Prologue

別れの季節

 桜舞う季節は、出会いと別れのときだ。

 ただ、俺にとっての桜はどうしても、別れのシンボルにしか成り得なかった。

 桜の色は、どんな綺麗な色だっただろう。

 今の俺には、もうそんなことすら曖昧で。


 自らの境遇に絶望し、何もかもに逆らっていた時代。

 俺は大きな過ちを犯し、その代償は自分だけでなく、周囲の存在をも巻き込んで返ってきた。

 心の底から悔しいと思ったそのとき。

 同時に、俺自身の浅はかさも痛感させられた。


 馬鹿な自分と訣別したあの日。

 俺は自分の大切なものも置き去りにしてしまった。

 だけど、それを止めときゃ良かったと思ったことは一度もない。

 ただ一つ、心残りがあるとすれば……『ありがとう』くらいは、聞きたかったか。


 ほとんど死に場所を求めるようにしてやってきた、この小さな街。

 俺は半ば強引に助けられ、暮らしていくことになった。

 そして、街で出会った仲間たちは俺に再び生きる活力を与えてくれ。

 こんな自分でももう少し頑張ってやるかと思えるようになった。


 だからまあ、消えるはずだった人生の残りは。

 俺を大切に思ってくれる新しい仲間とともに。

 平々凡々と過ごしながら、いつかは許そうと思ったんだ。

 誰かの『ありがとう』で、全てを清算しようと思ったんだ。


 なあ、お前は今、色鮮やかな世界に生きているだろうか。

 もう苦しんではいないだろうか。

 誰かに傷付けられず、誰かにごめんなんて謝らず。

 お前が歩きたい道を、しっかりとその目で見つめて歩いていけよ。


 俺はこの箱庭から、ただそれだけを――願っている。

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