第10話 どう接すればいいのかわからない~グリム視点~

騎士団に着くと、デービッドが俺の方に走って来た。


「なんだ、グリム。来たのかよ。もしかして、マリアンヌ嬢に逃げられたのか?」


ニヤニヤしながら俺に話しかけてくる。どうしてこいつは、そういう発想しか出来なんだ。


「いいや、さっき婚姻届けを記入して、正式に夫婦になった」


「それじゃあ、なんでお前は騎士団に来ているんだよ!マリアンヌ嬢の側にいてやれよ」


「俺がそばに居たら、マリアンヌ嬢が安らげないだろう。とにかく、俺は彼女に快適に暮らして欲しいんだ。その為にも、俺がそばに居ない方がいい」


「あのな。お前たちは夫婦なんだぞ。一緒にいなくてどうするんだよ」


「うるさい!お前には関係ないだろう!俺は仕事をするから、お前もさっさと仕事をしろ」


デービッドを怒鳴りつけ、仕事場に向かう。でも、やっぱりマリアンヌ嬢の事が気になって、仕事にならない。マリアンヌ嬢、嫌な思いをしていないだろうか?俺と結婚したことを、後悔していないだろうか?


クソ、気になって仕方がない。


結局その日は、大急ぎで仕事を終わらせ、家路についた。家に着くと、クリスやメイドたちが出迎えてくれる。そして、遅れて彼女も出迎えてくれた。



「おかえりなさいませ。お出迎えが遅くなり、申し訳ございません」


そう言って頭を下げる彼女。別に謝ってもらう必要は無い、君はいてくれるだけで、俺は幸せなのだから!なんて言える訳がない。急いで自室に戻り、着替えを済ます。


「クリス、彼女の今日の様子は?」


早速クリスに確認をする。


「はい、今日は専属メイドと一緒に、屋敷を見学されていらっしゃいました。マリアンヌ様は、バラとラベンダーがお好きとの事だったので、早速庭師がバラとラベンダー園を作っております」


「そうか、彼女はバラとラベンダーが好きなのか。出来るだけ彼女の意向を聞いて、作る様にしろよ。他には何か変わった事はあったか?」


「いいえ、特にありませんでした。他の使用人とも楽しそうに過ごしておられましたので、問題ないかと」


「わかった」


とにかく、彼女はそれなりに楽しそうに過ごしている様だ。


着替えを済ませ、食堂に向かうと、既に彼女が待っていた。きっと俺なんかと一緒に食事を摂るのは、苦痛だろう。そう思い、できるだけ急いで食事を済ます。でも何を思ったのか、彼女が話しかけてくれたのだ。


正直どうしていいか分からず、ぶっきらぼうに答えてしまった。あぁ、どうして俺はこんな風にしか答えられないんだ。きっと彼女は、嫌な思いをしただろう。せっかく話しかけてくれたのに…


結局その後、無言のまま食事を済ました。そして自室に戻り、領地経営に関する仕事をこなす。


「旦那様、今日は初夜ですよ。本当に奥様の元に向かわなくてもよろしいのですか?」


「ああ、構わない。きっと彼女も、俺の事など待っていないだろうから」


本当は俺だって、彼女に触れたい。でも…とにかく今は、彼女が嫌がる事はしたくないのだ。ただでさえ彼女はこの1年、辛い思いをして来たのだから…


結局その日は、夜遅くまで仕事をこなした。


翌日、いつもの様に朝食を採る為、食堂に向かう。朝からマリアンヌ嬢を見られるなんて、幸せだな。そう思っていたのだが…


「旦那様、奥様は寝不足の為、今日は1人でお召し上がりください」


クリスが俺に報告してきた。寝不足だと!


「寝不足とは一体どういう事だ?」


「私にもよくわかりません。ただ、メイドの話しですと、夜更かしをしてしまったとおっしゃられていたそうです。夫婦の寝室に関しても気にされていた様なので、もしかしたら旦那様が来るのを待っていらしたのかもしれませんね」


「そんなはずはない!俺を待つなどあり得ない!」


「あなたにとってあり得ない事でも、通常夫婦とは初夜を行うものなのです。たとえどんな相手だったとしてもです!」


クリスに強めに言い切られてしまった。確かに俺がどんなに恐ろしくても、あの子なら覚悟を決めて待っていてくれたのかもしれない。でも…


一気に食欲がなくなり、ほとんど食べないまま騎士団へと向かった。


「デービッド、お前に相談したい事があるのだが…」


「ギャァァァァ!そんな恐ろしい顔で急に現れるな。びっくりするだろう」


「親からもらった顔だ。いい加減慣れろ」


相変わらず失礼な男だ。まあいい。


「実は今朝、マリアンヌ嬢が寝不足の為、朝食の時姿を見せなかったんだ。それで…その…」


「あ~あ。可哀そうに。一晩中お前を待っていたんだな」


「やっぱり、お前もそういう発想になるのか?」


「当たり前だろう。たとえお前が恐ろしい顔をしていようが、それを承知で嫁いできているんだから。あ~、でも、逆にホッとしているかもな。これで夫婦の営みを回避できるって。お前、自ら彼女に触れられるチャンスを棒に振ったのか。アハハハハ、バカだなぁ、本当に」


うっ、こいつ。俺の傷つく事をズケズケと。それも腹を抱えて笑ってやがる。


ギロリと睨むと、さすがにまずいと思ったのか、さっさと仕事場に向かって行ったデービッド。クソ、デービッドめ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る