第3話 レベル上げは順調だけど



 独特の音楽が流れて、ものの数分でハズミンは見事にレベルアップ。HPとMPがちょっとずつ上がって、ステータスも微増してくれた。

 それからステータスボーナスが2P、スキルに振れるボーナスが同じく2P入る。


 弾美はずみは少し考えて、楽しい成長方針の計画を素早く決定する。ステータスは体力に2P全て振り込み、スキルは全く迷わず片手剣に2P振り込む事に。

 弾美の計画は、とにかくレベルアップの前半はステータス補正を体力に注ぎ込み、HPを増やして死に難くする。腕力や敏捷など、戦士に必要なステータスは後回しでも良い。


 スキルに関しては、取り敢えずは片手剣で問題ない。攻撃力も上がるので、敵の殲滅時間が速くなるのだ。それはつまり、敵の攻撃を受ける回数が少なくなると言う事。

 余裕があれば、回復系の魔法が出やすい、水か土のスキルを上げる。


 このファンスカのシステムでは、スキルを上げるという事は、技や魔法を覚えるという事と等しいのだ。ダメージ率にも影響するので、高いに越した事は無いが、何より楽しいのは10,30、50、70と10からは+20を超えると自動的に覚える、特殊技や補正スキル、そして魔法であろう。

 ただし、覚える特殊技の順番は完全ランダムなので、なかなか自分の望んだキャラには育て難かったりする。スキルのポイントはアイテムでも取得出来るので、思ったよりは上げやすいのだけれども。

 前もって対策を立てておかないと、使い勝手の良いキャラにはなってくれない。


 前衛戦士を目指すハズミンは、取り敢えず魔法系のスキル群――光や闇、水や炎スキルには用が無い。その点、回復手段がポーションしか無くて不便だが、レベルアップで貰えるポイントだけであれやこれや上げるのは、とても大変なのだ。

 一点集中上げが、やっぱり強いキャラを作る秘訣だろうか。


「わっわっ、囲まれたっ!?」

「……下手っぴ」


 弾美が取得ポイントを振り分けしていた隙に、瑠璃るりのキャラは不測の事態に陥っていた。ゾンビに絡まれたままスライムに突っ込んで、HPが半減したのにパニくって。

 ついつい虎の子のポーションを、早くも使ってしまった模様。これは妖精と一緒に、唯一最初に用意されていたアイテムである。

 そういう時に限って、アイテムドロップも渋かったり。


「……ポーション出ない」

「……お前、もうちょっと練習しろ」


 それから1時間余りは、ひたすらレベル上げしながらスライムの再ポップを待ちつつ。彼らが一定の割合で落とす、ポーション集めに終始して。

 ルリルリに限っては、敵に囲まれない練習を実地でしながら。ダメージを受けずに敵を倒すコツを、隣の弾美に教わっていたりして。


 30分もすればマップは完全コンプリート、エリアボスのいる昇降口も発見して。後はポーションが5個貯まったらボスに突入するぞと、弾美は瑠璃に通達していたのだが。

 ――何故だか、これがなかなか難しい。


「あ、ごめん……またポーション使っちゃった」

「……お前、もうその火の玉モンスターには近付くな!」


 このエリアの敵キャラは、どうやら雑魚のゾンビとスケルトン、その半分の生息数のスライムとコウモリ、更に一番数の少ない浮遊火の玉のみのようだ。後は、エリアボスの強そうなゴーレムが一匹だけ。

 ボスの強さは未知数だが、雑魚の中では火の玉が一番強い。


 それでもレベル5まで上がった二人のキャラなら、そこまで苦戦する筈は無いのだが。ハズミンの片手剣スキルは10に達し、めでたく最初のスキル《攻撃力アップ1》を取得した。

 このスキルは補正スキルと呼ばれるもので、セットするだけで攻撃時に常時発動する。下手な攻撃スキルを覚えるより使い勝手は良いと言えるが、瞬発性に欠けるのが難点だ。

 一気にガツンと削りたい時は、やっぱり攻撃スキルが欲しい所。


 一方のルリルリは、その瞬発力の高い攻撃スキル技《二段突き》を取得した。これはSPスキルポイントを消費して使用する技で、一気に敵のHPを削る力がある。

 ただし、前衛に慣れていない瑠璃にとっては、余計に混乱の元になってしまっているのが現状だったり。一度弾美に見本を見せて貰ってその破壊力には感心したが、所詮は元のダメージの低い細剣のスキル技。

