための研鑽は膨大だ、元々テファリーザ王国は民を救うことにかけてどこの国も負けないくらい開発研究している。当主達も厳しい情熱で国を支えていた。呪われ子の僕が生まれるまでは小国でも民も幸福だったのだ。大国の思惑に負けないように必死にかじ取りをして民を導いていた。呪われ子だけどあの国にとって僕は希望なのだと自分に言い聞かせている。霊薬を一口飲んだ令嬢がベッドから立ち上がる、信じられない様子で自分の足を見ている。


「お爺様、身体の底から力が溢れ出してくる。咳も出ない、身体を動かしていいかしら?」

「セイラ、本当に大丈夫か?顔色も良くなっているし、まるで健康体だ、ハザン君、礼を言う。君の薬の効果は本当に素晴らしい。セイラ、お客様の前だ、久しぶりに外でお茶にしよう」学園長は相好を崩して泣き笑いしている。よっぽど嬉しいのか、セイラを抱きしめている。彼女も抱き合って喜びを共感している。彼女は頬にキスをして、「一日三回これを飲めばいいのね、本当にありがとうハザン、あなたは最高の人よ、私騎士を目指してみるわ」

 美人に喜ばれるのは素直に嬉しい。アリアもカイルも拍手していた。その後外のテラスでお茶を飲み学校について話していたが、セイラは博学で今すぐにでも筆記は卒業できる実力を持っていた。騎士を目指す身として、剣や弓を教える代わりに勉強を教えてもらうことになり邸宅から村まで馬車で送ってもらった。物件は報酬として大きなお店兼家を譲ってもらうことになった。それからセイラの体は丈夫になり、学校に通うことになった。親代わりの村長さんと夫人はとても喜んでいた。女主人に断りを入れてやめることになり、引っ越しして荷物を解き、アリアと商店を開いて一緒に暮らしながら、学校に通う生活が始まった。


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