第2話【魔王様の勝負パンツは真紅色】

「おぉー! なんという絶景じゃー! 人がゴミのようじゃ!」


 大型ショッピングモールのエントランスホールを、興奮した様子で見下ろす彼女、改め魔王様。


 とりあえず希望通りやってきたのはいいが、せっかくなのでただ美味しい物を食べるだけでなく、この際彼女の衣類を一通り揃えることに決めた。


 現状の彼女の格好はというと、ワイシャツにジーパン姿という、とんでもなくシンプルでラフな姿。

 とてもじゃないがこれではデートの服装というより、これからアルバイトに向かう女子高生みたいだ。


「......うーむ、服の種類は悪くないと思うんじゃが、いかんせん色合いが弱々しいというか」


 試着室。

 着替えを終えカーテンを開けて現れた彼女は、白地に謎の外国人の顔イラストが書かれたティーシャツに、スカイブルーのチノショーパンツスタイル。


 はっきり言って、JCの私服みたい。


 まぁ、胸が大きいのでJCに間違えられることはなさそうだが......イケナイ色っぽさを感じるので、即チェンジしてもらった。


「......わらわ、一応異世界では魔王をやっていた身なんじゃが。こんなお姫様みたいな恰好はどうも性に合わないというか、ムズムズするな」


 次にまとった服装は、白と黒のブラウス。

 胸元に付いた大きな白いリボンが特徴的で、それでいてしっかりと品もある。


 が、本人がどうもこの服に対して苦手意識を持ってしまっているようなので、泣く泣くチェンジ。


「......これはいいのう! 機能性と美しさを兼ね備えていて、わらわの着る物に相応しい一品じゃ!」


 最終的に彼女がもっとも気に入った服は、黒の半袖シャツにリボン、紫ベースのチェック柄のプリーツスカート。


 いわゆる『JKの制服』っぽい服装だ。


「街中でこれによく似た服を着たメスに何度かすれ違ったことがあったが、皆堂々としていて、不思議なオーラをまとっていたのが気になってな。一度着てみたいと思っていたのじゃ」


 彼女は大変気に入った様子で、鏡の前で何度もクルクル回ってみせた。

 異世界の女性、しかも魔王様目線で見ても、JKの制服というものはそこまで魅力的なものだったのか。


 恐るべし! JKの制服の魔力!


「お前、わらわのあまりの美しさに見惚れておるな? そう隠さなくともよいぞ」


 結果、彼女は元の服装には着替えず、そのままの格好でショッピングを続行することに。

 機嫌良く鼻歌交じりにショッピングを堪能する彼女に、なんだか学生時代に戻ったような気分になって、どうにも気分が落ち着かない。


 ――だが、こんなことくらいで動じるわけにはいかない。


 次に向かう場所こそが、今回のショッピングモールデートの最大の山場。


 男性にとってもっとも形見が狭くなるお店。

 

「ここは――下着売り場じゃと!?」


 次の買い物の目的地に到着すると、彼女は目を丸くして驚きの声を上げた。


「ダ、ダメじゃ......お前とわらわはまだそのような関係ではおらん。こういうのはもっと段階を踏んでじゃな......」


 どうやら何か盛大な勘違いをしているようで、頭から煙が出そうな勢いで顔を真っ赤にし、両手を前に突き出して左右に振っている。


 俺はただ、いつまでもコンビニで適当に買った下着を着させておくのは可哀そうだと思っただけなんだが。


 それに下はともかく、上は少しでもサイズが違うとあまり体に良くないとも言うし。


「なんじゃそういうことか......わらわはてっきり......いや、何でもない」


 理由を知った彼女は、がっかりしたような、どこかほっとしたような表情を浮かべる。


 そして店員さんにサイズを測ってもらっている間、俺は売り場付近に設けられた休憩スペースで帰りを待つことにした。

 外から売り場を眺めてみると、意外なことに男女で下着を選んでいるカップルが多いのに驚くこと20分。


「待たせたな! わらわにジャストフィットする下着を買ってきたぞ!」


 やってきた時に浮かべていた羞恥に溢れた表情は影も無く、すっかり彼女の機嫌は元に戻っていた。


「お前、わらわが何色の下着を買ったか知りたくはないか? 見事当ててみせたら、今度わらわが添い寝してやろう」


 ニヤニヤとからかうような笑みで問いてきたので、俺は彼女に合いそうな色を適当に口に出してみた。


「え......どうしてわかった?」


 抱えていた、今買ってきたばかりの紙袋をポトリと落とし、頬を朱に染めた。

 

「魔王といえば黒のイメージが強いから、多分それかなじゃと......お前、わらわのことがよくわかっておるな」


 目を細め、彼女は可愛らしいはにかみ顔を見せた。

 言葉遣いは魔王様なのであれだが、少しは信頼されているようでなんだか安心した。


 なかなか彼女が足元に落とした紙袋を拾うとしないので、代わりに俺がそれを拾おうとしゃがんだ時だった。


 立ち上がろうと見上げた俺の視界に、ひときわ目立つ、真紅の物体が飛び込んできた。


「!!!???」


 真紅の物体への視線に気づいたらしい彼女は、慌ててスカートの中を隠すように抑えた。


「これは、その......今日みたいな勝負の日に履くと良いと、店員が言っておったのでな。試しに履いてみたのじゃが......なんというか、段々ムラムラした気分になってくるのう......」


 それはこっちのセリフです! と言い返したいのをそっと胸の中にしまい、俺は今すぐ黒い下着に着替えてくるようお願いした。

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