 一撃で敵をほふるほどのパワーは、残念ながら無い。


 補正スキルも攻撃スキル技も、セット数に上限があるので、増えて行くに従って選択に頭を悩ませる事になる。普通は使い勝手の良いものを選択するが、狩り場や敵の属性によってセットを変更したりも出来る。

 今の二人の現状は、ひたすら数が増えるのを願っている段階だ。

 

「はやくスキル技出すのに慣れないと、お前マジでやばいぞ、瑠璃」

「うん、頑張る……あれっ? ハズミちゃん、変なの湧いてる」

「えっ……ぬおっ!?」


 ルリルリが苦労して火の玉を倒した後、ポーション回収目的でスライムの再ポップポイントに到着してみると。別ネームの一回り大きなスライムが、デンとその場に鎮座していた。

 明らかに先ほどの雑魚とは一味違う容貌は、どうやらNMノートリアスモンスターらしい。NMとは時間やら何やらの制限付きで、滅多にプレーヤーの前に姿を見せる事は無いレアモンスターの総称を指すのだが。


 そいつらは雑魚よりはるかに強くて、倒すのにも物凄く苦労するのだが。代わりに経験値も美味しいし、良いものをドロップする事も多い。

 そんな目の前の強敵は、プルプル震えてどこかユーモラス。


「NMじゃないか、行けっ瑠璃っ!」

「むっ、無理っ! 代わって、ハズミちゃん!」


 急に瑠璃のコントローラーまで持たされて、弾美は2つのコントローラーを手にあたふた。隣の画面に目をやれば、NMに知覚されたルリルリが、今にも襲われているところ。

 大慌ての弾美だが、それ以上に瑠璃もパニック状態の模様。


「バカ瑠璃っ、急に渡すなっ!」

「だ、だって私じゃ勝てないしっ!」


 とは言いつつ、見捨てる訳にも行かない弾美は、自分のコントローラーを投げやって臨戦態勢。咄嗟にスキル技の《二段突き》を使って、先手を取る事には何とか成功する。

 同時にチラッと、自分のキャラ画面も確認。大丈夫、近くに敵は湧いていない。


 NMのHPゲージは、スキル技を使用したにも拘らず、まだ余裕で8割以上残っていた。結構強いかもと内心感じつつ、瑠璃のキャラのSPゲージを確認。

 スキル再使用まで、まだもう少し掛かる感じである。


 弾美はそれを確認しつつ、突きを出しながら敵との距離を保つ。時たま酸を吐く攻撃は確かに強烈だが、モーションが大きいので慣れれば避けることが可能。

 スキル再使用可能と、ようやく便利ウィンドウの表示が知らせて来た。弾美は慣れないルリルリを操って、深く踏み込んで再びスキル技の《二段突き》を放つ。


 くっ付くほどの隣で、瑠璃がはっと息を呑むのが分った。キャラ操作が踏み込み過ぎて、こちらも浅くないダメージを受けてしまったのだ。

 だがそこは危険な酸攻撃ではなく、所詮は通常攻撃である。再び酸攻撃の前のエフェクトを確認して、ルリルリは華麗に危険エリアを脱出する。

 その途端、もの凄い範囲攻撃が来た。


「うわっ、うわっ!」

「うはっ、スライム油断ならないっ!」


 360度の、全範囲攻撃が炸裂。NMは特有の攻撃を持つものが多く、本当に油断ならないのだ。多人数で有利に戦闘してても、いつの間にか死人が出ている事も間々あるし。

 とは言え、素早く範囲外に逃げ延びたルリルリは全くの無傷でこれを乗り切っている。敵のHPゲージも、先ほどからの攻撃が効いてようやく残り3割。


 弾美はポーションすら使わず、スライムの残りHPを危なげなく削り切っての完全勝利。慣れない他キャラの操作でも、この安定感はさすがと言うか。

 さすがベテラン前衛キャラ持ち、これには瑠璃も大喜び。


「わ~、ありがとうハズミちゃん!」

「おっ、何か装備品を落としたなっ。俺も湧きチェックするから、暫くは乱心するなよ?」

「う、うん」


 酷い言われようだが、とにかく助かったのは事実である。瑠璃は再び受け取ったコントローラーを持ち直し、弾美に感謝しつつ戦利品をチェックする。

 至福の一瞬だが、自分の手柄ではないので喜びは半分くらい。


