第38話 2人の未来がみえるまで
「渡辺さんのふられる原因が茨木さんのクラブのことが事情なのであれば、クラブのことを渡辺さんに伝える」
「ふられることを言うってこと?」
「いや、茨木さんと付き合う時にテニスの練習が2人で出来るといったメリットを言うんだ」
「それでどうなるの?」
「茨木さんが渡辺さんの告白を断った時、その事を渡辺さんが伝えることが出来ればおそらく成功するような気がする」
「渡辺さんが伝えるように仕向けたりもするの?」
「いや、それはもうしない。未来を視るのも今日は最後にするって言ったからな。だから、確実に渡辺さんに決めてもらう。結局付き合うのは渡辺さんなんだし、俺たちが出来ることはそれが最後だ」
「それで上手くいくかな?」
「行くさ。理由は特にないが、俺は信じる」
正直言って俺がこんなことを言う資格は無いのだろう。
俺たちが渡辺さんに告白をするよう仕向けたのに、告白自体は最後には丸投げ状態。
でも、どこかで信じなければいけない時がくるんだ。
未来を視て、それを成功するまでやり直す。
それで作り上げられた恋を果たして正解と呼べるのだろうか。
だからここが最後だ。
卜占部として渡辺さんを助けられるのは。
その後も2人をつけていたら、ショッピングモールの中にあるレストランに入っていった。
一応その事は既に梨花たちには連絡したので、直に来るだろう。
「おーーい」
噂をしたら来たみたいだ。
「2人は?」
「今サイゼにいるみたい」
「そうなんだ。それでさっき色々言ってたけど、結局キヨアキくんはどうするの?」
「とりあえず、もう一度渡辺さんと話したいことがあるから話す。それが終わればあとはもう見守るだけだ」
「ふーん。それで
「トイレを待つ」
「結局そうなるんだ!!」
文殊がいつもの調子で驚く。
その反応をしていただけると、こちらとしても気分が良いのでありがたい。
「あれ剛くんじゃない?」
タイミング良く渡辺さんがトイレに行くみたいだ。
「じゃあ、行ってくる」
本日2回目の渡辺さんとのトイレタイムだ。
「お久しぶりですね。渡辺さん」
「あれ。まだいたんだ」
「はい。ひとつ渡辺さんに伝えたいことがあって」
「なんだ?」
「渡辺さんがもし、茨木さんと付き合ったらクラブ以外の時間も一緒にテニスの練習できるなって思いまして。茨木さんの目標を達成するために一緒に頑張れるなって」
「……? 結局何が言いたいんだ?」
「告白応援してるってことですよ」
「おう、そうか。ありがとうな」
これは渡辺さんにしか言えないセリフだ。
普通に考えて、ここまで怪しいことを言われたら少しは疑うものだ。
こちらとしてもこの渡辺さんが告白を上手くできるかどうか不安だが、もう決めてしまったことだ。
「どうだった?」
「いや、特にどうだったもないけど。あとは告白を待つだけだな」
「渡辺さんって本当に告白するのかい。こんな事を言うのもあれだが、直前でひよりそうな気がするけど」
「そこは大丈夫だろ。俺たちが今日まで見てきて、中々イカれてて肝の座っている人だとわかっただろ」
「酷いけど、説得力がすごい!!」
その後2人が出てくるまで、俺たちは色々話をして時間を潰した。
レストランの中の様子を見に行く度に、外にあるサンプルケースにばかり目が着いてしまう。
仕方ない。結構お腹すいてるんだもん。
そして、結局2人が出てきたのは18:30。
1時間ほど経ってからだった。
「やっとでてきたよ」
「会話が弾んだんだろな。いいことだろ」
「お腹すいたー」
「それは分かる」
その後も俺たち4人は2人の後を追っていく形になった。
競馬場近くの大きい橋を渡る。綺麗な夜景が見え始めた。
たしかにここら辺から見る景色と未来で視た景色が似ているように思われる。
やっとここで終わるんだという実感がしみじみと感じられた。
「ここから告白するのかな?」
「私の予想当たってたじゃん」
「さっき文殊が言ってたのってここのことだったのかよ」
「なんでわかんないの?」
「いなかもんだからな」
「それより、告白本当にドキドキするなあ。私までむちゃくちゃ緊張しちゃうよ」
「おい、無視するな」
露骨な精神的暴力をしてくるんじゃない。
たしかにつまらないボケだったけど。
俺たちは橋を抜けて、公園へと着いた。
ここはかなり暗く、川を挟んだ先にあるオレンジ色の夜の景色が綺麗で映えている。
「この公園むちゃくちゃ静かだね。これ以上近づいたらバレちゃいそー」
ガタンゴトン。
「モノレールの音超うるさいなー」
確実に良い雰囲気をぶち壊しかねない邪魔者が存在していた。
まあ、俺が未来を視た時にはあんなのなかったはずなので多分大丈夫だと思うが。
「見て。2人とも歩くのやめたよ。聞こえるくらいまで近づこうよ」
ついに来た。
ここから見える景色。
先程まで通ってきた橋などの景色全てが視た未来と変わらない。
「あのさ、1つ言いたいことがあるんだけど」
「何、どうしたの?」
「ずっと前から好きでした。俺と付き合ってください」
「え、」
……。
「ごめん。私今はクラブのこととか頑張ってて忙しいし、もし剛くんと付き合ってもそういう時間作れないかもしれないから多分剛くんに嫌われちゃうかもしれないし。今は剛くんと付き合えない。ごめんね」
梨花が「嘘……どうするの?」と聞いていたが、それに対して俺はただ静かに聞くように促す。
ここからだ。
俺が知らない未来であり、俺が渡辺さんに託した未来が今から始まるのだ。
「え……あ……うえ」
やばい。絶望的だ。
「だ、大丈夫? ごめんね。友達のままではいたいんだけどそれじゃダメかな?」
「……ダメって言ったらどうする?」
「え?」
「俺が茨木さんと付き合いたいのはデートしたいとかそんなことだけじゃない。もちろんそれはあるけど、1番は一緒にいたいから。今までみたいに友達としてだって一緒にいれるかもしれない。でも、これからは恋人として2人の時間を過ごしたい」
「もし、茨木さんの今付き合えない理由が来月の大会のことなんだったら、俺が練習相手になる。茨木さんが満足いくまで、俺は手伝いたい。それは俺にとっても幸せだし……。俺じゃ力不足かな?」
茨木さんは「ふふっ」と吹き笑いを見せて、お腹を抱えてどっと笑いだした。
「本当に剛くんには敵わないな。力不足ってどっちの意味で?」
「それはどっちもの意味で」
「剛くんは本当にずるいね。いつも、っていうか今日もだけど、あんなにむちゃくちゃなことしといて、大事な場面ではバシッと決めちゃうんだもん」
涙が流れないように手で目をなぞる。
その涙は果たしてどういった感情での涙なのかは分からない。
でも、その涙が綺麗な景色の明かりに照らされてとても美しく輝くように見えた。
「分かった。こちらもお願いします」
「ホント?」
「ほんとだよ。ホントに決まってるじゃん」
俺たちは2人にきづかれないように、告白の成功を祝福した。
今日一日中卜占部としてしてきた行動が2人を結びつけてくれたのだろう。
いや、それだけでは無い。
渡辺さんの最後の言葉があったからこそなのだ。
俺たちは今日を振り返るように、水族館の駐輪場へと踵を返した。
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