「指輪と水の術書と、中ポーションとお金をドロップしたみたい」

「おっ、こっちも発見! 指輪の性能は?」

「水スキルが+3と、精神力+1、あと防御力が1みたい」


 ほんの序盤の戦利品にしては、なかなかの性能である。水の術書は、使用すると水スキルが+1される。中ポーションは、中くらいの効き目のポーション。

 今のレベルのHP量だと完全回復してくれるので、ボス戦には有り難い。


 ハズミンの方も危なげなくスライムNM戦に勝利し、瑠璃と同じ戦利品を得たようだ。しかもレベルが6に上がっていて、一時間のプレイではまずまずの成長振りである。

 それを横目で見ていた瑠璃は、自分のキャラの経験値もチェック。先ほどNMを倒したせいか、こちらも後ちょっとで上がるとこまで来ていたようだ。

 これは思わぬ副産物、有頂天で弾美に声をかける瑠璃。


「あっ、私も後ちょっとで6に上がる! 上げちゃうから、待っててハズミちゃん」

「いや、ポーション7個も貯まったし、そろそろボスを倒さないか? ここにいる雑魚の経験値、もう完全に不味くなって来てる……」

「あ、後ちょっとだから……」


 確かにハズミンは7個も持ってるかも知れないが、こちらは小が2個と中が1個だけ。もっとも、ポーションを速攻(ボタン一発)で使うのは、ベルトポケットに入れておける分だけなのだが。

 つまりは、初期設定では3つが限界なのは分かっているのだけれど。


 ポケットから以外で使うには、いちいちアイテム欄を開かないと駄目なので、極端に遅くなる。だから、3つ以上持っていてもソロでのボス戦では事実上使用不可能に近い。

 瑠璃が引き伸ばしている理由は、強い敵に向かうのにひたすら自信が無いから。


 そんな思いの中、ルリルリも何とか雑魚を倒した経験値でレベル6へと到達出来た。敵が近くにいないのを確認して、待ってましたのボーナスポイントの振り分けを始める瑠璃。

 最初の数レベルは弾美に言われた通り、ステータスは体力に振り込むのは確定済み。何しろにわか仕込みの前衛なのだ、HPは多い方が良いに決まっている。

 その次にスキルを振り分けようと、スキル画面を見遣ると。


 細剣スキルは区切りの10で、水スキルは気付けば6になっていた。ルリルリは水属性でキャラ作成したので、最初から水スキルには3ほど振り分けられているのだ。

 そこに取得した指輪の補正が+3で、水スキルの合計が6になった訳だ。そういえばさっきのNMドロップで、水の術書を入手したっけ。

 レベルアップ間近が嬉しくて、すっかり忘れていた。瑠璃はアイテム欄を確認すると、何気なくそれを使ってみる。


 見事、スキル+2アップ! 属性というのは強力で、同属性の使用だと、たまにこういう事が起こるのだ。これでボーナススキルを注ぎ込めば、水スキルも区切りの10に達する事に。

 序盤のステージから、念願の魔法が覚えられるっ!


「む~ん、この突き当たりの血文字の場所なんか、いかにも怪しいんだよなぁ……。でも、同じエリアで2種類もNMは湧かないかなぁ?」

「ねえっ、ハズミちゃん……ルリルリに、水魔法覚えさせていいよね?」

「おっ、マジか……1面で特殊技と魔法を1個ずつ覚えるって凄いなっ!」


 ハズミンの方は、2匹目のドジョウを探しながら、目に付く雑魚を狩りまくっていた。雑魚キャラからはめぼしいドロップ品も無く、経験値も不味いとくれば、確かにこのエリアに留まる理由は既に無くなっている。

 瑠璃に付き合ってこのエリアに滞在しているが、どうやら弾美の我慢の限界も近い様子。長い付き合いから、焦れているのが瑠璃には良く分かってしまう。


 一方のルリルリは、ここ一番の引きを期待して、虎の子のボーナス2Pを水スキルに振り分ける。細剣スキルは既に区切りを迎えているので、今度は魔法を覚えようという目論見なのだけれども。

 ――と、チリチリンと軽快な音が鳴ってスキル取得の合図!


 《ヒール1》――念願の回復魔法である。瑠璃は思わず小躍りし、隣の弾美からもルリルリの成長に祝福の声。隣からモニター画面を覗き込み、おおっと声を上げる。

 水スキルは回復魔法が出やすいとは言え、そこはランダム取得の運が絡んで来る。必ず最初に出るとは、言い切れないのも確かなのだ。

 その運命の悪戯に、泣く事も間々あるのだ。


「おおっ、やったじゃん。これでボス戦も楽勝だなっ!」

「そ、そうかなっ? ……あれ、ハズミちゃんのモニター画面、また変なの湧いてる?」

「ぬおっ!」


 そこは先程、弾美が何か怪しいと踏んでいた突き当りの場所だった。ハズミンがポップ待ちで無防備に立ち竦んでいるその真横に、特殊な名前の一回り大きな火の玉が前触れも無く出現して。

 瑠璃のステータス画面を眺めていた弾美は、完全に虚を突かれた形に。慌てて戦闘態勢を取るハズミンに、襲い掛かる火の玉NM。固くてHPも豊富で、かなり強そうだ。

 傍目で見ていても、苦戦しているのが伝わって来る。


「こいつ、ひょっとしてエリアボスより強いかも!?」

「が、頑張れハズミちゃん!!」


 隣からの瑠璃の声援にも後押しされ、弾美は必死にハズミンを操る。片手剣が何度も青白い炎を薙ぎ払い、逆に火の玉は魔法でハズミンのHPを削いで行く。

 ステップ防御と言うこのゲーム独特の防御方法も、魔法にはまるで効き目が無い。その場で踏ん張る盾防御に対して、ステップ防御は打撃の攻撃を華麗に回避する防御なのだけれど。


 魔法はほぼ必中のこのゲーム、有効な方法と言えば詠唱を邪魔する事くらい。得意の戦法を封じられたハズミンだが、ガチの殴り合いもなかなかのものだった。

 ハズミンのポケットから、戦闘中に2度ポーションが使用されたモノの。3個目を使う前に、勝負はどうやら決した。敵NMを倒した瞬間、おめでとうと大きなログが画面を賑わせる。

 弾美は小さくガッツポーズ、瑠璃は手を叩いて喜んでいる。


「よっし、2匹目ゲット!」

「おめでとう~、ハズミちゃん! 何かいっぱいドロップしたよっ!!」

「おっ、本当だ……今回は、火のスキル関係が多いのかな?」


 ドロップ告知を見ると、ちょっと良い腕輪と火の術書、初期装備よりはマシなズボンとお金が少々入ったようだ。経験値も結構入って来て、そのせいでハズミンはあと少しでまたレベルが上がりそう。

 思わぬ誤算だが、ここまで来たら上げ切ってしまうのも手かも知れない。そう思い直しつつも、隣の瑠璃を確認すると。何か言いた気な感じで、こちらを見ている瞳と目が合った。

 幼馴染の勘と言うか圧が、それをひしひしと伝えて来る。


「強かったなぁ、こいつ……瑠璃、倒せそうか?」

「う、ううん……」


 いかにも自信のない表情で、恐る恐るコントローラーを差し出す瑠璃。何かの伺いを立てるように、弾美に上目遣いで語り掛けて来て。

 申し訳無さそうな素振りだが、そこは幼馴染の垣根の無さと言うか。多少の圧すら伺えてしまうのは、何と言うか悲しい宿命なのかも知れない。

 無言の会話は数秒続き、根負けした弾美は渋々コントローラーを交換。





 ――その日は結局、エリア攻略は出来ない2人だったり。








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